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13話 温かい(ナイア視点)
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泣き疲れて眠ってしまったタクマと一緒にベッドへ入った。
本当は寝かせて部屋を出ていくつもりだったのに、最初に会った時と同じように服を掴んで離してくれなかった。
あの時は仕方がないと呆れながらベッドへ入ったのに。
今回は同じように思いつつも、可愛く愛しいと思う気持ちが混じっている。
「本当にあなたは雛鳥みたいに懐いて、目が離せませんね」
安らかな表情で眠るタクマの前髪をかきあげて、額にそっとキスを落とす。
最初は同情だった。
無理やり日常から引き剥がされて、夢も希望も壊された私と同じ、大切な物を奪われてしまった可哀そうな子。
せめてその痛みが和らぐようにと優しくした。
けれど、知っていくうちに、彼の素直な性格や純真な好奇心、他人を思う優しさと気遣う思慮深さに惹かれていった。
そして、その真っ直ぐ見据える先にたどり着けるように、手を貸したくなった。
守りたいという気持ちはいつの間にか切実な願いになっていた。
それが恋愛かと言われると違う気がする。
もし言葉にするなら、一番近いのは、庇護欲と憧憬。
魔の森に放り込まれ、武器を持つことも知らず、それでも生きようと必死にもがいた。
目の前の恐怖にも諦めず、戦う術を身に付け、己の手で道を切り開いてきた。
傷ついても他人を思う心を失わなかった。
それだけでも、この青年は私には眩しく映った。
「あなたを尊敬します。タクマ」
私が全てを失った時、差し伸べてくれる手を無為に振り払った。
大切な人、守るものを失った自分を許せるまでには長い歳月がかかった。
けれど彼は、こんな短い時間でまた前を向こうとしている。
私が抱いていた夢はもう叶わない。
けれど今は残された民と共に今度はグラフィカを支えていく道が出来た。
尊敬すべき主君は、素晴らしい伴侶に巡り合えた。
私はその行く末を傍で見守りたい。
穏やかな夜に、失ったものではなく、守れるものを思えるようになった。
今はもうそれだけでいい、はずだった。
けれど、今はこの子が幸せに生きられる場所を見つけてあげたいという欲が出た。
「あなたには、もう泣いてほしくない。誰かと笑い合える未来を歩んでほしい」
そのためにできることを、私は全部やりたい。
彼がいるべき場所で、穏やかに生きてほしい。
……けれど。
手放すことを考えると、どうしようもなく胸が痛む。
私に懐いてくれた雛鳥を、そのまま飛ばしてやるのが、怖いほどに寂しい。
「ん~……」
頭を撫でていると、タクマがムズがるように小さな声を上げた。
そして離れてしまった隙間が嫌なのか、服を掴んでいる手に力がこもり、腕の中に入って来る。
「ここにいる間も、苦しい事や辛いことがないように。あなたが笑っていられるように私も頑張ります」
諦めず真っ直ぐ前を見て努力し続けるあなたにしてあげられる、数少ないことですから。
触れ合う温もりが、思いのほか心地好かった。
故郷を失って以来、眠りは常に浅く、夢を怖れる夜ばかりだった。
誰かをこうして抱き、無防備に眠るなど、許されるはずもない。
お前は悪くないのだとどれほど言われても、罪悪感は消えなかった。
だって、彼らはもう二度と、そんな未来を迎えることはできないのだから。
それでも今、この温もりを、安らぎを手放すことができない。
「お休みなさい、タクマ」
せめて、優しい夢が見られますように。
そう願いながら抱き寄せて、目を閉じた。
夜明け前の静寂が部屋を包み、二人の呼吸だけがかすかに重なっていった。
翌朝、頭を撫でる感触がして、遠い昔家族にしてもらった記憶がよみがえる。
ゆっくり目を開けると、すぐそばに優しい茶色の瞳があった。
視線が合うと、柔らかく眇められる。
「おはよ、ナイアさん」
「おはようございます。タクマ」
「へへへ、すっごくよく寝られた。ありがと」
「いいえ、私も久しぶりに夢も見ずに眠れました」
戦場に長くいた習慣で、些細な物音にも目を覚ましていたのに、全く起きなかった。
まだ撫でていた手を取って重ねると、タクマは嬉しそうに笑って指を絡めた。
「あのさ、時々でいいから。またこうして寝ていい?」
遠慮がちに、けれど全身で私に甘えようとしてくる。
そんな姿勢が見えて、知らず笑みが零れた。
この雛鳥は、私にだけ心の奥まで明け渡してくる。
そんな確信が、妙にくすぐったくて、同時に少し怖かった。
それでも、その手を受け止めるのが私の務めだと思った。
「ええ、構いませんよ。あなたは寝相はいいみたいですし」
「一言多いよ、ナイアさん」
「こういうひねくれた人間なので諦めてください」
笑い合いながら体を起こす。
「それでもさ」
タクマは朝日に劣らない眩しい笑顔を私に向ける。
「たとえ寝相が悪くてもナイアさんは俺と寝てくれる優しい人だって知ってるから」
「……」
目もくらむような真っ直ぐな視線は、私の心に真っ直ぐ届き、貫いて行く。
「はぁ~……」
「ちょっと、ため息酷くない?」
「異世界の方というのは、本当に恐ろしい人ばかりですね」
閣下があれほどあの方に夢中になった理由が、少し理解出来てしまった気がした。
本当は寝かせて部屋を出ていくつもりだったのに、最初に会った時と同じように服を掴んで離してくれなかった。
あの時は仕方がないと呆れながらベッドへ入ったのに。
今回は同じように思いつつも、可愛く愛しいと思う気持ちが混じっている。
「本当にあなたは雛鳥みたいに懐いて、目が離せませんね」
安らかな表情で眠るタクマの前髪をかきあげて、額にそっとキスを落とす。
最初は同情だった。
無理やり日常から引き剥がされて、夢も希望も壊された私と同じ、大切な物を奪われてしまった可哀そうな子。
せめてその痛みが和らぐようにと優しくした。
けれど、知っていくうちに、彼の素直な性格や純真な好奇心、他人を思う優しさと気遣う思慮深さに惹かれていった。
そして、その真っ直ぐ見据える先にたどり着けるように、手を貸したくなった。
守りたいという気持ちはいつの間にか切実な願いになっていた。
それが恋愛かと言われると違う気がする。
もし言葉にするなら、一番近いのは、庇護欲と憧憬。
魔の森に放り込まれ、武器を持つことも知らず、それでも生きようと必死にもがいた。
目の前の恐怖にも諦めず、戦う術を身に付け、己の手で道を切り開いてきた。
傷ついても他人を思う心を失わなかった。
それだけでも、この青年は私には眩しく映った。
「あなたを尊敬します。タクマ」
私が全てを失った時、差し伸べてくれる手を無為に振り払った。
大切な人、守るものを失った自分を許せるまでには長い歳月がかかった。
けれど彼は、こんな短い時間でまた前を向こうとしている。
私が抱いていた夢はもう叶わない。
けれど今は残された民と共に今度はグラフィカを支えていく道が出来た。
尊敬すべき主君は、素晴らしい伴侶に巡り合えた。
私はその行く末を傍で見守りたい。
穏やかな夜に、失ったものではなく、守れるものを思えるようになった。
今はもうそれだけでいい、はずだった。
けれど、今はこの子が幸せに生きられる場所を見つけてあげたいという欲が出た。
「あなたには、もう泣いてほしくない。誰かと笑い合える未来を歩んでほしい」
そのためにできることを、私は全部やりたい。
彼がいるべき場所で、穏やかに生きてほしい。
……けれど。
手放すことを考えると、どうしようもなく胸が痛む。
私に懐いてくれた雛鳥を、そのまま飛ばしてやるのが、怖いほどに寂しい。
「ん~……」
頭を撫でていると、タクマがムズがるように小さな声を上げた。
そして離れてしまった隙間が嫌なのか、服を掴んでいる手に力がこもり、腕の中に入って来る。
「ここにいる間も、苦しい事や辛いことがないように。あなたが笑っていられるように私も頑張ります」
諦めず真っ直ぐ前を見て努力し続けるあなたにしてあげられる、数少ないことですから。
触れ合う温もりが、思いのほか心地好かった。
故郷を失って以来、眠りは常に浅く、夢を怖れる夜ばかりだった。
誰かをこうして抱き、無防備に眠るなど、許されるはずもない。
お前は悪くないのだとどれほど言われても、罪悪感は消えなかった。
だって、彼らはもう二度と、そんな未来を迎えることはできないのだから。
それでも今、この温もりを、安らぎを手放すことができない。
「お休みなさい、タクマ」
せめて、優しい夢が見られますように。
そう願いながら抱き寄せて、目を閉じた。
夜明け前の静寂が部屋を包み、二人の呼吸だけがかすかに重なっていった。
翌朝、頭を撫でる感触がして、遠い昔家族にしてもらった記憶がよみがえる。
ゆっくり目を開けると、すぐそばに優しい茶色の瞳があった。
視線が合うと、柔らかく眇められる。
「おはよ、ナイアさん」
「おはようございます。タクマ」
「へへへ、すっごくよく寝られた。ありがと」
「いいえ、私も久しぶりに夢も見ずに眠れました」
戦場に長くいた習慣で、些細な物音にも目を覚ましていたのに、全く起きなかった。
まだ撫でていた手を取って重ねると、タクマは嬉しそうに笑って指を絡めた。
「あのさ、時々でいいから。またこうして寝ていい?」
遠慮がちに、けれど全身で私に甘えようとしてくる。
そんな姿勢が見えて、知らず笑みが零れた。
この雛鳥は、私にだけ心の奥まで明け渡してくる。
そんな確信が、妙にくすぐったくて、同時に少し怖かった。
それでも、その手を受け止めるのが私の務めだと思った。
「ええ、構いませんよ。あなたは寝相はいいみたいですし」
「一言多いよ、ナイアさん」
「こういうひねくれた人間なので諦めてください」
笑い合いながら体を起こす。
「それでもさ」
タクマは朝日に劣らない眩しい笑顔を私に向ける。
「たとえ寝相が悪くてもナイアさんは俺と寝てくれる優しい人だって知ってるから」
「……」
目もくらむような真っ直ぐな視線は、私の心に真っ直ぐ届き、貫いて行く。
「はぁ~……」
「ちょっと、ため息酷くない?」
「異世界の方というのは、本当に恐ろしい人ばかりですね」
閣下があれほどあの方に夢中になった理由が、少し理解出来てしまった気がした。
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