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4話 なんか、安心する
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温かい。
もっと感じたくてすり寄ると、包まれてもっと温かくなった。
「きもち、い……」
重なる心音が安心感を与えてくれて、また眠くなる。
「まだ寝ていていいですよ」
柔らかい低い声が降ってきて、優しく頭を撫でられると抗えず眠りに落ちていく。
けれど、眠ってしまったら。
起きたらこの幸せな夢が終わってしまう気がした。
「どこにも、いかないで……」
掴んでいるものがなんだかわからないけれど、とにかく傍に居てとぎゅっと握り込む。
「あなたが目覚めるまでここにいます。だから安心して眠りなさい。もう大丈夫です」
背中を優しく撫でられて、力が抜けていく。
そっか、もう大丈夫なんだ。
怖いことはもうない。
大きな温かい手は信じることができる。
「うん……」
温もりにすり寄るように体を寄せて、俺はまた眠りに落ちた。
誰かの息遣いが、すぐそばにあった。
体が温もりに包まれている。誰かがすぐ傍にいる。俺はその正体を確かめたくて、ゆっくりと瞼をこじ開けた。
「……」
目を開けると物凄いイケメンが俺を見つめて微笑んでいた。
「よく眠れましたか?」
「……はい」
「そうですか」
ふわりと微笑む顔があまりにも格好良くて、思わず見惚れる。
夢じゃない。
俺は、助かったんだ。
でも、この人を信じていいのかという気持ちも湧き上がる。
でも……。
じっと顔を見つめていたら、俺を気遣うように見つめて来る。
優しいアメジストみたいな瞳。そこに映るのは純粋な心配だけだった。
この人は信じていい。そう、思えた。
「お腹は空いていますか?」
聞かれた途端、腹の虫が鳴いて勝手に返事をした。
「空いているみたいですね。食事にしましょう」
くすくすと笑う声が耳に心地よい。
……本当に、きれいな人だ。
一つ一つの仕草が上品で、貴族ってきっとこういう人のことを言うんだろう。
所作に視線が自然と吸い寄せられる。
「起きましょうか、それともまだ寝ますか?」
「起きます」
ようやく自分が置かれている状況を確認して、体が強張った。
俺、この人に抱きしめられてた。
心臓が跳ねる。顔がみるみる熱くなる。
「え、なんで!? 俺を……!?」
まさかこの人、変態……?
「違います。自分の手をごらんなさい。抱き着いてきたのはあなたですよ」
彼は小さくため息をつく。その仕草ですら絵になるのが腹立たしい。
毛布をめくると、俺の手が彼の服をしっかり握っていた。
握っていた部分はぐしゃぐしゃに皺になっていて、慌てて放す。
これは伸ばしても取れそうにない……。
「ご、ごめんなさい……」
「安心できたのなら、それでいいですよ」
穏やかに微笑んで、俺の頭をくしゃりと撫でた。
「すげー、かっけぇ」
最初に出会った場末ホストとは雲泥の差だ!
……完璧すぎてちょっと惚れそうなんだけど!?
……いやいや、何考えてんだ俺。助けてもらっただけじゃないか。
そういえば昨日この人に出会わなかったら俺、どうなってたんだろう……。
化け物は倒せていたけれど、もう精神は限界だった。
この暗い森の中で気が狂っていたかもしれない。
助けられたのは命だけじゃない。きっと心もだ。
まずはお礼を言って、名前を名乗らなきゃ。
俺は姿勢を正し頭を下げた。
「俺、神代拓真。拓真って呼んで。助けてくれてありがとう」
「いいえ。あなたが諦めなかったから、今ここにいるんですよ。私はナイア・バーゼル。ナイアとお呼びください」
ナイアさんっていうのか。
名前を知れたのがなんだか嬉しかった。
「タクマ、痛いところはないですか? 歩けますか?」
拓真の名前の響きが聞いたことのない音で、もっと聞きたい。
そんなことを思いながら頭を撫でてくれる手に身を委ねる。
「うん! 大丈夫、元気!」
「では行きましょう」
ナイアさんが、少し安心したように目を細め、俺の手を引いてテントを出て行く。
手を繋ぐっていうのとはなんか違う感じで、歩調を合わせて歩いてくれるのがなんだかむず痒い。
エスコートっていうのか? これ。
でも、嫌じゃない。
「ねぇ、ここどこ? 日本じゃないよね?」
薄々分かっていたけど、本当に異世界に来ちゃってるんだ。
外は相変わらずの森だったのに、一人でいる時よりなんだか明るいし、優しい感じがする。
「ここは魔の森ですが、あなたが来たと言っていたロアーム国側ではなく、森を挟んだアーデル国のグラフィカ辺境寄りの場所ですね」
話した覚えのないことを知っているナイアさんを見上げた。
「俺、言いました?」
「言いましたよ? 大泣きしながら」
「う、忘れてください」
うっすら昨日の記憶が蘇る。
「質問にもきちんと答えられて、いい子ですね」
色んな事が起きすぎて、とても限界だった。
少し優しくしてもらったら、我慢していた色々が決壊してしまったんだ。
「昨日のあなたはとても勇敢で、そしてとても愛らしかったですよ」
からかうように笑われて、丁寧だけど本当はちょっと意地が悪い人なのかなって思った。
けど、嫌じゃない。
「さぁ、まずは食事にしましょう」
「!? いい匂い!」
向かった先には騎士みたいな恰好をした人たちが焚火で料理を作っていた。
漂うスープや肉の焼ける香りが食欲を刺激する。
俺、生きてるんだ。
そんな実感が胸を満たす。
空いていた椅子に座らせてもらって、騎士さんが差し出してくれる器を受け取る。
温かい、食事。
涙が出そうだ。
「さぁ、お腹いっぱい食べてください」
「はい!」
微笑まれて、この世界に来て初めて、生きてると思えた。その温かさを噛みしめながら、俺は力いっぱいうなずいた。
もっと感じたくてすり寄ると、包まれてもっと温かくなった。
「きもち、い……」
重なる心音が安心感を与えてくれて、また眠くなる。
「まだ寝ていていいですよ」
柔らかい低い声が降ってきて、優しく頭を撫でられると抗えず眠りに落ちていく。
けれど、眠ってしまったら。
起きたらこの幸せな夢が終わってしまう気がした。
「どこにも、いかないで……」
掴んでいるものがなんだかわからないけれど、とにかく傍に居てとぎゅっと握り込む。
「あなたが目覚めるまでここにいます。だから安心して眠りなさい。もう大丈夫です」
背中を優しく撫でられて、力が抜けていく。
そっか、もう大丈夫なんだ。
怖いことはもうない。
大きな温かい手は信じることができる。
「うん……」
温もりにすり寄るように体を寄せて、俺はまた眠りに落ちた。
誰かの息遣いが、すぐそばにあった。
体が温もりに包まれている。誰かがすぐ傍にいる。俺はその正体を確かめたくて、ゆっくりと瞼をこじ開けた。
「……」
目を開けると物凄いイケメンが俺を見つめて微笑んでいた。
「よく眠れましたか?」
「……はい」
「そうですか」
ふわりと微笑む顔があまりにも格好良くて、思わず見惚れる。
夢じゃない。
俺は、助かったんだ。
でも、この人を信じていいのかという気持ちも湧き上がる。
でも……。
じっと顔を見つめていたら、俺を気遣うように見つめて来る。
優しいアメジストみたいな瞳。そこに映るのは純粋な心配だけだった。
この人は信じていい。そう、思えた。
「お腹は空いていますか?」
聞かれた途端、腹の虫が鳴いて勝手に返事をした。
「空いているみたいですね。食事にしましょう」
くすくすと笑う声が耳に心地よい。
……本当に、きれいな人だ。
一つ一つの仕草が上品で、貴族ってきっとこういう人のことを言うんだろう。
所作に視線が自然と吸い寄せられる。
「起きましょうか、それともまだ寝ますか?」
「起きます」
ようやく自分が置かれている状況を確認して、体が強張った。
俺、この人に抱きしめられてた。
心臓が跳ねる。顔がみるみる熱くなる。
「え、なんで!? 俺を……!?」
まさかこの人、変態……?
「違います。自分の手をごらんなさい。抱き着いてきたのはあなたですよ」
彼は小さくため息をつく。その仕草ですら絵になるのが腹立たしい。
毛布をめくると、俺の手が彼の服をしっかり握っていた。
握っていた部分はぐしゃぐしゃに皺になっていて、慌てて放す。
これは伸ばしても取れそうにない……。
「ご、ごめんなさい……」
「安心できたのなら、それでいいですよ」
穏やかに微笑んで、俺の頭をくしゃりと撫でた。
「すげー、かっけぇ」
最初に出会った場末ホストとは雲泥の差だ!
……完璧すぎてちょっと惚れそうなんだけど!?
……いやいや、何考えてんだ俺。助けてもらっただけじゃないか。
そういえば昨日この人に出会わなかったら俺、どうなってたんだろう……。
化け物は倒せていたけれど、もう精神は限界だった。
この暗い森の中で気が狂っていたかもしれない。
助けられたのは命だけじゃない。きっと心もだ。
まずはお礼を言って、名前を名乗らなきゃ。
俺は姿勢を正し頭を下げた。
「俺、神代拓真。拓真って呼んで。助けてくれてありがとう」
「いいえ。あなたが諦めなかったから、今ここにいるんですよ。私はナイア・バーゼル。ナイアとお呼びください」
ナイアさんっていうのか。
名前を知れたのがなんだか嬉しかった。
「タクマ、痛いところはないですか? 歩けますか?」
拓真の名前の響きが聞いたことのない音で、もっと聞きたい。
そんなことを思いながら頭を撫でてくれる手に身を委ねる。
「うん! 大丈夫、元気!」
「では行きましょう」
ナイアさんが、少し安心したように目を細め、俺の手を引いてテントを出て行く。
手を繋ぐっていうのとはなんか違う感じで、歩調を合わせて歩いてくれるのがなんだかむず痒い。
エスコートっていうのか? これ。
でも、嫌じゃない。
「ねぇ、ここどこ? 日本じゃないよね?」
薄々分かっていたけど、本当に異世界に来ちゃってるんだ。
外は相変わらずの森だったのに、一人でいる時よりなんだか明るいし、優しい感じがする。
「ここは魔の森ですが、あなたが来たと言っていたロアーム国側ではなく、森を挟んだアーデル国のグラフィカ辺境寄りの場所ですね」
話した覚えのないことを知っているナイアさんを見上げた。
「俺、言いました?」
「言いましたよ? 大泣きしながら」
「う、忘れてください」
うっすら昨日の記憶が蘇る。
「質問にもきちんと答えられて、いい子ですね」
色んな事が起きすぎて、とても限界だった。
少し優しくしてもらったら、我慢していた色々が決壊してしまったんだ。
「昨日のあなたはとても勇敢で、そしてとても愛らしかったですよ」
からかうように笑われて、丁寧だけど本当はちょっと意地が悪い人なのかなって思った。
けど、嫌じゃない。
「さぁ、まずは食事にしましょう」
「!? いい匂い!」
向かった先には騎士みたいな恰好をした人たちが焚火で料理を作っていた。
漂うスープや肉の焼ける香りが食欲を刺激する。
俺、生きてるんだ。
そんな実感が胸を満たす。
空いていた椅子に座らせてもらって、騎士さんが差し出してくれる器を受け取る。
温かい、食事。
涙が出そうだ。
「さぁ、お腹いっぱい食べてください」
「はい!」
微笑まれて、この世界に来て初めて、生きてると思えた。その温かさを噛みしめながら、俺は力いっぱいうなずいた。
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