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27話 思いがけないプレゼント(1)
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屋敷の中はアッシュ様の出産準備で緊張に満ちていた。
それでも、廊下を行き交う人々の声にはどこか温かい安堵があった。
仕事の慌ただしさの波は引き、屋敷の中はかつての穏やかさが少しずつ戻りつつあった。
久しぶりの休日を控えた夜。
ナイアさんに誘われて一緒に寝ることになった。
同じベッドに入り、遠慮がちにくっついて取り留めない話をする。
俺はこの時間が一番好きだ。
きれいな指が俺の髪をかきあげていく感触に目を閉じる。
「タクマ、明日私と一緒に出掛けましょう」
「うん、いいけど。どこに行くの?」
「ふふふ、内緒です」
楽しそうなナイアさんは珍しいかも。
街? 森? それとも、俺の知らない場所かな。
想像するだけでワクワクしてくる。
「じゃあ、楽しみにしておく」
「そうしてください」
頬を撫でる指がくすぐったくて、手を握るとナイアさんが指先に目を向けた。
「男らしい手になりましたね」
「回復魔法使えてよかったよ。そうじゃなかったらこんなに早く馴染まなかった」
確かめるように触るナイアさんの指は、剣の練習ですっかり硬くなった皮膚を撫でていく。
「強くなりましたねぇ」
「たくさん頑張ったからね」
「魔術制御も上手になりました」
「うん、教えてくれてありがとう」
「ふふ、あなたは努力家だから教え甲斐があります」
ここに来てたくさんの事を学んだ。
戦い方は勿論、国の歴史や文化、人とのかかわり方。
アッシュ様から身体強化や解毒、麻痺解除なんかも教えてもらった。
俺はこっそり身体強化しながら剣を振るというズルも覚えた。
やればやるほど自分の糧になるのが分かって、学ぶことが楽しかった。
「どう? 少しは勇者らしくなった?」
「ええ、あなたの存在はアッシュ様と同じように我々に希望と勇気を与えてくれます」
「アッシュ様はともかく、俺は特に何もできてないと思うけど……」
出来ない事や知らない事の方が多くて迷惑をたくさんかけた記憶しかない。
そう言えば、ナイアさんは柔らかく微笑んだ。
「あなたが、諦めず前を向いて懸命に何かへ取り組む姿は、人に勇気を与えているんです」
「ナイアさんにも?」
「ええ、あなたが来てくれてから私はいつになくやる気に満ちていますよ? なにせあなたに手本を示さなくてはなりませんから」
「そんなこと考えてくれてたの?」
「大人として、格好いい背中というやつを見せたいじゃないですか」
「ナイアさんは最初からずっと格好いいよ」
俺の言葉にナイアさんは少し驚いた後、綺麗に笑った。
「だとしたら嬉しいですね」
そっと抱きしめられて、唇に柔らかい感触がした。
久しぶりのキス、だ。
胸が高鳴り顔が熱くなる。
唇が離れたあともしばらく、そこだけ熱くて仕方ない。
どうしよう、今からちょっと、するのかな……。
そんな風に思っていたけれど、ナイアさんは俺を深く抱きしめてもう寝ましょうと囁いた。
「……うん」
寂しいような、ホッとしたような複雑な気持ちで目を閉じる。
やっぱり俺、ナイアさんが好きだ。
温かい体温に包まれながら、俺は改めて自分の気持ちを噛みしめた。
ナイアさんの寝息を聞きながら目を閉じた夜は、不思議といつも朝が近い。
翌朝、目を覚ますとナイアさんはすでに着替えを終えていた。
私服にしては少し制服めいていて、騎士服ほど堅くもない。
軽装の軍服みたいで、なんというか、中二心をくすぐる格好よさだ。
「かっこいい」
俺の声にナイアさんは微笑む。
「タクマはこれを着てください」
差し出されたのは、色とデザインが少し違う新品の服。
お揃いっぽくて、思わず嬉しくなる。
「休日ではありますが、街の警備も兼ねています。騎士であることは示しておきたいのです」
なるほど、騎士服は堅苦しいけど、完全な私服では締まらない。
その中間を取ったのが、これというわけか。
「着てみる」
「はい」
手に取って着替えていく。
こちらの世界の服の着方にも慣れた。
腰に帯剣ベルトをつけて完成だけど、俺にはつけるべき剣がない。
普段は訓練場にある剣を借りてるけど、今日は持ってきていないし。
ナイアさんは紫色の石がはまった格好いい剣を装備していてとても様になっている。
「俺、剣取ってきた方がいい?」
なくても戦えるし、魔法で氷の剣を出す事だってできるけど、見た目に戦士っぽさが欲しい。
やっぱり恰好良さって大事じゃん?
そんな気持ちでナイアさんに聞いてみたら、問題ないって言われた。
「今のあなたなら、素手でも対応できるでしょう?」
そんな風に言われたら、実力を認めてもらったみたいで嬉しくて、大きくうなずいた。
「服、とても似合っていますね」
「ありがとう!」
「行きましょう」
ナイアさんの背中について行くのは久しぶりで、ワクワクする。
……こんなところを騎士たちに見られたら、また雛みたいについていってるって笑われるんだろうな。
そんなことを思ったけれど、俺にだけ許されたこの立ち位置は誰にも譲りたくない。
それでも、廊下を行き交う人々の声にはどこか温かい安堵があった。
仕事の慌ただしさの波は引き、屋敷の中はかつての穏やかさが少しずつ戻りつつあった。
久しぶりの休日を控えた夜。
ナイアさんに誘われて一緒に寝ることになった。
同じベッドに入り、遠慮がちにくっついて取り留めない話をする。
俺はこの時間が一番好きだ。
きれいな指が俺の髪をかきあげていく感触に目を閉じる。
「タクマ、明日私と一緒に出掛けましょう」
「うん、いいけど。どこに行くの?」
「ふふふ、内緒です」
楽しそうなナイアさんは珍しいかも。
街? 森? それとも、俺の知らない場所かな。
想像するだけでワクワクしてくる。
「じゃあ、楽しみにしておく」
「そうしてください」
頬を撫でる指がくすぐったくて、手を握るとナイアさんが指先に目を向けた。
「男らしい手になりましたね」
「回復魔法使えてよかったよ。そうじゃなかったらこんなに早く馴染まなかった」
確かめるように触るナイアさんの指は、剣の練習ですっかり硬くなった皮膚を撫でていく。
「強くなりましたねぇ」
「たくさん頑張ったからね」
「魔術制御も上手になりました」
「うん、教えてくれてありがとう」
「ふふ、あなたは努力家だから教え甲斐があります」
ここに来てたくさんの事を学んだ。
戦い方は勿論、国の歴史や文化、人とのかかわり方。
アッシュ様から身体強化や解毒、麻痺解除なんかも教えてもらった。
俺はこっそり身体強化しながら剣を振るというズルも覚えた。
やればやるほど自分の糧になるのが分かって、学ぶことが楽しかった。
「どう? 少しは勇者らしくなった?」
「ええ、あなたの存在はアッシュ様と同じように我々に希望と勇気を与えてくれます」
「アッシュ様はともかく、俺は特に何もできてないと思うけど……」
出来ない事や知らない事の方が多くて迷惑をたくさんかけた記憶しかない。
そう言えば、ナイアさんは柔らかく微笑んだ。
「あなたが、諦めず前を向いて懸命に何かへ取り組む姿は、人に勇気を与えているんです」
「ナイアさんにも?」
「ええ、あなたが来てくれてから私はいつになくやる気に満ちていますよ? なにせあなたに手本を示さなくてはなりませんから」
「そんなこと考えてくれてたの?」
「大人として、格好いい背中というやつを見せたいじゃないですか」
「ナイアさんは最初からずっと格好いいよ」
俺の言葉にナイアさんは少し驚いた後、綺麗に笑った。
「だとしたら嬉しいですね」
そっと抱きしめられて、唇に柔らかい感触がした。
久しぶりのキス、だ。
胸が高鳴り顔が熱くなる。
唇が離れたあともしばらく、そこだけ熱くて仕方ない。
どうしよう、今からちょっと、するのかな……。
そんな風に思っていたけれど、ナイアさんは俺を深く抱きしめてもう寝ましょうと囁いた。
「……うん」
寂しいような、ホッとしたような複雑な気持ちで目を閉じる。
やっぱり俺、ナイアさんが好きだ。
温かい体温に包まれながら、俺は改めて自分の気持ちを噛みしめた。
ナイアさんの寝息を聞きながら目を閉じた夜は、不思議といつも朝が近い。
翌朝、目を覚ますとナイアさんはすでに着替えを終えていた。
私服にしては少し制服めいていて、騎士服ほど堅くもない。
軽装の軍服みたいで、なんというか、中二心をくすぐる格好よさだ。
「かっこいい」
俺の声にナイアさんは微笑む。
「タクマはこれを着てください」
差し出されたのは、色とデザインが少し違う新品の服。
お揃いっぽくて、思わず嬉しくなる。
「休日ではありますが、街の警備も兼ねています。騎士であることは示しておきたいのです」
なるほど、騎士服は堅苦しいけど、完全な私服では締まらない。
その中間を取ったのが、これというわけか。
「着てみる」
「はい」
手に取って着替えていく。
こちらの世界の服の着方にも慣れた。
腰に帯剣ベルトをつけて完成だけど、俺にはつけるべき剣がない。
普段は訓練場にある剣を借りてるけど、今日は持ってきていないし。
ナイアさんは紫色の石がはまった格好いい剣を装備していてとても様になっている。
「俺、剣取ってきた方がいい?」
なくても戦えるし、魔法で氷の剣を出す事だってできるけど、見た目に戦士っぽさが欲しい。
やっぱり恰好良さって大事じゃん?
そんな気持ちでナイアさんに聞いてみたら、問題ないって言われた。
「今のあなたなら、素手でも対応できるでしょう?」
そんな風に言われたら、実力を認めてもらったみたいで嬉しくて、大きくうなずいた。
「服、とても似合っていますね」
「ありがとう!」
「行きましょう」
ナイアさんの背中について行くのは久しぶりで、ワクワクする。
……こんなところを騎士たちに見られたら、また雛みたいについていってるって笑われるんだろうな。
そんなことを思ったけれど、俺にだけ許されたこの立ち位置は誰にも譲りたくない。
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