異世界召喚されたらハズレだと舌打ちされて捨てられました。死にたくないから全力で生きる!

中洲める

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43話 エピローグ1

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 魔獣討伐から一夜明けて、夜明けとともに出発した俺たちは、昼過ぎには辺境伯領に戻っていた。
 街の人たちは魔獣討伐完了の報告を聞いて、沸き立っている。
 何せ領民に外出禁止を命じるほどの緊急事態だったんだ。
 その原因である魔獣が討伐されたのだから、彼らの表情の明るさは理解できた。

 けれど、嬉しそうに語る領民の言葉は、討伐の喜びばかりだった。

 斥候部隊が報告をもって先に戻っているのだから、情報は伝わっているはずなのに、どうして?
 辺境伯様は何か意図があるに違いない。
 そう確信して、俺はナイアさんにそっと小声で尋ねた。

「まだ魔の森が消えたことまでは伝わってないんだ?」
「我々の報告を待って、しっかりとした調査が行われた後、正式な発表となるはずです。ただ、噂レベルでは広がっていくでしょう」
 馬を並べて歩くナイアさんが教えてくれる。
「今伝えないのは何で?」
「確証がないまま発表してしまえば、危険が潜むかもしれない場所に、民が足を踏み入れてしまうでしょう?」
 魔の森は消えたかもしれないが、まだ見える範囲だけの話。
 奥の方がどうなっているかはまだ誰にもわからない。
 それに、魔の森ではなくなったが、そこが安全である確証はない。
 だから無為に近づかないよう注意喚起しながら、段階を踏んで発表するつもりらしい。
 噂が広がったなら、まだ調査中であるから近づかないようにと段階を踏んで、発表するつもりってことらしい。

 なるほど、伝えていい報告と伏せるべき情報があるってことか。

「情報を管理する側の人って大変だねぇ」
 俺はニュースで見ることしか知らなくて、こんな風に民を動かす人がどんな考えを持っているのか深く考えたことはなかった。
「これからはタクマもその立場になるのですから、一緒に勉強しましょうね」
「え、なんで?」
「私と一緒に居てくれるのでしょう?」
「……そうだった」
 ナイアさんの傍にいるということは、俺もそっち側に立たなきゃならないんだ。
 でも、俺に出来るかな……?
 辺境伯様みたいに、ナイアさんみたいに。
 そんな風に思っていたら、手を握られた。
「これから時間はいくらでもあるんです。ゆっくり覚えていきましょう?」
「うん」
「私がずっとお手伝いします」
 甘く微笑むナイアさんの表情は、まだ慣れない。

 馬を寄せて声を潜めているついでだというように、内緒話は続く。
「本当は一緒の馬へ乗って帰って来たかったんですよ。あなたを抱きしめていたかったので」
 昨日からずっと暇さえあれば俺に触れるナイアさん。
 すごく楽しそうで、そしてとても幸せそうな笑顔を見せてくれる。
 俺の存在がその表情を引き出してるんだって思ったら、いくらだってどうぞと言いたいところなんだけど……。

「俺にはまだハードルが高いです……」
 いや、散々騎士たちの前で告白大会して、なんならみんなの前でキスもしちゃったりしたけど!
 あれはその場のノリというか勢いであって、人前でイチャイチャする勇気はない……。
「まだ、ね」
「うっ、人前ではちょっと……、恥ずかしい」
「では二人きりの時にたくさんしましょう」
 握っていた俺の手をそっと自分の方に寄せて、指先にキスをして優しく離す。
「ナイアさん!?」
「死角になるので見えませんよ」
 シレっとした顔で馬を進めるナイアさんは前と変わらないのに、俺に向ける視線が溶けるくらい甘い。
「……ナイアさん、キャラ変わった?」
 前はしっかりと線引きをしていたはずなのに、今はもうその境界を感じられない。
 それどころか隙あらばいちゃつこうとしてくる。
「いいえ? ただ、自重しなくなっただけです」
「そ、ですか……」
「ええ」
 く、俺を見るナイアさんの表情が甘い。甘すぎるっ!

 ナイアさんと気持ちを確かめ合って、相思相愛になった。
 晴れて恋人って気持ちだったけど、ナイアさんはそれだけでは済まなかったみたい。
 ジェミが還った後、みんなが見ている中でプロポーズまでされてしまった。


 突然跪いたナイアさんが俺の手を取り、「私の伴侶になってください」と指先にキスをした。

 あんまりに格好良くてときめきすぎて返事が出来なかった俺を、少し不安げな表情で見つめた。

 名前を呼ばれて、俺は慌てて「はい」と返事をした。

 その瞬間、周りで見ていた騎士たちから歓声が上がり、宴が始まってしまった。
 あいにくとお酒はなかったから、あるだけの食料を使って大騒ぎ。
 かつて魔獣に滅ぼされ人が住めなくなったその場所は、お祭り会場に早変わりした。

 その後は、ルーデンさんやランドには祝福されながら冷やかされるし、他の騎士さんたちにも祝われて昨日の晩は楽しかったけど大変だった。
 一緒に大騒ぎして、途中で力尽きて眠ってしまった。

 朝起きたらナイアさんに抱きしめられていて、すごく吃驚した。

 まぁ、そのまま朝からいちゃいちゃしてしまいましたが……。

 視線を合わせた途端、その時のことが脳裏に蘇り、頬が熱くなる。
 髪を下ろしたナイアさんが朝から迫ってきて……。

 キスも触られたところも、全部気持ちよくて、大きな手が……。

「タクマ」
 突然強い口調で名前を呼ばれて、俺は慌てて回想を振り切った。
 危なっ、何思い出してるんだ……。
「何?」
「そういう顔はあまり外でしないでください」
「え!?」
「そうじゃないと、閉じ込めたくなってしまいますので」
「ひぇ……」
 ナイアさんの色っぽく熱い視線に射抜かれ、心臓が跳ね上がる。

 俺の彼氏、もしかして独占欲スパダリってやつかもしれない?
 でも、そんなナイアさんも好きって思っちゃうから。
 俺の脳みそもだいぶ溶けてきているかも。



 馬を厩舎に預けて、領主邸へ入って行く。
 屋敷の雰囲気も明るく、すれ違う使用人は俺たちを見て笑みを浮かべて挨拶をしてくれた。

 そして執務室へ入る。

「閣下、ただいま帰還しました」
「ご苦労」
「お疲れ様」
 辺境伯様とアッシュ様が満面の笑みで出迎えてくれる。
 アッシュ様の腕で穏やかに眠るエリオット様。
 その安らかな寝顔を見つめていると、この子の未来を守れたんだって、そう心から思えた。
「魔の森が消滅したと……。それは事実か?」
 斥候からの報告は上がっていたが、まだ実感が出来ないのだろう。
 辺境伯様は半信半疑の表情を浮かべながらナイアさんへ開口一番問いかける。
「はい。まだ簡易調査の段階ですが、魔の森に漂っていた黒い霧は晴れ、魔獣は姿を消しています」
「そうか……」
 深く息を吐き、顔を伏せる辺境伯様。
 ナイアさんの口から告げられる事実に、ようやく実感が湧いてきたようだ。

 広い肩が小さく震えていて、もしかしたら泣いているのかもしれない。
 アッシュ様がそれに気付き、優しく背中を撫でている。

 あまり見てはいけないと思い、ナイアさんに目を向けると、彼の目も少し潤んでいた。
 視線を感じたのか、俺を見下ろし柔らかく微笑む。
「タクマ、本当にありがとうございます……」
「え、俺!? いや、やろうと思って出来たわけじゃなくて……」
 世界を救おうとか、未来を守りたいとかそんな大それた目的なんてもっていなかった。
 ただ、両手に抱えられるだけの大切な人を守りたかった。

 それがたまたまこんな結果を運んできた。

 それだけなんだ。

 偉業みたいな言われ方をすると、恐縮してしまう。


「それでも、拓真が起こした行動の結果だよ。ありがとう、グラフィカを救ってくれて」
「君は、救世主で、勇者だな」

 グラフィカのトップに立つ二人にそんな風に言われたら、泣きたくなるくらい嬉しさがこみ上げた。

「俺、この世界に来て、よかった」

 意識もせず、そんな言葉が零れ落ちる。

「うん、拓真が来てくれてよかったよ」

 アッシュ様と微笑み合っていたら、ナイアさんに腰を抱き寄せられた。

「タクマについて追加の報告が、あります」
「どうした?」
 突然真剣な顔つきで新しい報告が始まり、辺境伯様が表情を引き締める。
「魔獣を倒した後、帰還の導きとなる光が現れました。ですが、タクマそれを振り切ってこの世界に残る道を選んでくれました」
「なに!?」
「え、拓真。帰りたいって言ってたよね!? 拒んだの?」
 二人に視線を向けられ、俺は静かに頷いた。
「ナイアさんと一緒に居たくて、残る事にしました」
「私の伴侶になってくださるそうです」
 言いながらナイアさんが俺の右手を取って指先にキスをした。

「ナ、ナイア……えっ、本当に!?」
「タクマ、事実か?」
「はい」

 動揺する二人に俺ははっきりと頷いた。

「よかった……本当に、よかった」
「うむ、めでたいな。そうか……」

 お二人はナイアさんの気持ちに気付いていて、出来れば俺に残って欲しいと思ってたらしい。


 なぜ気づかれたのかと尋ねたナイアさんに、『分かりやすすぎる』と、二人そろって言われていた。



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