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32話 不穏な足音
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外の風がすっかり涼しくなった。ここへ来て一年――季節は秋。
この世界にも四季があり、寒暖の差は小さいが、風で季節の移ろいを感じられる。
今日も俺はナイアさんたちと魔の森境界線を巡回していた。
「はぁ~、今日もいい天気だなぁ」
「でも、少し寒くなって来た。もう薄着は駄目だな」
「お前、また腹出して寝てんだろ」
「してねーよ!」
軽口を叩き合いながら騎士たちは警戒を緩めず、森の中を歩く。
最初にここへ来た時は、なんて歩きづらいんだって思った森だけど、もう歩き方にも慣れた。
買ってもらった長いブーツは丈夫で、枝に引っかけても傷もつかない。
俺のスニーカー、ボロボロになっちゃったもんな。
「ジェミ、もう他にはいなさそう?」
ポケットから出したジェミに話しかけた。
「周辺五百メートルニ魔獣ハイマス。デスガ、ソレラガ新種カ、判別不能」
「そっか」
実際にランタンの中まで入ってこないとジェミにも分からないらしい。
「申シ訳アリマセン」
「侵入に気付けるだけで十分です」
「感謝」
フォローに応じて、可愛らしい顔を画面に映した。
お前、俺に合わせてカスタマイズされているせいで、ナイアさんのこと好きだな。
分かっていますよ、みたいな顔文字出すな。しまえ。
俺はジェミが余計な行動をとっても分からないように、ポケットにしまう。
アッシュ様が作った通信機で、ジェミの警告が全隊へ届くようになった。
そのおかげで巡回は効率化し、三カ月で五体の新種を討伐できた。
ヘビ型の魔獣を見つけて以来、奇妙な個体の発見が増えている。
三カ月の間に五体の「異種」を討伐した。
魔獣除けの中へ入って来る個体は、数も大きさも、そして「混ざり具合」も増している。
専門家たちの見解では、やはり人為的に生み出されている可能性が高いという。
「誰が、何の意図で作り出してるのか分からないのは不気味ですよね」
「しかも数が増えているということは、実験が続いているという証でしょうし」
今回みつけたのは狼にコウモリの羽と爬虫類の鱗が混ざっていた。
ルーデンさんが死体をバッグに収納しながらナイアさんと話している内容に、意図せず俺の口からぽつりと言葉が漏れた。
「……何のために?」
一瞬、沈黙。
「そりゃあれじゃん、これを使って戦争を~とか、まぁ、こんな小物じゃ無理だけど」
俺の言葉を拾ったランドが冗談めかして言うと、騎士たちは体を強張らせた。
「!?」
戦争……。
俺は無意識に魔の森の向こう側へ目を向けた。
その方角には、いまも不穏な動きを見せるロアーム国がある。
かつては緑豊かで、魔の森と山脈に囲まれた静かな国だった。
だが、新しい王が即位してから、すべてが変わった。
相場を踏まえ適正な価格で売っていた産出物の値を釣り上げ、金属や用途不明な素材を買い漁っている。
交渉も粗雑で高圧的になり、今まで友好的な関係を築いてきた国も、距離を置き始めていると聞いた。
やたらと国内への出入りが制限されているとか、活気がないとか。
あまりいい噂も届いてこない。
「あの国なら、やりかねない……かも」
実際に俺が会ったあの国の王は、そうしてもおかしくないと思うような人物だった。
ナイアさんも同じことを考えたのか、視線が合った。
「思い込みはいけませんが、嫌な予感がしますね」
「うん……」
戦争……。
俺が知っているのは歴史と映像の中だけ。
人が死ぬ。
想像するだけで見えない悪意が足元から這いあがって来るみたいで、体が強張っていく。
「タクマ」
触れ合うような距離に温かい体温を感じる。
背中が大きな手で軽く叩かれ、俺は呼吸を思い出す。
ほんの数秒の触れあい。
そして静かに離れていく、温もりだけが残った。
「うん、大丈夫」
心配するナイアさんに笑って見せる。
けれど、不安は消えない。
森を吹き抜ける風が、突然、冷たく思えた。
もしも人と戦うことになったら……。
俺は命を奪うことができる?
魔獣だって死体に慣れるまで結構時間がかかったのに、俺に、人が殺せる?
そう思ったらまた心の奥が重くなる。
でも……。
俺は周りを見回す。
「おいおい、タクマ顔色悪いぞ?」
「ちゃんと休んでるか?」
「最近頑張りすぎだぞ」
「具合悪いなら先に帰れ」
心配して口々に声をかけてくれるこの世界で出来た大切な仲間たち。
「辛かったらいつでも言いなさい」
「うん」
そしてナイアさんがいる。
振り返れば堅牢な防壁があって、その中にはたくさんの人が居る。
深く息を吸い込む。冷たい森の空気が肺に満ちて、震えが少しだけ和らいだ。
冷たい森の風が髪を揺らした。
それでも、俺はこの場所を守りたい。
その想いだけは、例え何があっても見失うことはない。
この世界にも四季があり、寒暖の差は小さいが、風で季節の移ろいを感じられる。
今日も俺はナイアさんたちと魔の森境界線を巡回していた。
「はぁ~、今日もいい天気だなぁ」
「でも、少し寒くなって来た。もう薄着は駄目だな」
「お前、また腹出して寝てんだろ」
「してねーよ!」
軽口を叩き合いながら騎士たちは警戒を緩めず、森の中を歩く。
最初にここへ来た時は、なんて歩きづらいんだって思った森だけど、もう歩き方にも慣れた。
買ってもらった長いブーツは丈夫で、枝に引っかけても傷もつかない。
俺のスニーカー、ボロボロになっちゃったもんな。
「ジェミ、もう他にはいなさそう?」
ポケットから出したジェミに話しかけた。
「周辺五百メートルニ魔獣ハイマス。デスガ、ソレラガ新種カ、判別不能」
「そっか」
実際にランタンの中まで入ってこないとジェミにも分からないらしい。
「申シ訳アリマセン」
「侵入に気付けるだけで十分です」
「感謝」
フォローに応じて、可愛らしい顔を画面に映した。
お前、俺に合わせてカスタマイズされているせいで、ナイアさんのこと好きだな。
分かっていますよ、みたいな顔文字出すな。しまえ。
俺はジェミが余計な行動をとっても分からないように、ポケットにしまう。
アッシュ様が作った通信機で、ジェミの警告が全隊へ届くようになった。
そのおかげで巡回は効率化し、三カ月で五体の新種を討伐できた。
ヘビ型の魔獣を見つけて以来、奇妙な個体の発見が増えている。
三カ月の間に五体の「異種」を討伐した。
魔獣除けの中へ入って来る個体は、数も大きさも、そして「混ざり具合」も増している。
専門家たちの見解では、やはり人為的に生み出されている可能性が高いという。
「誰が、何の意図で作り出してるのか分からないのは不気味ですよね」
「しかも数が増えているということは、実験が続いているという証でしょうし」
今回みつけたのは狼にコウモリの羽と爬虫類の鱗が混ざっていた。
ルーデンさんが死体をバッグに収納しながらナイアさんと話している内容に、意図せず俺の口からぽつりと言葉が漏れた。
「……何のために?」
一瞬、沈黙。
「そりゃあれじゃん、これを使って戦争を~とか、まぁ、こんな小物じゃ無理だけど」
俺の言葉を拾ったランドが冗談めかして言うと、騎士たちは体を強張らせた。
「!?」
戦争……。
俺は無意識に魔の森の向こう側へ目を向けた。
その方角には、いまも不穏な動きを見せるロアーム国がある。
かつては緑豊かで、魔の森と山脈に囲まれた静かな国だった。
だが、新しい王が即位してから、すべてが変わった。
相場を踏まえ適正な価格で売っていた産出物の値を釣り上げ、金属や用途不明な素材を買い漁っている。
交渉も粗雑で高圧的になり、今まで友好的な関係を築いてきた国も、距離を置き始めていると聞いた。
やたらと国内への出入りが制限されているとか、活気がないとか。
あまりいい噂も届いてこない。
「あの国なら、やりかねない……かも」
実際に俺が会ったあの国の王は、そうしてもおかしくないと思うような人物だった。
ナイアさんも同じことを考えたのか、視線が合った。
「思い込みはいけませんが、嫌な予感がしますね」
「うん……」
戦争……。
俺が知っているのは歴史と映像の中だけ。
人が死ぬ。
想像するだけで見えない悪意が足元から這いあがって来るみたいで、体が強張っていく。
「タクマ」
触れ合うような距離に温かい体温を感じる。
背中が大きな手で軽く叩かれ、俺は呼吸を思い出す。
ほんの数秒の触れあい。
そして静かに離れていく、温もりだけが残った。
「うん、大丈夫」
心配するナイアさんに笑って見せる。
けれど、不安は消えない。
森を吹き抜ける風が、突然、冷たく思えた。
もしも人と戦うことになったら……。
俺は命を奪うことができる?
魔獣だって死体に慣れるまで結構時間がかかったのに、俺に、人が殺せる?
そう思ったらまた心の奥が重くなる。
でも……。
俺は周りを見回す。
「おいおい、タクマ顔色悪いぞ?」
「ちゃんと休んでるか?」
「最近頑張りすぎだぞ」
「具合悪いなら先に帰れ」
心配して口々に声をかけてくれるこの世界で出来た大切な仲間たち。
「辛かったらいつでも言いなさい」
「うん」
そしてナイアさんがいる。
振り返れば堅牢な防壁があって、その中にはたくさんの人が居る。
深く息を吸い込む。冷たい森の空気が肺に満ちて、震えが少しだけ和らいだ。
冷たい森の風が髪を揺らした。
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その想いだけは、例え何があっても見失うことはない。
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