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入口
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星降ノ花ノ丘は町の北東に位置している。
丘というより、森に近い。
普通はそこを訪れる人は少ないのだが、星降の日になると観光客が集まるらしい。
しかし、不思議なことに誰に聞いても、星降の日について綺麗だったとか、幻想的だったとかそんな感想を期待するものだが、はっきりとした回答は得られない。その日の記憶がすっぽり抜けたかのようであるのだ。そのため、星降の日は決まっているようで、決まっていない。ただ、毎年同じような時期に観光客が増えることからも類推はできる。確か今年は、、、
星降ノ花ノ丘に向かう途中で見覚えのある背中を見つける。足取りが軽い。赤い服は変わらないが、白いベールのような布をかけているのか。
「やあ」
「あ、おじさん!本当に来てくれたんだね!」
少女ははにかむ。屈託のない笑顔を向ける。不思議とわたしも頬がゆるむ。
「どうかな?わたしの服!お気に入りなんだ。太陽みたいに赤い服。わたしを包む暖かい服。」
確かに。よく似合っている。
「そして、この白いマフラー。雪のようなマフラー。どんなに寒くたって、どこにでも行けちゃうよ!」
かわいいな。子供らしい無邪気さがわたしを暖める。
「夜も深まってきたことだし、早く行こうか」
「うん!」
星降ノ花ノ丘の入口までは一本道である。それ以外に何もないのだが。
少女は鼻歌を歌いながら、わたしの横を歩く。わたしも歩調を合わせるように、少女と共に歩む。
「ところで、君の名前は?」
「~♪、私はね、アンジェっていうんだ。かわいいでしょ。」
「そうだね。いい名前だ。わたしはウルという。」
「ウル、、、ウル、、、うん!とても良い名前だね!おじさんの名前が知れて良かった!」
「こら、もうおじさんじゃないだろ」
「そうだった!ウル!」
なんて、他愛もない話をしながら、道を歩く。
どのぐらい歩いただろうか、星降ノ花ノ丘の入口にさしかかる。
入口はやはり森だ。木が生い茂る。黒く生い茂る。夜の黒さの中に映える魅力的な黒だ。
入口までは一本道だが、生い茂る木の中で入口が少し分かりにくい。入口の目印として、他の木と比べて、特徴が異なる木があるという話を聞くが、、、
「あれえ、見つからないね、、、」
そうなのだ。ない。ないではないか。
誰かのでたらめだろうか。どこをとっても黒、黒。大きさも変わらない。
ここは迷いの森なのか。視界が閉じる。暗いからか。いや黒いからか。
「ウル!あれを見て!」
アンジェが指さす方向に、色の変化を見る。きっとあそこに違いない。進もう。
進んでいこう。
「えっ・・・」
思わず、言葉が詰まる。思考が停止する。黒い森に紛れる色。
クマだ。灰色のクマ。いやクマにしてはあまりにも大きすぎる。森の黒さ故に、うまく視認できない。
「こんにちは」
おっと、しゃべりました。
「・・・こんにちは。あの、ひとついいですか」
「ハイ」
「・・・」
「あるー日」
「森の中」
「くまさんに♪」
「出会ったあああああああ!!」
どうすれば良いのだろうか。焦る。大丈夫か。アンジェは。わたしは。ああどうしよう。にんじんスープ。にんじんスープ!落ち着けわたし。
「おちついてほしい、私はクマではない。ここの“門番”をしているものだ。」
「・・・門番ですか」
「このあたりは私の生きるトコロ。木が生い茂り、実がなり、川が流れ、我々が生きている。ここを訪れる人は増えた。ここを守るのが私の仕事だ。」
「おじさん、大きいね!」
「こら!余計なこと言わないの!」
「良い。私はこの地で永く生きている。その偉大さが現れているのだろう。」
冷や汗が止まらない。ある意味アンジェの無邪気さに助けられた。
「さて人の子よ。なぜこの地に降り立った。」
「えっと、それはですね・・・」
「あのね!花を見つけたいの!丘に咲いている綺麗な花。あれをわたしの大切な人に届けたいの。」
「ほう、大切な人にあげたいと、しかし、丘の花も生きている。それを摘んで我々の地を荒らそうというのか。」
「そんなことしないよ!わたしはあの人に喜んでほしいだけ。それに花を摘むことはしない。」
アンジェには想い人がいるのだろうか。頑なに意思を曲げない。
「・・・本当にこの地を荒らさないと約束できるか」
「うん!絶対に約束する。わたしはこの丘が大好きだもん。この生い茂る木も、葉を揺らす心地よい風も。」
「・・・忘れるでないぞ」
門番はわたしたちを迎え入れてくれた。門番が差し出す。
「これを身につけると良い」
気づかぬうちに胸元にはブローチのようなものがあった。
「わあ!素敵、花びらが四つで、それぞれが違う色してるんだね!」
「これはここに立ち入るための証のようなものだ。決して無くすんじゃないぞ。」
「ありがとう!」
アンジェは飛んで喜んでいる。ふと疑問に思ったことを問いかける。
「アンジェは大切な人がいるの?その人に花を渡したいんだよね?」
「そうだよ!この世で一番大事な人。」
「じゃあ、その人を連れて来れば良かったんじゃない?」
アンジェは一瞬止まったが、こう続ける。
「そうしたら、サプライズじゃなくなっちゃうじゃん!さあ、行くよ♪」
サプライズか。喜んでもらえるといいな。そう思いながら、入口に足をかけたとき、
「人の子よ。」
門番が話しかける。その声を聞いて、振り向くと
「忘れるでないぞ。」
そう言うと門番の姿は見えなくなった。
この言葉が少し胸に引っかかる。
少しの胸騒ぎを抱えながらも、歩みを進めるのであった。
つづく
丘というより、森に近い。
普通はそこを訪れる人は少ないのだが、星降の日になると観光客が集まるらしい。
しかし、不思議なことに誰に聞いても、星降の日について綺麗だったとか、幻想的だったとかそんな感想を期待するものだが、はっきりとした回答は得られない。その日の記憶がすっぽり抜けたかのようであるのだ。そのため、星降の日は決まっているようで、決まっていない。ただ、毎年同じような時期に観光客が増えることからも類推はできる。確か今年は、、、
星降ノ花ノ丘に向かう途中で見覚えのある背中を見つける。足取りが軽い。赤い服は変わらないが、白いベールのような布をかけているのか。
「やあ」
「あ、おじさん!本当に来てくれたんだね!」
少女ははにかむ。屈託のない笑顔を向ける。不思議とわたしも頬がゆるむ。
「どうかな?わたしの服!お気に入りなんだ。太陽みたいに赤い服。わたしを包む暖かい服。」
確かに。よく似合っている。
「そして、この白いマフラー。雪のようなマフラー。どんなに寒くたって、どこにでも行けちゃうよ!」
かわいいな。子供らしい無邪気さがわたしを暖める。
「夜も深まってきたことだし、早く行こうか」
「うん!」
星降ノ花ノ丘の入口までは一本道である。それ以外に何もないのだが。
少女は鼻歌を歌いながら、わたしの横を歩く。わたしも歩調を合わせるように、少女と共に歩む。
「ところで、君の名前は?」
「~♪、私はね、アンジェっていうんだ。かわいいでしょ。」
「そうだね。いい名前だ。わたしはウルという。」
「ウル、、、ウル、、、うん!とても良い名前だね!おじさんの名前が知れて良かった!」
「こら、もうおじさんじゃないだろ」
「そうだった!ウル!」
なんて、他愛もない話をしながら、道を歩く。
どのぐらい歩いただろうか、星降ノ花ノ丘の入口にさしかかる。
入口はやはり森だ。木が生い茂る。黒く生い茂る。夜の黒さの中に映える魅力的な黒だ。
入口までは一本道だが、生い茂る木の中で入口が少し分かりにくい。入口の目印として、他の木と比べて、特徴が異なる木があるという話を聞くが、、、
「あれえ、見つからないね、、、」
そうなのだ。ない。ないではないか。
誰かのでたらめだろうか。どこをとっても黒、黒。大きさも変わらない。
ここは迷いの森なのか。視界が閉じる。暗いからか。いや黒いからか。
「ウル!あれを見て!」
アンジェが指さす方向に、色の変化を見る。きっとあそこに違いない。進もう。
進んでいこう。
「えっ・・・」
思わず、言葉が詰まる。思考が停止する。黒い森に紛れる色。
クマだ。灰色のクマ。いやクマにしてはあまりにも大きすぎる。森の黒さ故に、うまく視認できない。
「こんにちは」
おっと、しゃべりました。
「・・・こんにちは。あの、ひとついいですか」
「ハイ」
「・・・」
「あるー日」
「森の中」
「くまさんに♪」
「出会ったあああああああ!!」
どうすれば良いのだろうか。焦る。大丈夫か。アンジェは。わたしは。ああどうしよう。にんじんスープ。にんじんスープ!落ち着けわたし。
「おちついてほしい、私はクマではない。ここの“門番”をしているものだ。」
「・・・門番ですか」
「このあたりは私の生きるトコロ。木が生い茂り、実がなり、川が流れ、我々が生きている。ここを訪れる人は増えた。ここを守るのが私の仕事だ。」
「おじさん、大きいね!」
「こら!余計なこと言わないの!」
「良い。私はこの地で永く生きている。その偉大さが現れているのだろう。」
冷や汗が止まらない。ある意味アンジェの無邪気さに助けられた。
「さて人の子よ。なぜこの地に降り立った。」
「えっと、それはですね・・・」
「あのね!花を見つけたいの!丘に咲いている綺麗な花。あれをわたしの大切な人に届けたいの。」
「ほう、大切な人にあげたいと、しかし、丘の花も生きている。それを摘んで我々の地を荒らそうというのか。」
「そんなことしないよ!わたしはあの人に喜んでほしいだけ。それに花を摘むことはしない。」
アンジェには想い人がいるのだろうか。頑なに意思を曲げない。
「・・・本当にこの地を荒らさないと約束できるか」
「うん!絶対に約束する。わたしはこの丘が大好きだもん。この生い茂る木も、葉を揺らす心地よい風も。」
「・・・忘れるでないぞ」
門番はわたしたちを迎え入れてくれた。門番が差し出す。
「これを身につけると良い」
気づかぬうちに胸元にはブローチのようなものがあった。
「わあ!素敵、花びらが四つで、それぞれが違う色してるんだね!」
「これはここに立ち入るための証のようなものだ。決して無くすんじゃないぞ。」
「ありがとう!」
アンジェは飛んで喜んでいる。ふと疑問に思ったことを問いかける。
「アンジェは大切な人がいるの?その人に花を渡したいんだよね?」
「そうだよ!この世で一番大事な人。」
「じゃあ、その人を連れて来れば良かったんじゃない?」
アンジェは一瞬止まったが、こう続ける。
「そうしたら、サプライズじゃなくなっちゃうじゃん!さあ、行くよ♪」
サプライズか。喜んでもらえるといいな。そう思いながら、入口に足をかけたとき、
「人の子よ。」
門番が話しかける。その声を聞いて、振り向くと
「忘れるでないぞ。」
そう言うと門番の姿は見えなくなった。
この言葉が少し胸に引っかかる。
少しの胸騒ぎを抱えながらも、歩みを進めるのであった。
つづく
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