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31話 ????(閑話、ロアーム国)
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夜更けの王城は静まり返っていた。
息の詰まるような沈黙の中で、王はひとり苛立ちを抑えられずにいた。
ああ、イライラする。
どうしてこうも上手く行かない。
魔導士と錬金術師に共同で行わせている実験の成果報告に苛立ちが止まらない。
「なぜだ! 同じ魔の森に接しているグラフィカは、様々な成果を上げ安泰しているというのに、なぜ我が国は……!」
「それは、かの国の錬金術師が優秀で……」
「我が国は前回の聖女召喚で多くの人材を失っ……」
「無能を晒して、それで貴様らは満足か!?」
持っていたワイングラスを投げつけると、床に当たり高い音を立てて砕けた。
ガラスの破片が魔術師の頬を傷つけ、小さな悲鳴を上げる。
それがことさら癇に障った。
「さっさと成果を上げろ!」
「は、はい!」
「失礼します!」
そそくさと謁見の間から出ていく。
「なぜだ……」
なぜだ、なぜだ……。
幼い頃から神童と呼ばれ、何をしても人並み以上。
愚鈍な父よりも聡明な俺こそが玉座に相応しい──そう信じて、命を奪った。
軍備を整え、目障りな魔の森を焼き払い領土を広げれば、国力も高まる。
なぜ誰もこんな簡単なことをやらない。
「やはり、こんなことを思いついてしまうのは俺様だからだな」
そして王位に就いてすぐ魔の森の攻略、開墾を進めた。
けれど、何度やっても上手く行かない。
森へ火を放っても周囲を覆う黒い霧が即座に再生を促す。魔獣は無限に湧いて出て、攻めれば攻めるほど報復だというように魔獣が侵攻してくる。
気付けば防戦一方で、開拓などまるで進まなかった。
無能どもが。
もっと力が欲しい……。
もっと、もっと……。
誰もが認める、俺の、力。
王位についてから、ずっと苛立ちは治まらなかった。
そうしているうちに、周辺諸国から伴侶を得た祝いの噂が届く。
ふと気が付けば、自分に相応しい伴侶が見つかっていないことに気付く。
代々女性を伴侶としていたロアーム国。国中の女性を探させたが、年老いて子が産めぬような老婆か、生まれたばかりの赤ん坊しかいない。
赤ん坊はとりあえず一旦の婚約者として確保するとして、今すぐ俺に相応しい伴侶が必要だ。
我が国は安泰で、魔の森を開拓する力があるのだと他国へ示したい。
いつまでも庇護される小国だと、思われたくない。
大した特産品もない。誇れるものは鉱山からわずかに採れる希少金属と宝石のみだなどと。
そんな貧相な国の王として終わりたくない。
俺は、もっと優れた人間なのだ。
同じ魔の森を挟むアーデン国より、もっと、もっと……。
そのためにはまず、俺に相応しい伴侶が必要だ。
誰もが羨む存在、唯一無二の象徴――そうだ、聖女がいい。
古文書に記された「異界より来たる聖女は、国を統べる王にのみ従う」。
先祖も俺と同じく理解していたんだな。
そもそもこの国の王が代々女性を娶るのも、その伝承が由来だったはず。
伴侶として迎えれば、誰もが認める「偉大なる血統」を示せる。
子を成せば、その血は永遠に俺の王朝を飾る。
世界を救う伝説の女こそ、俺に相応しい。
そうして膨大な金と労力をかけて行われた「聖女召喚」は……失敗に終わった。
現れたのは貧相な男一人。
神までも俺を愚弄するつもりなのか。
原因は、「女性」を召喚陣に刻む際、それが上手く言語化できなかった魔導士のせいだ。
この世界は男ばかりで、女は殆どいない。
……だからこそ、女の伴侶を得ることに価値がある。
そしてそれを手にする資格があるのは、この俺だけ。
「我が国は小国だ、だからこそ権威を見せつけねばならんというのに!」
我がロアームでは王が女性の伴侶を迎えることで『王の血統を純血に保つ』ことを示さねばならぬ。
決してこんなハズレを呼ぶためではなかった。
「捨てろ」
失敗の産物などいつまでも視界に留めておきたくない。
異世界から来たというが、魔力も貧弱。せめて魔獣の餌として役立てばいい。
ハズレでもせめてそのくらいは出来るだろう。
せいぜい、強い魔物をおびき寄せてくれ。
その魔獣を、俺が上手く使ってやる。
もっと力を……。
人間はもうダメだ。役に立たぬ。
せっかく近くに魔の森という「資源」があるのだ。
使わない手はない。
魔獣を自在に操れればいい。
グラフィカの「魔獣除け」など無意味になる。
森を抜けて領民を蹂躙させ、奴らの防衛線ごと崩し、そのまま俺の軍勢を送り込めばいい。
森そのものが俺の「壁」であり「兵器庫」となる。
グラフィカが平穏を誇るなら、俺はその平穏を根こそぎ奪う。
その仕組みは簡単だ。
人間や獣に麻痺薬を仕込み、動かぬ生餌として森へ放つ。
魔獣は生きた獲物しか喰わぬ。確実に喰らいつく。
その後、薬の回った魔獣を俺の手元に確保して、より強く、従順な手駒となるように手を加えればいい。
失敗作は森へ捨て、次の餌となる。
遥かに楽で無駄がない。
完璧な仕組みだ。
誰も思いつかぬこの発想こそ、俺が王たる証だ。
こんなことを思いついてしまうなど、やはり俺は優れた人間なのだな。
「俺こそが、偉大なロアームの王だ!」
冷えた石壁にその声が跳ね返り、誰の返事もない。
誰もいない謁見の間に、その声だけが虚しく響いた。
息の詰まるような沈黙の中で、王はひとり苛立ちを抑えられずにいた。
ああ、イライラする。
どうしてこうも上手く行かない。
魔導士と錬金術師に共同で行わせている実験の成果報告に苛立ちが止まらない。
「なぜだ! 同じ魔の森に接しているグラフィカは、様々な成果を上げ安泰しているというのに、なぜ我が国は……!」
「それは、かの国の錬金術師が優秀で……」
「我が国は前回の聖女召喚で多くの人材を失っ……」
「無能を晒して、それで貴様らは満足か!?」
持っていたワイングラスを投げつけると、床に当たり高い音を立てて砕けた。
ガラスの破片が魔術師の頬を傷つけ、小さな悲鳴を上げる。
それがことさら癇に障った。
「さっさと成果を上げろ!」
「は、はい!」
「失礼します!」
そそくさと謁見の間から出ていく。
「なぜだ……」
なぜだ、なぜだ……。
幼い頃から神童と呼ばれ、何をしても人並み以上。
愚鈍な父よりも聡明な俺こそが玉座に相応しい──そう信じて、命を奪った。
軍備を整え、目障りな魔の森を焼き払い領土を広げれば、国力も高まる。
なぜ誰もこんな簡単なことをやらない。
「やはり、こんなことを思いついてしまうのは俺様だからだな」
そして王位に就いてすぐ魔の森の攻略、開墾を進めた。
けれど、何度やっても上手く行かない。
森へ火を放っても周囲を覆う黒い霧が即座に再生を促す。魔獣は無限に湧いて出て、攻めれば攻めるほど報復だというように魔獣が侵攻してくる。
気付けば防戦一方で、開拓などまるで進まなかった。
無能どもが。
もっと力が欲しい……。
もっと、もっと……。
誰もが認める、俺の、力。
王位についてから、ずっと苛立ちは治まらなかった。
そうしているうちに、周辺諸国から伴侶を得た祝いの噂が届く。
ふと気が付けば、自分に相応しい伴侶が見つかっていないことに気付く。
代々女性を伴侶としていたロアーム国。国中の女性を探させたが、年老いて子が産めぬような老婆か、生まれたばかりの赤ん坊しかいない。
赤ん坊はとりあえず一旦の婚約者として確保するとして、今すぐ俺に相応しい伴侶が必要だ。
我が国は安泰で、魔の森を開拓する力があるのだと他国へ示したい。
いつまでも庇護される小国だと、思われたくない。
大した特産品もない。誇れるものは鉱山からわずかに採れる希少金属と宝石のみだなどと。
そんな貧相な国の王として終わりたくない。
俺は、もっと優れた人間なのだ。
同じ魔の森を挟むアーデン国より、もっと、もっと……。
そのためにはまず、俺に相応しい伴侶が必要だ。
誰もが羨む存在、唯一無二の象徴――そうだ、聖女がいい。
古文書に記された「異界より来たる聖女は、国を統べる王にのみ従う」。
先祖も俺と同じく理解していたんだな。
そもそもこの国の王が代々女性を娶るのも、その伝承が由来だったはず。
伴侶として迎えれば、誰もが認める「偉大なる血統」を示せる。
子を成せば、その血は永遠に俺の王朝を飾る。
世界を救う伝説の女こそ、俺に相応しい。
そうして膨大な金と労力をかけて行われた「聖女召喚」は……失敗に終わった。
現れたのは貧相な男一人。
神までも俺を愚弄するつもりなのか。
原因は、「女性」を召喚陣に刻む際、それが上手く言語化できなかった魔導士のせいだ。
この世界は男ばかりで、女は殆どいない。
……だからこそ、女の伴侶を得ることに価値がある。
そしてそれを手にする資格があるのは、この俺だけ。
「我が国は小国だ、だからこそ権威を見せつけねばならんというのに!」
我がロアームでは王が女性の伴侶を迎えることで『王の血統を純血に保つ』ことを示さねばならぬ。
決してこんなハズレを呼ぶためではなかった。
「捨てろ」
失敗の産物などいつまでも視界に留めておきたくない。
異世界から来たというが、魔力も貧弱。せめて魔獣の餌として役立てばいい。
ハズレでもせめてそのくらいは出来るだろう。
せいぜい、強い魔物をおびき寄せてくれ。
その魔獣を、俺が上手く使ってやる。
もっと力を……。
人間はもうダメだ。役に立たぬ。
せっかく近くに魔の森という「資源」があるのだ。
使わない手はない。
魔獣を自在に操れればいい。
グラフィカの「魔獣除け」など無意味になる。
森を抜けて領民を蹂躙させ、奴らの防衛線ごと崩し、そのまま俺の軍勢を送り込めばいい。
森そのものが俺の「壁」であり「兵器庫」となる。
グラフィカが平穏を誇るなら、俺はその平穏を根こそぎ奪う。
その仕組みは簡単だ。
人間や獣に麻痺薬を仕込み、動かぬ生餌として森へ放つ。
魔獣は生きた獲物しか喰わぬ。確実に喰らいつく。
その後、薬の回った魔獣を俺の手元に確保して、より強く、従順な手駒となるように手を加えればいい。
失敗作は森へ捨て、次の餌となる。
遥かに楽で無駄がない。
完璧な仕組みだ。
誰も思いつかぬこの発想こそ、俺が王たる証だ。
こんなことを思いついてしまうなど、やはり俺は優れた人間なのだな。
「俺こそが、偉大なロアームの王だ!」
冷えた石壁にその声が跳ね返り、誰の返事もない。
誰もいない謁見の間に、その声だけが虚しく響いた。
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