異世界召喚されたらハズレだと舌打ちされて捨てられました。死にたくないから全力で生きる!

中洲める

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5話 色々危なかった……

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 焚火の煙が静かに明るい空へ登っていた。昨日までと同じ暗い森とは思えない爽やかな空気に包まれていた。

 ナイアさんと騎士さんたちがいる場に歩いて行くと、慣れた様子で空いている椅子に俺を座らせてくれた。
 隣にナイアさんが座ると、すぐに俺と同じ年くらいの騎士さんがスープやパンを運んでくれる。

「タクマ、食べよう」
「うん!」
 テーブルはないので大き目の皿を膝に置いて、木で出来た深皿に盛られたスープへ鼻を近づける。
 知らない香辛料の匂いが立ち上っているけれど、全然嫌じゃない。

 スプーンにすくって一口すする。

 温かい。
 おいしい。
 ……生き返るってこういうことを言うんだ。

 次はもっと味わおうと、熱々のスープを口に含む。
「あつ、でもおいしい……」
 野菜の酸味と肉のうま味が広がった。冷えきった体の奥まで、じんわり温かさが染みていく。
 入っている赤い野菜はトマトっぽい味がして、母さんの得意料理のミネストローネに似ていた。
「おいしい。すっごくおいしい!」
 あっという間に一杯食べきってしまい、空の器を見つめていたら、笑いながら金髪の騎士さんが手を差し出してくれた。
「おかわり、ありますよ?」
「……食べて、いいの?」
「もちろんです」
 力強くうなずくその騎士に同意するように、周りからもいっぱい食べろとか、遠慮はいらないとか声がかかる。
「たくさん食べなさい。食料の心配ならいらない。たくさん持ってきているからね」
 隣に座っていたナイアさんが俺の器を取り上げて、金髪の騎士に渡した。
「じゃあ、いただきます!」
「はい、おいしそうに食べてくれて作ったかいがあるよ」
 焼けた塩漬け肉は程よい塩味で肉の味が濃くておいしかったし、パンは少し硬かったけどスープと一緒に食べるのに丁度良かった。

 結局三回おかわりをしてやっとお腹は落ち着いてくれた。

「おいしかった、すごく幸せ……」

 温かいご飯って人を幸せにするんだな。

 片づけをする騎士さんの手伝いをしたかったんだけど、遠慮されてしまって手持ち無沙汰になってしまった。

「タクマ」
「はい」
「これから君の身柄をグラフィカで預かるが、異論はないだろうか?」
 俺の意思を聞いてくれるんだ。
 それが無性に嬉しかった。

「はい。帰る方法がわからないので、行くところがないですから……」
「急に言葉遣いを改めて、どうした?」
「いえ、あの……」
 周りの騎士さんのナイアさんに対する態度を見てたら、この人偉い人なんじゃないかって気づいたんだよね。
 みんなさりげなく一歩引いてるし、視線も自然とナイアさんに集まってる。
 ナイアさんの指示に従ってるし、全ての決定権を握ってる感じがした。

「君は私の部下ではないのだから今まで通りに話してくれ」
「い、いいの?」
「私が構わないと言っているのだからそうして欲しい」
「うん!」
 うなずくと、ナイアさんが嬉しそうな顔をしてくれる。

「体は大丈夫か? 辛そうならもう一日休むが」
「え、問題ないよ。怪我もしてないし、こうやって「ヒール」ってすれば体力だって……」
「ヒール」の言葉と同時に、淡い青い光が体を包み、体力が戻っていく。
 指先に残っていた小さな切り傷が、ナイアさんの目の前で跡形もなく消えた。
 それを見ていたナイアさんの表情が驚愕に染まる。
「……え?」

 なんで、そんなに驚くの?
 俺、なんかやっちゃった??

 びっくりしてるナイアさんのリアクションに驚く俺。
 そんな俺の反応にナイアさんが狼狽えるっていう変な循環。

「タクマ、昨日魔法を使って魔獣を倒していましたよね?」
「うん」
「外向性の魔力の上に内向性の魔力も持っている……? だが両方の魔力を併せ持つ「二重属性者」など聞いたことが……」
「ねぇ、その外向とか内向って何? 場末のホストにも言われたんだけど」
 何度聞いても性格診断みたいだ。
「ばすえ……とは、なんですか?」

 ナイアさんの問いに、俺はこの世界で初めて出会った最悪の人間――あの王様のことを思い出した。

 横柄で偉そうで、人をまるで自分の駒みたいに扱う。
 整った顔をしてるくせに、滲み出る性格の悪さで台無しだ。
 イケメンではあるけど、どこか安っぽくて、品がない。
 あれが王様なんて、あの国の未来が明るいわけない。

「場末っていうのは、簡単に言うと寂れた場所にあるようなって意味。で、ホストはお客さんを言葉で転がす商売をするちょっと顔のいい男?」

 つまり、あの王様にぴったりな言葉ってわけ。

 そう言うと、ナイアさんはぽかんとした顔をしたあと、肩を揺らして笑った。
「寂れた場所にある店の……ふっ」
 何かを明確に想像したらしいナイアさんは小さく噴き出した。
「ばすえのほすと……っ、ひっ」
 そしてツボった。

 それでも大口を開けて笑わないのが上品なんだなぁ。

「ふふっ、あの国の王はいい噂を聞かないんですが……ははっ、なるほど。そういう人物ですか」
「そうそう。その場末のホストがさー、何か板に手を置いた俺に「外向性か使えないな!」みたいなことを言ったわけ」
「なるほど……。ですが内向性の魔力があると気付かれなくてよかったです」
「どういうこと?」
「内向性魔力を持っていると知られたら、後宮に押し込まれていたでしょう」
「俺、男だよ?」

 そしてナイアさんに内向、外向の魔力について教えてもらった。

 この世界の人間はみな魔力を持ち、それは二つに分かれる。外向性は他者に干渉し、内向性は自分の体に作用する。
 外向性は戦士・魔導士向きだが、内向性は身体強化や自己回復に優れていて。


「命を育むことが出来る……って?」
 どゆこと……?
 ナイアさんの言葉の意味を理解するまで、数秒かかった。
「この世界に女性はとても少ないんです」
「じゃあ、どうやって子供作るの?」
「内向性魔力を持つ男性が、子供を孕む器官を体に作ることができるんです」
「……へぇ」
 頭では意味が分かるのに、実感が追いつかない。
 男同士でも子供を作ることが可能なのか。

「……え、待って。じゃあ、俺内向性魔力があるってバレてたら、あの場末のホストにそうされてた可能性あったの!? 危なっ!」
「ええ、本当に危ないところでした。あの国が愚鈍で本当に良かったです」
「ひえー……」
 体から血の気が引いていく。
 あの感じ悪いやつの子供産まされるなんて絶対ヤダ。
「ナイアさんはどっち?」
「私は外向性ですね」
「そっか。どうせ子供を産むなら俺、ナイアさんの子がいいや」
 自分でも軽口のつもりで言ったんだ。俺の言葉を聞いたナイアさんが固まった。
 そして、俺の肩を掴んで迫ってくる。
「タクマ!」
 やけに大げさな驚き方をするナイアさん。
 動揺は伝わったからそんなに顔近づけないで。怖い、なんか怖いって。
 俺、またなんかやっちゃってる!?

 おろおろし始めた俺を見て、ナイアさんの方が落ち着きを取り戻したみたい。
 
「この世界ではその言葉、プロポーズと同じなので……。その……」
 大きく息を吐いて少し口ごもりながら教えてくれた。
「あ、え!? ご、ごめん!?」
 異世界分からないことが多すぎる! なんか本当にごめん!

 何となく二人で赤面をして、気まずい空気になる。
「すみません、気を付けます」
「そうしてください……」

 俺よりナイアさんの方が動揺している。
 そんなに破壊力のある言葉だったのか、何だか申し訳ないことをした。
 って思うのに、この人が乱されるところを初めて見てしまって目が離せない。


 わぁ、ナイアさん耳まで真っ赤だ。
 かーわいい。



 たぶん、俺はニマニマと緩んだ顔をしていたんだと思う。
 怒られるかと思ったけど、彼も少しだけ笑っていた。
 ナイアさんが俺に気付くと誤魔化すように咳払いをして表情を改めた。

「とにかく、この世界で二属性を持っている人間は過去にいませんでした」
「そうなんだ……。あんまりバレない方がいい?」
「そうですね。噂が独り歩きして隣国まで届くなんて可能性だってないとは言えないと思います」
「わぁ……」
「タクマ、他人に分かるように自分に魔法を使わないように気を付けてください。どうしても必要な時はバレないように」
「了解!」
「念のために聞きますが。隣国へ戻りたいとは……」
「全く思わない!」
 あの国にしか帰る方法がないとしたらそれを調べるためになら、もしかしたら行くかもしれない。
 でも、出来れば二度と足を踏み入れたくない。
 それに……。
「あの場末のホストには二度と会いたくない!」
 そう叫ぶと、ナイアさんは俺の頭をくしゃりと撫でた。
「あなたの国に帰れるように、我々が力を貸しましょう。約束します。私はあなたの力になると」
「ありがとう」


 この世界で俺に何が出来るかわからないけれど、助けてくれた人たちに少しでも恩返しができたらいいな。
 昨日まで生きることしか考えられなかった。
 でも今日からは俺がしたいことが出来るんだ。

 そう思ったら心が晴れやかになった。
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