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【12話】

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フォッグ伯爵夫妻を部屋に招くと、夫妻は怒涛の勢いで語りだした。

8年前の謝罪から始まって、その後のカクタス様の様子や、現在までのカクタス様の話を延々と聞かされた。

そして、改めて婚約しないかという話に、私は血の気が引きながらもちゃんと答える。

「私にはこの舞踏会の後、第三王子殿下の婚約者候補としての話が来ておりますので、申し訳ありませんがそのお話は聞かなかった事にさせて頂きます」

私がそう言うと、フォッグ伯爵夫妻は残念そうにしながらも、その目は笑っていた。

この方達は、何としてもカクタス様と私を婚約させる為に国王に進言したのだろう。

国からの招待状に書けば、いくらローズミスト侯爵家でも断れない。

婚約者候補として選抜なんて書いてあったけど、私と婚約させる為のデキレースだ。

ゲームでも、カクタス様にだけ真実は伝えられないまま私と婚約させて、ローズミスト侯爵家の後ろ楯が盤石になってから公表する流れだった。

ゲームでの主要令嬢の家は、カテドラル王国にとって無くてはならない重要な役割を担っている。

マゼンダ・オーキッド様の公爵家は王家の血が絶えないようにと、王族の血族のストックとして血が薄くならないように、度々王家との婚姻や降嫁がなされている家だ。

バイオレット・ローシェンナ様の侯爵家は聖職者が多く排出される家系で、歴代の聖女もこの家から何人か出ている。

カナリア・ナイルブルー様の侯爵家は武力に長けた一族で、近衛の3分の1はナイルブルー家の血筋だ。

そして、ローズミスト侯爵家は経済においてとても重要な一族で、侯爵領に巨大な鉱山と古代遺跡を持っている。

鉱山から採取出来る宝石は良質の物が多く、採取の一割を国に寄贈している。

…納税とは別口で。

古代遺跡は、所謂ダンジョンと言うもので、その広大さから攻略が終わっていないとされ、領の街に数多くの冒険者が集まる。

冒険者が集まれば、商人や鍛冶屋も集まってきて、自然と経済が回る。

今では王家よりローズミスト侯爵家の方が金銭面で上回ってしまっているのだ。

だからこそ、国王も第三王子との婚約をとりつけようとして、招待状にあんな事を書いたんだろう。

だけど、誰が思い通りになんかなってやるもんですか!

「そうでしたか。それでは我々はこの辺で引き下がりましょう」

フォッグ男爵夫妻はそう言って部屋を出ていった。

随分と意気揚々と出ていかれたけど、この後大丈夫かしら?
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