同窓会

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1.死想

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 どこからともなく聞こえる怒声…。
当り散らすように鳴る電話や、コピー機の発信音…
どこにでもある会社の日常が繰り返される。
「音川君!ちょっと…。」
部長の藤田が一人の女性を手招きして呼んでいる。
 彼女は音川恵二十七歳、大学卒業後フリーターを辞めたばかりのOL二年生の新人である。良い男性がみつかるまでの暇潰し、今している仕事は彼女にとってはそれ程度だ。
「はい、なんですか…?」
 少しつれない態度で小走りに部長の元へ行く。
「なんですか?じゃないだろ!?なんなんだこの予算報告は!間違いだらけじゃないか」
 やはり、大抵こう言う時は叱られるものだ。
「すいません、やり直します。」
 言い慣れたそのトーンが彼の頭を沸騰させる要因になるのは言うまでもない。
「あのねぇ、高村専務から君達を正しく指導するよう言われている俺の身にもなってみろ!お前も旭川も学生気分でやってちゃ困るんだよっ!」
(あ~ダルイ…、早く終わんないかなぁ~。)
 誰から教るで訳でもなく、この年代の人は表面謝罪して、裏面では“柳の如く”なのが上等手段なのだ。相手にしない事でストレスを最小限にくいとめてしまう。
─お昼 屋上
「あ~っ、もうまたシクちゃった!」
「私ら本当苦手っつうか身が入らないよねぇ~。特に事務作業とかさぁ~。」
 彼女は高校時代から親友の旭川涼、以前は化粧品を扱う会社に勤めていたが、私が誘うとあっさりこの会社にくらがえした。
「よっこいしょっ!」
 ちょうど中高年と言うぐらいの年齢に見える男が、何の断りも無く二人の楽しい昼食にずうずうしく割行った。
「!?」
「専務っ!」
「いやぁ~っ、良い天気だねぇっ!おっ、タコさんウインナー!ちょっともらうよ!」
 顔に脂汗をにじませた中年男は了解を得ずに、指でウインナーを取り上げて口に運んだ。
「ちょっ…!」
「いやぁ~うまいうまい!良い嫁さんになれるよ!」
 そう言うと高村は恵の肩に手を置いた。
(このオヤジィ~!)
「あっ!そうだメグ、まだ会計の書類ができてなかったんだ!行こっメグ!」
「うっ…うんっ!」
 二人は弁当をイソイソと片付けて、走り去っていった。
「働き者だなぁ~ハハハハハ!」
(あ~助かった!)
 彼女は言い様の無い嫌悪感を未だに感じながら、涼と顔を見合わせた。
「ありがとぉ~涼!」
「気をつけなよ恵~、ほんとあのオヤジ腹立よね。目つきがエロイし。」
「あっ!そうだ、今度の日曜日に一緒に食事行かない?私オゴるよ。」
「えっ!?やった、なんか無いとヤル気でないよ私!」
 馴れ合いの日常、ただ過ぎて行く時。平平凡凡は骨頂を極め、今日も赤陽が地に沈む。
─日曜日─
 よそ行きの服装で会社からの束縛をいくらか開放して、待ち合わせの約束をした都内のカフェテリアへ午後の一時を過ごす…彼女達のささやかな幸せだ。
「お待たせぇ~っ!」
 恵は足早にこちらへ来る涼に向かって、少し照れながら手を振り返した。
「もう~遅いよぉ~、朝のケーキバイキング終っちゃったよ~?」
「ゲェ~!?マジで~っ!?ちょっと服選んでたら遅くなっちゃってぇ…。」
「涼って高校の時もそんな理由で遅刻してたよねぇ♪」
「別に良いじゃ~ん、あっ私ミルフィーユとブルマンで。」
「ナニその組み合わせ!?超変!てか、にゃにゃにゃにゃ~いっ!」
 二人は談笑を繰り返して、ホコリのように積もった不満を燃焼させ顔も明るくなった。
「高校って言ったらさぁ、私卒業してから皆とあんまり会ってないんだよねぇ。」
「私も~、綾子とかどうしてるんだろね~?」
「なんかナースやってるらしいよ、瀬和さんから聞いたから多分そうなんじゃない?」
「そうなんだ~、皆変わってくんだよねぇ~。ところでさぁその服…」
 二人の会話はとめどなく続き、すっかり夜になった頃…彼女達の噂する“綾子”も自分の人生を彼女なりに人生を楽しんでいた…。
─荒田家─
 ガチャガチャ…、少し中性脂肪の数値が高そうな男がDVDケースの山で何かしているのを綾子はそれを見て「またか…」と思いつつその様子をしばらく見ていた。
「ちょっと、さっきから何しているの?」
 彼は自慢のビデオコレクションを整理しているらしいが、こちらから客観的に見れば散らかしていると言う方が正しい感じである。
「もう聞いてるの!?何してるのよ?」
「いやさぁ、撮影した動画が溜まってて困ってるんだよ。」
 荒田は学生時代からカメラ撮影や映像加工が好きで、現在もその類の事を仕事としている。
「ラベル貼ってあるんでしょう?必要無い物捨てちゃえば?」
 そう綾子は半分飽きれ気味で言ったその時、荒田の手が一つのDVDを掴んで静止した。
「何だ、このDVD?あったっけ?」と、首をかしげて言う。
 綾子は仕事に行く支度をしながら、そこら辺りの管理もしていないのにヤケに物分り良く言った。付き合いが長いと、こう言う事も感覚的に理解しているのだろう。
「それってずいぶん前に『ハンディカメラで撮った映像はDVDにしたって』言った一部じゃないの?」
 そう綾子に言われても荒田には合点がいかなかった、そもそもここに置いてあるのはいかがわしいDVD。妻にはバレまいとついた嘘に違いない…。そうなるとこのDVDは何なのだろか?とっ、荒田はDVDにふいと目をやった、『同窓会』と書かれたラベルが貼ってあった。同窓会……
「ああ!あれか!どうりで『同窓会』ってラベルが貼ってあんのか!」
 彼は取り繕って、もっともらしい事をペラペラと彼女に言った。
「それで思い出したんだけど、もうすぐ同窓会だったんじゃない?」
 そう言い終わると同時に彼女の携帯電話の呼び鈴がなった。ピリリッピリリッピッ
どうやらアラームのようである。
「早く行かなきゃ、私もうでるね!」
「そっか、俺はれがどんなやつか確かめとくよ。」
「うん、じゃぁね!」
 ガチャン!慌しく出た様子からして時間だなと荒田は察し、DVDをデッキに入れた。
「懐かしいなぁ~。そういや同窓会してなかったな…ま、いっか。どれどれ…。」
 彼はこうして同窓会のDVDを見る事にした。…しかし、多少疑問が残る。
彼は何故今日に限って片付けをしたのだろう?勿論、他に類を見ない程の気まぐれなら話は解るが、彼はそう言う性格を持ち合わせていない。普段から整理をしているような性格なら、どのDVDがどのような内容かわかるはず。つまり彼は普段から全く整理などせず、散らかり行くビデオを見て「あぁ片付けなきゃ」と思いつつ片付けられない性格の可能性が高い。
 この性格は増え行くゴミの山を毎度見る度片付けようと思うが、後でまとめてやろうと思いながら、結局自分で片付けられる許容量を超えてしまうのが大半である。ならば何故片付けを今日に限ってしようと思ったのか?
─風山宅─
「おさむぅ~、休みの日どこか連れて行ってよぉ~。」
「そうだなぁ~美加ちゃんの本性教えてくれたら海外にでも連れて行ってあげようかな」
「え~ぇ?じゃあ私、本性見せちゃおうかなぁ~っ?」
 トゥルルルル…トゥルルル、なんとも間が悪い電話だ…。
「あ、電話だゴメン。」
「ちょっとぉ~っ!もぉ~っ!!」 カチャ
「はいもしもし風山ですが?」
「ハァハァッ…風山か…?」
 随分息が切れている…。時間も深夜0時。その声は風山にとっては聞き覚えの無い様に彼は思った。しかし、ただ事ではない事は直感的に感じた。今思えば、この電話が全ての始まりとも言える…。風山は彼女に目で合図して、電話に専念した。
「たっ…ハァ…大変なんだ…ハァ…。」
「ちょっと待って?あんた誰だよ?」
「俺だよ!高校の時一緒だった荒田武だよっ!」
 風山はしばらく黙った、…荒田…?
「あぁ~っ!!武じゃんか、久し振りだなおいっ!」
「そうだよっ!」
「どうしたんだ急に息切らして電話してくるなんて?」
「それが…!来週の日曜は俺らの高校の同窓会なんだ!」と、彼は力んだ。
「なんだそんな事か、そういや同窓会やってなかったな。休日だし、用事あるやつは休ませて来させりゃなんとか約束果たせるだろ。」
「…っ:おっ…おう。その辺りはお前が得意だろ?」
「ああ、でもお前よく同窓会の日なんか覚えてるよな?俺も皆で何日か決めた事は覚えてんだけど、それがいつかってのを忘れちゃってさぁ。」
 そう彼は溜め息交じりに笑って言った。電話の向こうでも同じ風な笑い声が聞こえる。
「それが俺もすっかり忘れてたんだけどな、風山、高校の時にクラス全員が集まって遊んだ時の事は覚えてるか?あん時のビデオがあって、見た瞬間に思い出したんだよ!」
「…んっ?あぁ…あぁっ!やったやった!来週の日曜がちょうど約束の日って事か!?」
「そうだよ!DVDはお前の所に送っとくから同窓会の時にでも皆で見てくれ。」
「お前来ねぇの?」
「いや、行くには行くが…住所変わったやつ探すので当日遅れるかもしんねぇ。」
「でも、あん時に実家の住所は同窓会の日までなるべく変えないって約束したじゃん?」
「俺ら二十七だぜ?事情の変わったやつの目星も大体ついてんだ、高校の時新谷と一緒にチェックしたからな。」
「あいつかぁ、やたらに人脈広かったからな。」
「あぁ、それと同窓会の通知は二日前にしてくれ。」
 風山は彼の言った事が、全然理解できなかった。
「はっ?なんで二日前なんだ?」
「だってさぁ、お前が忘れてるぐらいの同窓会だぜ?早く知らせたら盛り上がんねぇ~だろっ!?だからギリギリに通知しようぜ!」
 彼はまるで高校生の頃のように、悪ふざけっぽく言った。
「それもそうだな、突然知らせた方が盛り上がるよな!」
 風山もまた、彼と同じように心の中をあの頃に陶酔させて言った。
「あぁ、だから二日前に頼むぜ。二日もあれば事は足りるだろ?要注意人物は今から俺が片付けるから後は任せたぜ。」
「あぁ!高校の時の約束通り最高な同窓会にしような!」
 風山が意気込んでこの会話の終幕は案外早くおとずれた。
 電話を置いた荒田はメモとDVDをケースに入れてテーブルの上に置いて、話ていた通りに住所の変わったと思われる人の所へと情報を確認しに向かった。これから地獄の旅が始まるとも知らず、彼の声を最後に聞いたのが風山になると言う事も…、全てはDVDの意志だと言う事も…。
「えぇっとまずは山本、こいつは確か予備校のゼミで一緒だったな。あん時に住所は聞いたしこいつの家に行ってみるかっ!」 ブォォォォッ…
 真夜中の人気の無い国道を車は走り出した。
 …ふと荒田は思った、住所を聞いたりする準備はしていたのに何故同窓会の事を忘れていたのだろう…。確かあの時は同窓会に呼ぶ事が目的じゃなくて、ただ単に旧友と再開して今どこに住んでいるのかって話しで確認しただけだった…。思えば、同窓会の準備さえ忘れていて、偶然俺の性格が上手く転用されただけかもしれない…と。
─山本家─
 ピンポーン、ガチャッ。中から明らかに肥満体型の三十近い女性が出てきた。人は良さそうだ。近眼なのだろう、セルタイプのあまりセンスの良くないメガネをしている。
「こんばんは、荒田と申します。」
 彼は軽く会釈した、先程の女性もそれに呼応した。
「夜分遅くすみませんが、山本のぼるさんはいらっしゃいますか…?」
「主人ならちょうど出掛けた所で、何か急用ですか?」
「いえっ!別に急用ではないのでまた来ます、ありがとうございました。」
「えっ?ええぇ…。」
 女性は少し首をかしげると扉を閉めた、荒田は急いで次に回って早く終わらせようと使命感に追いやられると言う感じでもあった。住所の確認さえ取れれば充分だ。
「次は瀬田さんか、確か俺の親戚の友達が栃木に移転したって言ってたな。詳しいことは親戚に聞けばなんとかなるだろう!」
 こうして彼は高校の友人にはなるべく聞かず、身近な人もしくは自分や新谷の人脈から転居(連絡のつかなさそうな人)している人達の住所を次々確認していった。
「ふぅ~、まさか森山が秋田に越しているとはなぁ。下宿先が東京じゃなきゃ探すのもうちっと時間がかかってただろうな…。」
 彼は手帳をめくる、夜は既に朝に近付き出そうとしている午前三時半…。
「もういねぇだろ…?ん~っと…岡本友子…?」
 要チェックの欄に○がついているが斜線がその上から引かれ、さらにグシャグシャと上から書き潰すように消してある。よくわからないので後回しにしたものだった。
「誰だったけかな~?まぁ女の子だし、問題ありでも結構こう言うやつは化けたりするからな。とりあえず誘うだけ誘っておきゃ良いだろ?」
 彼はそう言うと眠い目を凝らしてもう一度奮い立った。
─翌日─
「ダメだ…、誰に聞いてもわからねぇし…高校のやつが知っていても聞くに聞けないよなぁ…。転居しているのかどうかもわからないし…、とりあえず実家へ行ってみるか…。」
 車を急いで岡本宅へと向かわせた、すると意外な事がわかった。現在岡本一家は数年前に事件があって長女だけが東京へ移ったらしい。他の家族はどうなったかは知らないと現在そこ(岡本の実家がもともとあった所)に住んでいた人に言われた。他に手立ても無いので彼はとりあえず長女だけが転居した東京へ行く事にした。現在住んでいた人や不動産屋の人等から情報を得るのに時間がかかり、すっかり夜中になってしまった。
 ネオンがさんざめく都心からどれくらいの距離だろうか?その場所は都会っぽさが廃れた様なマンションがたたずみ、少し肌が冷えるような感覚を彼は直感的に感じた。郵便受けに「岡本」はなかったが他に手がかりはない。荒田は足早に階段を駆け上がった。
「あった、この部屋だ…。」
 他の部屋も回ったが『岡本』の表札はその部屋だけだった。不動産屋等の情報から考えてもその部屋が『岡本友子』の転居先である事は恐らく確実であろう。
「でも…、こんな時間だしなぁ…起きていないかもしれない…。」
 と、思いつつ呼び鈴を鳴らしてみた。ピンポーン………
「やっぱり出る訳ないか…。仕方ね、朝まで待つか。」
 そこから去ろうとした瞬間、ガチャとカギの開く音がした。荒田は喜んだが、次には不安を心の中でグルグルさせた。
(どうしよう、怒らせたんじゃ…。)
 こんな時間に起こされたのだ、相手が岡本ではなく全く別人であったならゲンコツの一発や二発食らうかもしれない。本人だとしても機嫌を損ねてしまったのでは?とも思った。
 しかし、ドアはギィギィギィィとゆっくり隙間を作り、中から幽かに聞こえるかどうかわからない恐らく昼間なら雑音に掻き消されてなくなる程の声が漏れた。
「どうぞ…」
 なんとも生力のない女性の声が聞えた。荒田は帰るのを止めて女性の部屋へと歩を進め返した。荒田がある程度ドアに近付くとドアはバタンッと閉まった、当然彼はまだ部屋に入っていない…、少し抵抗があったが思い切ってドアを開けた。ドアはとても重く、中と外の気圧の違いか早く開かずわずかに自分がちょうど入れる程度開けるのが限界だった。
 部屋の中は暗く人も部屋も殆どわからない、荒田から2~3m離れた所に先程の声の主と思われる女性が立っていた。何故だか知らないが妙に部屋が冷たく寒い。
 彼女はうつむいたまま言葉をあの生力のない声で再び奏で始めた。
「何ですか?」
「あっ…、え…っと」
 荒田はあまりの雰囲気に圧倒され「何ですか」と聞かれて、はて何だったか自分にもよくわからなくなった。彼は全力を尽くして声を振り絞った。
「えっと…あっ!岡本さんだよね!?」
「ええ…そうです。」
 会話の終わりに彼は激しい抵抗感を感じて、無理に会話を続けた。それは彼自身なんなのか全然わからなかったが、直感的に彼は意味なくそうせざるを得なかったのだ。
「さっ探すの大変だったんだ!」
 彼自身は彼女の住所もわかったし早く帰りたかった、しかし会話を終わらせてはいけない、帰ってはいけないと言う自身にも意味のわからない焦りと恐怖感があった。
「そうですか…。」
 会話が続かない…、薄暗い部屋に立ち尽くす二人の沈黙…。荒田の鼓動は意味なく臨界点へと跳ね上がり嫌な汗が額ににじむ。黙ってはいけない、彼は無理に声を絞り出す。
「あっ…っ…。」
 何も喋る事がなくなった彼は絶望感で支配されていた。通常こんなこんな事はありえない、彼には制御できない第六感がそうさせていた。
「動画…。」
 彼女はさき程よりハッキリ通る声でそう呟いた。まだうつむいたままだ。
「えっ…?」
「動画見て来てくれたんだ…。」
 彼女はちょっとうれしそうだった。彼は言い知れぬ恐怖心に心臓を掌握され、何故彼女がその事を知っているのか…さらには彼女がそもそも誰なのか…そんな事を早送りする映像の様に考え続けた。…帰りたいのに足は硬直し、ただ彼女と向き合うしか術がない。
「…そうだけ…ど?」
 こころとは裏腹に返答は明解だった。彼女はゆっくりと歩き出した。
「私の事覚えてる?」
 何の質問なんだ?全く意味がわからない。荒田はその言葉を聞いて、必死で彼女の顔を思い出そうとしていた。わからない…、彼女は岡本友子…。でもそんな奴クラスにいたか?喋った事も、話題にもなってないし、誰とツルんでいたかもわからない。彼女が同じクラスだったのか彼には思い出せなくなっていた。
彼女はいつしか荒田の目の前にスッと立っていた…。冷たく重苦しい空気が荒田を押し潰し、彼は微動だすらできない。荒田は必死で同窓会の映像を頭の中でリプレイして彼女を探した。どこにもいない!どの場面にもどの思い出にも…。記憶のありとあるゆる引出しの中に彼女の断片など全くなかった。
「忘れたの?」
 彼女は妙な優しさを含めてそう言うと荒田の手を握り絞めた。人間的な暖かさのない潤い過ぎた冷たい手を握った瞬間、彼の頭であの映像がもう一度再生された。今思うとあまりハッキリ見ていなかった気がするその映像。今度はあたかも今そこで見ているかのようにクッキリと細部まで鮮明に頭の中で上映され出した…。
 荒田は自分の記憶は完璧だと自分でも間違いないと意気込んだ、彼女はやはりいないと。
しかし、途中から一人が何時からかは解らないが周囲の輪からのけ者にされ、一人でいる女の子に気がついた。荒田の記憶内にはどうも欠損してしまった人物らしく、覚えがない。
(こんな子いたっけ?)
 その子のアップシーンになった、こんなシーンあったかどうか更に荒田は疑った…もしかして、この子が友子…?…友子…。彼の記憶で閉鎖されていた領域が徐々に開放されていた。それは開けてはいけない記憶の領域であるにも関わらず、一方的に開かれていく。
「思い出してくれたんだ…。」
 彼女は微笑んだ様子だ。ゆっくりと顔を上げると、同時に現実と頭で起っているDVDの映像とシンクロした。どちらの彼女も荒田を冷たく直視していた。彼は全てを思い出し、えたいの知れない光景に声にならない声をおののいてあげた…。彼は急いで彼女の家を出て無我夢中で車を走らせようとしたが、ついに力尽きてハンドルに体を突っ伏した。
 もう闇が明ける寸前だった、彼は死んでしまったのか…?それは定かではないが、ただもう二度と動かなかったことから考えれば死んでしまったのだろう。
 一方風山は荒田がどうなったのかも知らず、荒田が送ったのかどうかも解らない資料を見ていた。住所が変わった所へ直接行き確認したのは荒田だけ、しかし彼は完成間際で死に資料は遅れないはず…、察するに彼女が一端をかんでいるに違いないだろう…。
「なる程…あいつ群馬に越していたのか…よし、遠いやつは今日連絡すれば間に合うな。」
 この日は同窓会の日迄三日、荒田が死んでから三日が経っていた。風山は荒田がDVDを送ると言っていたのを思い出しながら、例のDVDを手に取って見ていた。
 これを届けたのは荒田の彼女綾子で、荒田の残したメモ見た為である。
『俺は同窓会に皆出席できる様に、住所が変わったと思う人の所へ行って来る。当分帰れないから、このDVDを風山に送っておいてくれ。』と、卓袱台の上にDVDと共に置かれていて、出掛ける前に同窓会の話をしていた彼女は疑う事無くDVDを送ったのだ。
 風山は荒田から手紙が来るまでDVDが見れて大勢が宴会できる場所を探していた。なかなか見つからなかったが三日もあれば充分である。また、休みが取りにくいであろう職業や性格の人には同窓会の事を事前に伝える事にしておいた。
 そして、それ以外の言い訳上手や休みの取り易い職業の人等は翌日電話する事にした。
まぁ、連絡が取れなくても約束の日だ、周囲がしっかりサポートしてくれるだろう。彼らは十年前に同窓会は前日まで話題にしない&連絡しない(幹事の荒田と風山以外)が、前日は皆協力して絶対に全員出席する事とクラスが全員一致となって約束したのだから。
 …全員の一致、団結力の高いクラスのまとまりが誰かの上に成り立っていた事は置き去りにされ、今その忘れ去られた踏み台が牙を剥いている事に誰も気付くはずがない…。
─同窓会前日、渋谷・某カフェテリア、涼と恵は又いつもの様にウップンを晴らしていた。
「ちょ~さ、まじウザくない!?専務の高村っ!」
「ていうかさぁNGだよね!完全にイッてよしだよ。」
「でしょ?…あ、もう卒業の季節なんだ。」
 涼は窓越しに花飾りを付けたままの学生達を羨ましそうに打ち眺めながら、彼女は溜め息を深くついた。何か思い出に浸っている様だ。記憶を巡っている時の遠い目をしている。
「そうだねぇ。」
「そういやぁさ、同窓会ってやったけ?」
 涼は思い出を探りながら言った、恵は目を丸くして答えた。
「何言ってんのよ!?明日でしょ!」
 涼は身を乗り出した、不意を突かれたご様子。
「え~っ!?マジで言ってんの!?」
「マジ!」
 恵は涼を落ち着かせた。
「恵よく覚えてるね。」
「私も昨日まで忘れてたの(笑)」
 涼は不思議な顔をして「昨日まで?」と聞いた、恵はほくそえんだ。
「うん(笑)、風山がさぁ~”明日同窓会だから○○さんとか、ちゃんと誘っておいてくれよ!“って。いきなりだけど、皆で約束したの思い出して。」
「かぁざぁやまぁっ~?!」
 彼女はもはやそれどころではないようだ、二人は顔を見合わせて大きな声で笑った。
─同窓会当日─
 荒田と風山の努力と、皆での約束が身を結んだのか欠席者なしということで始まった。 
 しかし、全ての席が埋まった訳ではなかった。三つ…ちょうど人数分ある席が埋まらない。だが、誰も気に止めるけはいは当然の様にない。当然といえば当然だ。こう言う集まりとかには必ず出席できない人や遅れてくる人がいるものである。いくら結束力が高い集団でもやむ得ない事情が発生するのは止め様がない。
「おー久し振りじゃん恵!!」
 一人の男が恵の方へやってきた、男はあまり顔が変わらないのですぐに誰かわかった。
「ゲェ~あなた矢島君!?ずいぶん派手になったね…。」
 オメガの時計に高級スーツ、グッチの財布…ホストでもやってんのかこいつ。
「お前こそ人の事言えんのかよ?化粧濃いぞ(笑)」
「ひょっとして風山君!?え~っウソッ~!?」
「風山君どれくらい人を呼んだの?風山君が幹事だよね?」
「もちろん、約束通り全員呼んだぜ。て言っても荒田が主幹事だからわかんねぇけどな。」
「荒田君?来てないみたいだよ?」
「そうだな…?なんか住所変わってそうなやつを探すって言ってたから、それに時間かかってんじゃんねぇのか?後二人来てないし、多分そいつら探しているんだろ。」
(でも住所録は届いたしな…、他の用事ができたのかもな…。)
「その内来るっしょ!?」
「そうだね。」
 涼と恵が去った後、一人の女性が風山の腕をつかんだ。
「!?」
「ちょっと風山君…。」
 彼女は目で裏へ行こうと合図した。風山は嫌な予感がしたまま、盛り上がる会場を後にした。会場では幹事がいなくとも勝手にカラオケやパーティゲームが横行していて、誰も二人が抜けたことを気にしなかった。長いテーブルを囲み旧友と語らう…変わった者、変わらぬ者:皆大人へとなっていた。店の人も忙しく料理を出し入れする。
「あのね風山君…、武の事なんだけど…。」
 綾子はとても悲しい表情で彼を見つめていた。ちなみに、武とは荒田の名前である。
「あぁ…今日来てないみたいだけど…?」
「彼…変死したの…。」
 風山は全く状況が飲めなかった。賑やかな会場とあまりにもかけ離れた話だった。
「変死…??」
「私が夜勤に行った後に住所の変わってそうな人の所へ行ったの…。風山君…そのことは知っているわよね…?」
「あっ…あぁ…、電話もらったからな。綾ちゃんが夜勤だった事は知らないけど…。」
「夜勤が終わって家に帰っても誰もいなくて…。」
「荒田と付き合ってたのか?」
「同棲してたの…、彼とは高校から…もうすぐ結婚をしようかって話しもしてた…。」
「そう………か…。」
「夜になっても連絡がなかったわ…、翌朝になって警察から連絡があって…昨日葬儀が終わったばかりなの…。ねぇ…?何か知らない?何でも良いからっ!」
 彼女は風山に掴みかかった、彼は目を丸くして狼狽した。
「しっ…知らねぇよ…!俺は荒田とは別行動だったんだ…。」
「そんな…。」
 彼女は肩を落としてひどく落胆した。
「そうだ…、あのDVD…。」
 風山は自分のバッグからDVDを取り出してきた。
「それ…私が送ったやつだね。」
 このDVDは彼女にとっては遺品になる、彼女は感慨深そうにそっと手に取った。
「彼がこのDVDのラベルを見て同窓会を思い出したのよね…。」
「中身は見てないのか?」
 彼女は首を縦に振った、最後に彼の顔を見たその日の事を思い出している様に感じた。
「私は夜勤だったから…、でも武は見たはずよ?彼、中身を確認するって言ったし。」
「これ、俺も見てないんだ。荒田のやつDVDが面白いって言ってたし…。何か手がかりがあるかもしれない…。」
「うん…そうかもね…。」
「まぁ、今日は同窓会だしこのDVDも盛り上げる為に荒田がくれたんだろ?だったら楽しんでやらなきゃ。」
 風山は暗く落ち込ませるのを嫌がって、彼女を盛り立て会場に戻った。
キャハハハ♪カンチャカンチャ
「お待たせしました、こちらビール七本と盛り合わせ四人前になります(疲)」
「なぁ!そこの大型テレビ、DVDデッキ付いてるけど何かないの?」
「そうだよ、何かねぇのかよっ!」
 二人の男が女性の店員にからむ、店員は顔に嫌気をにじませた。
「すいませんお客様。当店ではDVDの方ご用意しておりませんので、お客様ご自身がご用意して頂く事になっております。」
「ちっ…、こんな事ならAVでも持ってくるんだった。」
 風山は大山と金田の二人に近付いて言った。
「ハハハハ!AVはいくらなんでもな?それよりこれ…覚えてるか?」
 手に持っていた“同窓会“のラベルが貼ってあるDVDを見せて得意気にした。
「何それ?」
「…同窓会って…、今日のことじゃん???」
 確かに、彼女が言うことは的を得ている。と言うか、なぜこのDVDが『同窓会』という題名なのか、不自然なことは揺ぎ無い。荒田がどういう性格であったにしろ、その題名が適当に付けられたものだったのか何なのかは誰にもわからない事と言えそうだ。
「いや~、実は俺にも詳しくわかんねぇんだけど。荒田のやつがこれを送って来たんだ。」
 当然、風山もDVDの正体や真実はまったく知らない。ちょっと困りながら涼に説明した。しかし、涼は荒田と言う名前を聞いて急に抗顔になった。
「あー!あのカメラオタク!?」
「あれ…?今日来てないよね…、荒田くん…。」
 風山は少し顔に蒼褪めを感じたため、必死で笑顔を取り繕った。だが、酒を少しあおっていたためか、皆はその事には気付かなかった。
風「ああ、そうだな。」
大輔「何のDVDか気になるよな…?」
金村「風山中身は見たかのか?」
 風山は首を横に振った。
風「俺は忙しくて見る暇なかったんだ。」
大輔「だったら見ようぜ!デッキあるみたいだしな!」
 一同も同じくそれに同意した。そして大歓声に似た拍手の中DVDはデッキへ…。画面にはリモコンによる操作が表示され、動画が再生された。湧き上がる歓声…
「え~っと今…何だっけ?」 アハハハッ!
 DVDは高校生時代の姿をありありと映しだし、会場は一気に沸いた。
「ゲェ!俺じゃん!」
「うわ~っ!若いし噛みまくり!」
 アハハハハッ…一同に笑いが込み上げる。そして、おぼろげながらに十年前の事をみんな思い出した。普通なら十年前程度の事を忘れる事はないかも知れない。しかし、彼らはしばしば皆で集まって遊んでいた為“一週間前の昼食“程度の記憶レベル。あなたは一週間前の昼食を覚えているだろうか?彼らにとって約束の日は多少豪華になっただけで、カメラが回っていた事以外はいつもの事。だから、約束の日は覚えていても細かい事は十年も経てばすっかり忘れてしまう事、故意的ではなく自然に記憶が劣化したのだ。
「えっと、今日はクラスの皆で遊んでます!」
 恵は咄嗟に顔をそらして赤面していた。
(あっ…!私だ…、こうして改めて見るとかなり恥ずかしいな…。)
「恵ー!昔と今別人じゃ~んっ!?」
「涼だって人の事言えないじゃない(笑)」
 赤面するような映像が次々と飛び出す…、皆の会話も次第に盛り上がる。
(…ただの記録映像だな…。まぁ、突然死なんて珍しくないし。)
 風山は一人そう思い、皆と共に談笑を始めた。綾子も少し気持ちを落ち着けた様だった。
「…あの子…、誰だっけ?」
 突然眉をひそめ涼が呟いた。だが、誰も彼女の問いに答えない。いや、わからないのだ。
「どの子?」
「ほら、あの端の子…。」
 画面の左端に、大人しい暗闇を背に共有させている子が鎮座していた。
「この中にいるーっ!?」
 一同がお互いを確かめ合うが、どうもここにはいないらしい。
「…ひょっとして…友子…?」
 皆は目をぎょっとさせた、そしてせきを切ったように納得を示した。
「そうだよ!友子だよ!」
「思い出したぁっ!」
「そりゃそうだ、お前が一番面倒見てたもんな!」アハハハハ!
「あー、ね。今見てもキモイよね。」
「うん。」
 ビデオのシーンはちょうど友子が罰ゲームをするシーンだった。
「えーっと、今から友子が罰ゲームをします!」
 映像の中と同じ様に盛り上がる会場、本人がいないからか?イジメとは被害者以外にとってはゲームを盛り上げるのに不可欠な要素でしかない。友子の顔がズームアップされ画面一杯に表示され、なぜか今まで止む事のなかった罵声やあおりが一瞬で消え去った。
 まるで、周りには誰一人も存在しない彼女の持つ孤独と言う闇に入り込んだかの様だった。雑音さえない無音の闇は液晶越しに会場を凌駕して、同じ空間を演出していた。
(やけに静かになった…?)
 少し俯いた二つ括りの真面目そうな顔はいつになく暗く、何も提示しない。無音の闇にその蒼褪めた顔だけを画面に浮かべている。突然、そんな彼女の目の動きがおかしくなった。機能を失ったように乱れ眉間によっていった。そうかと思うと今度はその理性のカケラもない黒目だけが中央で激しくブレ始めた。皆、その黒目だけを追い、沈黙したまま微動だにせず、異様な映像に釘付けになっていた。
 中央で焦点を完全に喪失したその目を閉じた瞬間、眉の上に一線の傷が浮かび、鮮血がにじみ出た。眉の上の傷はゆっくり割れて、どこからともなくミチミチと肉が裂ける音が聞えていた。そこから凍てつく様な人間には不要な眼が現れ、全員を睨み付ける。映像なのに目が合う感じがしてたまらない。
「…っ…っ…?イヤァァァ~~~ッッ!!」
 目をそらすことは出来ない、その目の上にある目は死んだ魚の目より淀んでいる。
「なっなんだよこれ!」
 狼狽する一同、背中に貼りいた凍りつく様な恐怖感がいつまでも体を支配する。
「しょうもねーっ!どうせ作り物だろ!」
「知るかよ…!」
「嘘つかないで!グルなんでしょっ!」
「そっ…そうだ!まだ来てない三人と組んでんだろっ!」
 周りが一瞬にして冷めていく、作れそうもない映像に皆否定論しか言えない。そんな戦々恐々する一同の中、ひときわ体を震えさせている女性がいた。
「どうしたの綾子…、さっきから…。」
「荒田君…、この前死んだの。」
 冗談にしては度が過ぎている、場の雰囲気は最悪を超え修復できない状態になっていた。
「ついこの間の事だったわ…。」
 風山は止めるよう目で綾子に合図したが、彼女は話を責務であるかの様に続けた。
「そのDVDが急に出てきて、彼は見たらしいの…私が夜勤に行った後。」
「ちょっと待ってよ…、彼って…?」
「綾子は荒田と同棲してたんだ…、結婚間近かだったんだって…。」
 風山はなぜだかはわからないが、綾子と荒田の関係を説明した。つい先程綾子から聞いた話をさも随分知っているかの様に綾子に代わって皆に説明する。別に荒田はもう死んでいるし、気にする程ではないが…ともかく一同はその話も話題にできないほど恐怖に縛られていた。普通ならこんな話は盛り上がるネタなのに、誰もそうはしなかった。
「そうだったんだ…、それで…?」
 桝田は続きを聞いた。一同も激しい混乱から逃れ様と話の続きを待つ。
「私が夜勤から帰ってくると、机の上にメモがあったわ。そのDVDを風山君に送るように、自分は住所が変わってそうな人の現在の住所を確認しに行くからって…書いてあったわ。でも、火曜の夜になっても彼からは連絡がなかった。私はそれでも住所の変わった人達を探しているのかと思って…、何とも思わなかったわ。」
 綾子の落胆した顔は心痛で歪み、一同に更なる不安を募らせる。
「翌日、警察の人が家に来て…変死したって。」
 誰も彼女の話を阻害せず、人形のように硬直していた。それは、今されている話が恐怖を払拭するどころか増長させる様な嫌な予感が皆していたからである。
「……マジかよ…。」
「私、その後急いで葬儀をしたからあまり詳しい事は聞けなかったけど。水曜の早朝に死亡したって、原因は不明だったわ。」
「ちょっと待てよ!あの住所録は荒田が作った物だろ!?誰が俺に送ってきたんだ?」
「もうやめてっ!イイ加減ウザイッて!」
「そうだよ!こんなつまんねぇイタズラ何が楽しいんだよ!」
 画面の中ではいつも通りイジメが繰り返し行われていた。沈黙と恐怖が占拠する会場に、映像の中の歓声が虚しくこだまする。恵は誰も座らない席を眺めながら言った。
「今日来てない人って荒田君と友子と…、後一人って誰だっけ…?」
「…清津君だよ…、このビデオの撮影者の…。」
「そう言えば荒田と橋田と清津は写真部だったな。」
「僕達は存在薄いほうだったからね…、皆忘れても仕方ないよ。」
「どうせ…そいつも一緒に組んでんだろ?」
 一部の同級生は怒りで恐怖を紛らわせ、現実に背を向けることでわずかな平常心を保っていた。そうする事で強い自分を去勢で良いから作りあげ、恐怖から身を守っている。
「私思い出したよ!確か荒田君があの日は休みで、変わりにカメラを回していたのよね」
「そうだよ、その後死んじゃったけどね。元々清津君は体が良くなかったから、誰も不思議に思わなかったけど…、この動画を撮ったのは清津君だよ…。」
「えっ…?武じゃぁなかったの?」 ※武は荒田の名前です。
「うん…、僕は今でも覚えているよ。久し振りの撮影だって張り切ってた清津君の顔が急に死人みたいに青白くなったのを…。」
 一同はこれ以上ない程に最悪な顔をしていた。もう、恐怖を感じる余裕さえなくなっていた。聞き取れないほど岡本の小さな泣き声が全員の耳と心を激しく痛ませる。
「…恨みなんて言うのかよ…?」
「変なこと言わないでよっっ!!」
「いじめてたやつが言うなよっ!」
「本当ウザイッ!もういいかげんにして!」
「ちょっと落ち着いてよ!」
「どうしてこんなくだらない事思い出さなきゃいけないのよっ!」
 まだ映像の中では、イジメが楽しいゲームとして横行している。
「は~いタバスコジュース♪超おいし~んだから。」 ビシャッ!
 わざとらしく赤く滲んだ液体をこぼす昔の涼…、それを見て笑う過去の自分達…。
「あっごめんねぇ~」
「早く飲まねぇからだよ!」
 笑いに包まれる過去の映像…、全く対照的な今の自分達を支配する闇黙…。
「みんないじめてたじゃん。」
「ちょっ…!人の事言えんの!?」
 涼は冷たい目をしていた…、とても鋭く氷針の如く恵を睨み刺した。
「あなたこそ…。皆もそうだよ。」
 涼はその冷徹な視線を一同に突き刺し、凍える様な零気を漂わせた。
「何がだよ!」
「やってたのお前だけじゃん!」
「傍観者もいじめをしているのと同じよ…。」
 皆怒りをあらわにした、自分達がこんな原因でこんな事になった訳ではないと否定の怒りだ。責任を彼女一人に負わせる為の手段でもある。
「どうしてだよ、おめぇが…。」
「あなた達…見ている事イジメの参加者って事、知らないの?」
「でも何もして…。」
「そう、あなた達は何もせずいつも楽な立場にいた。」
「だから…?」
「助けようとした?止めようとした?あなた達は関係無い顔して笑ってた…。ねぇ知ってる?殺人は直接手を下してなくても…見ていただけでも同罪なのよ?関係ない顔して知らないふりしている…。でも、それこそがイジメ…。」
 誰も反論せずに黙り続けた…。イジメを一つのゲームとして皆で楽しんでいた最低な過去を、一人一人噛み締めている様でもあった…。後悔の極みを共有していた。
 一同がその場で固まっている中、風山は住所録を眺めて言った…。
「そう言えば友子の所も住所変更になってたな…。」
 ポツリとつぶやくと、三つの空席が妙に怪しく見えた。
「なぁ…、きちんと訂正されてるって事は来るんじゃないのか…?」
 誰もが耳をふさぎたい様子だった。顔を沈ませ、恐怖に怯えだし始めていた。
「来るよ、来ていない三人のうち二人は死んでいる訳でしょ?最後の一人は友子しかいないじゃん…。必ず来るよ、他の三人と同じ姿にするためにね…。」
 風山はまくしたてるように帰る準備を仕出した。
「なっなぁっ?会場を変えるって言うか、もういいんじゃね?待っても来なさそうだし。」
 皆の顔が一瞬にして明るくなっていき、息を吹き返した様にざわつきだした。
「それ良いな、もう俺なんか疲れたし。」
 反対する者は居るはずがない、こうして約束の日・同窓会は最悪な余韻を強く残したまま終わりを迎えた…全ては自分達が確かにしたイジメが全ての原因だった。
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