政略結婚をざまぁ退場したら昔馴染み二人から過保護に溺愛されてます!?

中洲める

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17話 お仕事は楽しい

17

 翌日から仕事が始まったんだけど、やっぱり楽しい。
 昨夜のことは、まだうまく言葉に出来なくて、とりあえず頭の片隅にそっと置いておいた。
 だって、わからないことを考えても上手く行かないのは分かっている。
 だからきちんと勉強してから答え出したい。

 それはそれとして仕事がしたい!

 もう平民になったから平民棟の方へも行った。
 中庭に出て左の扉を開けて入ると、正面に厩舎中央に長方形の奥行きが長い浅い温泉があって、中央に長いテーブルが設置されている物があった。
 大き目の屋根がついているから雨でも雪でも使えそうだ。
「あれは何?」
 ヨランに説明を求める。
「あれはあの縁に腰掛けて、足をつけて楽しむ足湯というものです」
「宿泊まではしなくても、休憩で立ち寄ってあそこへ足をつけて食事などしてから旅立つことも可能なんだ」
「足を……」
 何それ初めて聞く。
 そわそわしているとセドリックが小さく笑った。
「入りたいのか?」
「うん!」
 今は誰もいなくて、使い方の見本が知りたい。
 むしろ自分が味わいたい。
「じゃあ入りましょうか」
 僕を誘導してテーブルへ合わせるように少し高くなっている縁に座らせて、足元に跪いたヨランが靴を脱がせズボンを捲ってくれる。
「どうぞ、足だけつけてみるといいですよ」
 あんまり自然にヨランがしてくれたから、やってもらってしまった。
 自分でやるべきだったと思いつつ、言われた通りくらはぎのはんぶんくらいまでの浅いお湯の中へ入れた。

「あったかい、きもちー……」
 なにこれ。
 全身浸かるのとはまた違う気持ちよさがある。
「ここに足を浸して酒を飲んだりするとまた格別なんだよな」
「なにそれ、すごくやりたい」
「ここはお客様用なので、需要があれば中央棟のエントランスにでも作りましょうか?」
「欲しい!」
 へへへ、そしたらみんなで足をつけながらお話できるじゃーん。

「すごいね、どこから発想したの?」
「足を洗わせて欲しいという要望もあるのですよ。でしたらもういっそ足だけ温泉にでも浸かっていただきましょうと」
「湯は常に流れていて入れ替わるから、夜にテーブルをどかして底をブラシで擦れば清潔さは保てるんだ」
「なるほど、やっぱりみんなは凄いねぇ」
「あなたが教えてくださったんですよ。創意工夫と発見発想は武器になると」
「それを実行できるだけでもすごいんだって」
 実際伯爵家では何も成されていなかった。
 あそこは停滞と怠慢しかなかったもんな。

「ルーク様、飲み物はいかがですか?」
「もらいまーす」
 机に体を預けてだらだらしていたら、コックのミックが飲み物を持って来てくれた。

 グラスに入れられたオレンジの飲み物は、果実ジュースのようだけれど、なんだか泡でしゅわしゅわしていた。
「これは?」
「近くに泡の沸く湧き水があるんです。最初は砂糖を入れたり温めてみたりしたんですけど、どうにも癖が残ってしまって。果汁で割ったらようやく飲みやすくなったんです。どうぞ飲んでください」

 ミックに勧められて口をつけると、舌の上でパチパチと弾ける触感が楽しい。
 爽やかで、甘い果汁がスルスルと喉へ落ちていく。

「名物として売ろうと思っていますがどうですか?」
「あそこの売店でも売るつもりだ。ここで飲んでもらうように」
「いいと思う! このパチパチしたのでお酒とか割ってもおいしそうだねぇ」
 ウイスキーとか、ロックで飲む場合が多いけれど、これで割ったら刺激的でおいしそうだと直感的に思った。
「酒か」
「確かに、ミック」
「昼からお酒は駄目でーす」
「チッ」
 提案する前に却下されて、セドリックが拗ねる。
 
「その辺の試作はまた今度しようか」
「収拾がつかなくなりそうなので、人選を慎重にしないとですね」
「俺は絶対参加する」
「わかってるよ」
 ゆったりと過ごしながら気心の知れた人と会話するだけで、これほど気がほぐれるなんて初めて知ったよ。

 僕は知らないことばかりだなぁ。

「ルーク、寝るなよ? いや、寝てもいいか」
「そうだな、俺たちが運べばいいですし」
「えー、まだ平棟見てない。大浴場見たい。入りたい」
 平民棟と外で呼ぶのはあまり聞こえが良くないので、平棟と呼び名を変えた。
 温泉を楽しむ場所に、わざわざ身分の段差を持ち込みたくなかった。
「大浴場はこの時間ルークは入れないぞ」
 セドリックに釘を刺されて慌てて体を起こす。
「え、なんで!?」
 入る気満々だったのに!
「ルーク、あなたのようないかにも高貴な方が湯着をまとっていても、お客様が委縮します」
「僕は平民だってば」
「そんな優雅な仕草の平民がいるわけないだろ」
「なんでぇ……」
「どうしてもなら、深夜の掃除の前に一緒に行きましょう?」
「その時なら入っていい?」
「はい」
「やったー!」
 はぁ、楽しいなぁ。


 中央棟を背にして足湯へ入っていると、右手奥に長屋のような建物があり、そこが平棟だと教えてもらった。
 僕から見て平棟の少し手前側に、平棟から廊下で繋がった食堂と売店が並んでいる。
 なるほど、平棟側から入ったら食堂はここと繋がってたわけか。
 平棟と中央棟の隙間には大きなリネン室があって、入浴で出た洗濯物や、部屋から取り替えたものは全てそこで洗って干しているんだって。
 晴天時は外で、雨天は室内干しが出来る。

 部屋の内装は少し広めの部屋に大きなベッド、ソファとテーブル。
 それからベランダにも椅子とテーブルが置かれていた。
 室内に風呂はなく、トイレも共同だ。
 一人用の部屋が三。多人数用が七だ。ベッドの数に合わせて割り振りがされる。
 一番数が入れる部屋は二段ベッドを含め六人が宿泊できる。
 それ以上入りたい場合は追加料金で布団を出すが、ぎゅうぎゅうで宿泊したい人はあまりいないみたい。

 足湯の正面にはいかにもこれから何かをしますって感じの、屋根付きの空きスペースが広がっている。

「あそこは何で隙間があるの?」
「いつか商人がここで商売をしたいと言ってきた時のための空きスペースだ」
「一画を時間で貸す予定です」
「色々考えてるねぇ」
 僕も負けていられない。

 でも、足湯が気持ちよくて出たくなーい。

 ぱちゃぱちゃと足でお湯をかきながら、貰ったジュースを飲む。

「はー贅沢。温泉すごーい」
 楽しくだらだらしていると、新しいお客様がやってきた。
「こんにちはー、お兄さんたち、足湯していかなーい?」
 陽気に声をかけると、僕を見てびくりとしたけれど、恐る恐る近づいてきた。
「それ足湯っていうの?」
「そうそう、これ温泉なの。ここのお湯は疲労回復にいいよー?」
「そうなの? 少し休憩したくて寄ったんだけど、宿泊まではって思ってたんだ」
「一緒に入ってもいいの?」
「どうぞどうぞ」
 ヨランが二人に入り方を説明しに行く。

「これさ、テーブルか座るところに看板とか入り方を出しておけば、良さそうだね。都度説明するの大変そう」
「確かにそうだ。今までは足を洗いたいと希望する客を誘導する場所になってしまっていて、もったいないと思っていた」
「そうしたら説明いらずで、自由に使ってもらえそうだな」

 ヨランに説明を受けた二人は、足だけおそるおそる足を浸し、気持ちよさそうに息を吐きだしていた。

「ね、気持ちいいよね?」
「はい」
「俺こんなの初めてです」
 兄弟なのか、よく似た顔立ちの二人は楽しそうに足湯を楽しんでいる。

 自分が好きな物を受け入れてもらうのは嬉しいことなんだと、その日はヨランが止めるまで足湯を楽しんだ。

 足湯利用者が、その日だけでも何組かやってきた。
 そして「飲み物が注文できます」という立札に、みんなが絵を描き足してくれたお陰で、少しずつ注文も入るようになった。
 うっかり文字でメニューを並べようとした僕に、「平民は字が読めない者も多いから絵の方がいいです」とヨランが提案してくれて、絵が得意な子を呼んで来て描いてもらった。
 みんなで作ってるって感じがすごく楽しくて、父から与えられた仕事や伯爵家でやっていたものとは違い、とてつもない満足感を味わえた。

 

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