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東京タワーは一番じゃないの
しおりを挟む死のうとした私は、サボったことで先生に叱られるのを恐れこっそりと校舎を出た。
おかしな話かもしれないが先生が怖い。同級生も怖い。
なんとか誰にも見つからず校舎から出た私は電車を取り次ぎ東京タワーに着いた。
「たかーい」
田舎者のように見上げるわたしはまるで観光に来たようにはしゃいでいる。やはり周りには見えていないようでどんなに騒いでも誰も注意しない。
初めのうちは嗜めていた私だがタワーに登るときの支払いで1人分しか求められなかった時に確信した。
そして私が独り言を話す痛いやつだということも確定した。
まあ、今更周りの目なんて気にしなくて良いんだろうけど。
エレベーターに登り、登れる1番の高さまで登った私とわたしはそこから景色を一望する。
「すっごーい!」
はしゃぐわたしは抱っこをせがんでくる。
そういえば私もここに来た時、高くなった景色を更に少しでも高いところから眺めたくて父に抱っこをせがんだ気がする。
多分この歳くらいの時だった。
「パーパ、だっこ!」
5歳で初めて東京タワーに来た私はいつも見えていた高いタワーの中に入れたことが嬉しかった。
そしてその中に入ると信じられないことに人がお豆さんのように縮んでしまい、私の背は巨人になった。
そんな不思議な体験に舞い上がった私は父と母できていたが、より高い父に抱っこをせがんだのだ。
メガネをかけ、いつもはナヨナヨしていた父も頼もしく、私を抱きかかえてくれた。
「すっごーい!たかーーい!!」
かなりの声で叫んだ。母から静かになさいと嗜められるもその表情はあまり怒っていなかった。
ますます嬉しくなった私は満面の笑みを浮かべた。
その姿に母も少しだけのしかめっ面を解いて笑みを浮かべてくれた。
「でも他の人もいるんだからあんまり大きな声は出しちゃダメよ?」
頭を撫でながらそういう母の手がとても気持ちよかったことを覚えている。
私に似ているなぁ。
ひとしきりはしゃぐわたしの後をついて行く。この子は私の目的をすっかり忘れているんではないだろうか。
「そういえばわたし、なんで東京タワーなの?一番高いって言ったらスカイツリーでしょ」
「そうなんだ、わたし知らなーい」
歯をむき出しに笑うわたしは売店売り場に走って行く。
というより私は自殺に来たけど……。
「ちょっと、ここ壁があるから落ちないじゃない」
自問する様に言葉を発した。
そうだ。こんなところから飛び降りれるわけない。
何かでガラスをぶち破るのも考えるけど、私如きの腕力で壊れるはずがないと思いとどまった。
「えへー、そうだね。んー。次は海がいい!」
どうやら自殺を止めにきたわけではなかったわたしは、考えなしのお子さまだったようで、今度は海を所望した。
入水自殺、確か太宰治さんがそんな死に方をしていた気がする。
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