32 / 117
第一部 無駄な魔力と使い捨て魔法使い
「水がないと人はすぐ駄目になるよ」
しおりを挟む少し時間をさかのぼり五日前、ロットとケイトはソイルを残してシカァの街を後にしていた。
向かったのはもちろん東の洞窟。街を出てひたすら東に森を進み、しばらくすると出てくる洞窟、そこが東の洞窟である。
洞窟の前までは一日程度で到着した。そしてケイトの見掛けでは洞窟を一日も探索すれば抜け出せてトワのところへたどり着き、そして帰宅や少し余裕を持ったとして一週間の旅の準備をしていた。
そのため余裕をもって洞窟へと侵入を開始する。
ロットが自身の実力も鍛えたいという訴えから、戦闘ではロットの剣中心に立ち回った。
ロットでは遅れを取ると心配していたケイトだったが、洞窟に入ってからも魔物は強くなったもののケイトのフォローもあって対等以上に戦えていた。
そのおかげで旅は順調そのものであり、ケイトも油断はしないもののロットの戦闘に関しては任せつつあった。
しかし人の仕事は信用するなとはよく言ったもので、ロットが度重なる戦闘でみるみる自信をつけて余裕をもって戦闘していることに気が付かなかった。
そしてとうとう何度目かの魔物との対峙で事件は起こる。相手は漆黒の、毛並みがまるで夜の闇をそのまままとったかのように黒い魔物だった。
厚い毛皮は鎧のようにしっかりとしており、目は鋭く、琥珀色に輝いていた。それが更に不気味さを増し、二人のたいまつに照らされて見える大きな鼻はわずかに動き、周囲の匂いを敏感に嗅ぎ取っていた。
そして二人を敵として認識したのか後ろ脚で立ち上がり、洞窟の天井一杯いっぱいにその体躯を広げて見せた。
当然ケイト達も気が付いていたため、撃退するために構える。本来であればロットが相手の威嚇の隙に急所に一撃をお見舞いし、ひるんだところでケイトの魔法でさらに追撃、そしてそれでも倒れない場合はロットがとどめを刺すという陣形だった。
そしてここは洞窟内であり、大きな魔法では崩れてしまう恐れがあった。だからこそ下級の魔法を上手く使い対処していたケイトだった。そしてそれはロットにも意図は伝わっていると思い確認せずにいた。
「俺が一撃で仕留めてやる!突獅!!」
ロットが魔力を練りこんだ剣技を放つ。
「待ちなさいロット!」
その状況に気が付いて声を荒げた時にはもう遅かった。ロットから放たれた一撃は野生の本能で避けきった魔物を通り過ぎて壁に激突する。
魔力が獅子のようになった一突きは洞窟を振動させ部分的に崩壊させることはたやすかった。みるみる地響きが二人を包み、天井や壁からぱらぱらと土壁がはがれていくのが聞こえてきた。
崩れる気配を見逃すまいとケイトは神経を張り巡らせて辺りを見回す。そして自身の真上が崩れ去るのを察知して飛びのいた。
同時にロットの近くも崩れそうな雰囲気を感じ取り
「ロット逃げて!」
そう叫んだ。
ケイトの声に素早く反応したロットは間一発のところで飛びのいて巻き込まれるということは避ける。その様子に信じられないものをみたようにケイトは見つめた。
「ありがとうケイト、おかげで助かったよ」
礼を言うロットだがケイトの耳には届いていない。そしてみるみる表情が歪んで今にも泣きだしそうになっていくケイトをあわあわと見守ることしかできなかった。
「な、なんであなたこっちに逃げるのよお」
どうにかそれだけ漏らしたケイトの言葉にロットもようやく察する。ケイトがいた場所は崩れ去り、ロットのいた場所も崩れ去った。お互いに内側に飛んでしまったため合流、つまり閉じ込められてしまったのだった。
「ご、ごめん。でも掘れば意外とすぐ出られるかも」
震える声でロットが言う。冷や汗が背中を伝い、岩壁を見上げながら必死に策を練ろうとしていた。
「無理よ私たちの力でどうにかできないわ」
ケイトはため息をつきながら、険しい表情で言葉を返した。彼女の髪がかすかに揺れ、彼女の絶望感が痛いほど伝わってくる。
「じゃ、じゃあ魔法でドカンと吹き飛ばしちゃえば」
更に焦ったロットが考えもなく言う。ケイトは厳しい目つきで睨みつけ
「さっきあなたの一撃でこうなったのよ?この岩壁を壊すほどの威力の魔法を使えば今度こそ生き埋めよ」
そう冷たく言い放つ。
どうしようもなくなった二人を洞窟内の静寂が包み込み、ただ遠くで滴る水音だけが響いている。その後も頭をフル回転させるが、どうにも突破口が見つからない。
ロットとケイトは、岩壁に閉じ込められた状況に焦りと不安を隠しきれずにいる。そんな空気を少しでも軽くしようとケイトが少し楽観的な声で言った。
「まあ、鞄に食料と水はあるんだから何とか一週間は持たせましょう。そうすればソイルちゃんが助けを呼んでくれるはずだし」
ロットはその言葉に一瞬安心しそうになったが、ある事実を思い出す。
「そ、そのことなんだけど、俺の分はその前の戦闘で置いた場所が悪くって岩壁の向こうにあるんだ」
ロットの言葉に、ケイトの胸は一気に冷えた。彼女は苛立ちと焦りを隠せずに声を荒げた。
「はぁ?私もさっきので自分が逃げるのに精いっぱいだったわよ」
二人の間に重い沈黙が流れる。ケイトはこの状況の深刻さを理解し、震える声で確認するように言った。
「つ、つまり私たちこれから五日間は飲まず食わずで耐えないといけないってこと!?」
ロットも肩をすくめ、申し訳なさそうにケイトを見つめる。
「そういうことになるね」
絶望的な状況に、ケイトは目の前が真っ暗になりそうだった。それでも、ここで諦めるわけにはいかない。彼女は深呼吸し、気を取り直した。ソイルが助けを呼んでくれるまで、どうにかして生き延びなければならない。
そうして初めに戻るのである。一週間たち、二人が気が付いたのはソイルに
「一週間して帰ってこなかったら助けを呼んでほしい」
と伝えてあった。そうであるならば一週間たった今現在にようやくソイルが心配しだし、おそらく早くても明日に救出の手配がされる。つまりこの洞窟で自分たちを助けに来てくれるとしてもここからさらに三日ほどはかかってしまうということだった。
希望の先に絶望が待っていると人はもろいものである。二人はぽっきり心が折れた。
0
あなたにおすすめの小説
クラス転移したら種族が変化してたけどとりあえず生きる
アルカス
ファンタジー
16歳になったばかりの高校2年の主人公。
でも、主人公は昔から体が弱くなかなか学校に通えなかった。
でも学校には、行っても俺に声をかけてくれる親友はいた。
その日も体の調子が良くなり、親友と久しぶりの学校に行きHRが終わり先生が出ていったとき、クラスが眩しい光に包まれた。
そして僕は一人、違う場所に飛ばされいた。
『異世界ガチャでユニークスキル全部乗せ!? ポンコツ神と俺の無自覚最強スローライフ』
チャチャ
ファンタジー
> 仕事帰りにファンタジー小説を買った帰り道、不運にも事故死した38歳の男。
気がつくと、目の前には“ポンコツ”と噂される神様がいた——。
「君、うっかり死んじゃったから、異世界に転生させてあげるよ♪」
「スキル? ステータス? もちろんガチャで決めるから!」
最初はブチギレ寸前だったが、引いたスキルはなんと全部ユニーク!
本人は気づいていないが、【超幸運】の持ち主だった!
「冒険? 魔王? いや、俺は村でのんびり暮らしたいんだけど……」
そんな願いとは裏腹に、次々とトラブルに巻き込まれ、無自覚に“最強伝説”を打ち立てていく!
神様のミスで始まった異世界生活。目指すはスローライフ、されど周囲は大騒ぎ!
◆ガチャ転生×最強×スローライフ!
無自覚チートな元おっさんが、今日も異世界でのんびり無双中!
異世界転生したらたくさんスキルもらったけど今まで選ばれなかったものだった~魔王討伐は無理な気がする~
宝者来価
ファンタジー
俺は異世界転生者カドマツ。
転生理由は幼い少女を交通事故からかばったこと。
良いとこなしの日々を送っていたが女神様から異世界に転生すると説明された時にはアニメやゲームのような展開を期待したりもした。
例えばモンスターを倒して国を救いヒロインと結ばれるなど。
けれど与えられた【今まで選ばれなかったスキルが使える】 戦闘はおろか日常の役にも立つ気がしない余りものばかり。
同じ転生者でイケメン王子のレイニーに出迎えられ歓迎される。
彼は【スキル:水】を使う最強で理想的な異世界転生者に思えたのだが―――!?
※小説家になろう様にも掲載しています。
どうも、命中率0%の最弱村人です 〜隠しダンジョンを周回してたらレベル∞になったので、種族進化して『半神』目指そうと思います〜
サイダーボウイ
ファンタジー
この世界では15歳になって成人を迎えると『天恵の儀式』でジョブを授かる。
〈村人〉のジョブを授かったティムは、勇者一行が訪れるのを待つ村で妹とともに仲良く暮らしていた。
だがちょっとした出来事をきっかけにティムは村から追放を言い渡され、モンスターが棲息する森へと放り出されてしまう。
〈村人〉の固有スキルは【命中率0%】というデメリットしかない最弱スキルのため、ティムはスライムすらまともに倒せない。
危うく死にかけたティムは森の中をさまよっているうちにある隠しダンジョンを発見する。
『【煌世主の意志】を感知しました。EXスキル【オートスキップ】が覚醒します』
いきなり現れたウィンドウに驚きつつもティムは試しに【オートスキップ】を使ってみることに。
すると、いつの間にか自分のレベルが∞になって……。
これは、やがて【種族の支配者(キング・オブ・オーバーロード)】と呼ばれる男が、最弱の村人から最強種族の『半神』へと至り、世界を救ってしまうお話である。
『スローライフどこ行った?!』追放された最強凡人は望まぬハーレムに困惑する?!
たらふくごん
ファンタジー
最強の凡人――追放され、転生した蘇我頼人。
新たな世界で、彼は『ライト・ガルデス』として再び生を受ける。
※※※※※
1億年の試練。
そして、神をもしのぐ力。
それでも俺の望みは――ただのスローライフだった。
すべての試練を終え、創世神にすら認められた俺。
だが、もはや生きることに飽きていた。
『違う選択肢もあるぞ?』
創世神の言葉に乗り気でなかった俺は、
その“策略”にまんまと引っかかる。
――『神しか飲めぬ最高級のお茶』。
確かに神は嘘をついていない。
けれど、あの流れは勘違いするだろうがっ!!
そして俺は、あまりにも非道な仕打ちの末、
神の娘ティアリーナが治める世界へと“追放転生”させられた。
記憶を失い、『ライト・ガルデス』として迎えた新しい日々。
それは、久しく感じたことのない“安心”と“愛”に満ちていた。
だが――5歳の洗礼の儀式を境に、運命は動き出す。
くどいようだが、俺の望みはスローライフ。
……のはずだったのに。
呪いのような“女難の相”が炸裂し、
気づけば婚約者たちに囲まれる毎日。
どうしてこうなった!?
セーブポイント転生 ~寿命が無い石なので千年修行したらレベル上限突破してしまった~
空色蜻蛉
ファンタジー
枢は目覚めるとクリスタルの中で魂だけの状態になっていた。どうやらダンジョンのセーブポイントに転生してしまったらしい。身動きできない状態に悲嘆に暮れた枢だが、やがて開き直ってレベルアップ作業に明け暮れることにした。百年経ち、二百年経ち……やがて国の礎である「聖なるクリスタル」として崇められるまでになる。
もう元の世界に戻れないと腹をくくって自分の国を見守る枢だが、千年経った時、衝撃のどんでん返しが待ち受けていて……。
【お知らせ】6/22 完結しました!
備蓄スキルで異世界転移もナンノソノ
ちかず
ファンタジー
久しぶりの早帰りの金曜日の夜(但し、矢作基準)ラッキーの連続に浮かれた矢作の行った先は。
見た事のない空き地に1人。異世界だと気づかない矢作のした事は?
異世界アニメも見た事のない矢作が、自分のスキルに気づく日はいつ来るのだろうか。スキル【備蓄】で異世界に騒動を起こすもちょっぴりズレた矢作はそれに気づかずマイペースに頑張るお話。
鈍感な主人公が降り注ぐ困難もナンノソノとクリアしながら仲間を増やして居場所を作るまで。
神様から転生スキルとして鑑定能力とリペア能力を授けられた理由
瀬乃一空
ファンタジー
普通の闇バイトだと思って気軽に応募したところ俺は某国の傭兵部隊に入れられた。しかし、ちょっとした俺のミスから呆気なく仲間7人とともに爆死。気が付くと目の前に神様が……。
神様は俺を異世界転生させる代わりに「罪業の柩」なるものを探すよう命じる。鑑定スキルや修復スキル、イケメン、その他を与えられることを条件に取りあえず承諾したものの、どうしたらよいか分からず、転生した途端、途方にくれるエルン。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる