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第一部 無駄な魔力と使い捨て魔法使い
「余は魔王」
しおりを挟むやがて変身が終わると恐ろしい形相になった魔族の男は勝ち誇ったかのようにロット達を見た。
「そもそもエルフの里でも発言がおかしかったのよ。まるで魔王種を助けるような口調だったもの」
ケイトはもはや魔力を解き放つ準備をして、相手の出方をうかがっていた。ナルルも剣を抜き構える。それに続いてロットも迎え撃つため剣を構えた。
ソイルだけがもうろうとしながら今の状況を理解できずにいた。
「きひゃひゃひゃひゃ、大人しく最後まで騙されてりゃいいのによぉ。ちーっと頭が回るから地獄を見ちまうんだ」
両手を広げて大げさに言う。
肌は青黒く、まるで闇そのものが凝縮されたかのような色合いを持ち、筋肉質の体は不気味なオーラを放っている。
目は赤く、冷たい光を放ちながら獲物を狙うように鋭く光る。口元にはイヤらしい笑みを浮かべている。その笑みは不気味さと残忍さを感じさせ、あざ笑うように歪んでいる。
「勇者様、化け物だったなんて!」
「もっと早く気がつくべきだったわ。ってんなわけないでしょ!あなた魔族ね!」
間の抜けたロットにツッコミを入れつつケイトは適格を分析した。
真の姿をさらした魔族はケイトの問いに満足そうにし、両手を広げる。まるで愉悦に浸って演劇をしているかのように大げさな動作で叫ぶように話始めた。
「せーいかーい、きひゃひゃ。わかったところでもう手遅れだがなぁ。そのガキを捧げさえすれば偉大なる魔王種から魔王様が生まれる。そして俺様が親として操る力を持てばこの世は俺様のものだ」
悪役らしい、単純な動機である。しかしそれを許してしまったら世界が滅びる。現に魔族の中にそういうことを企むモノが増えてきていて世界の均衡が崩れつつあったのだった。
「そんなことは」
させない。言い切る前に突然、閃光が走り、ロットが吹き飛ばされた。ケイトとナルルも狙いには気づいても一歩遅れた。
ソイルが奪取される。そして、ケイトの魔法もソイルを気にして威力が出せず、放った下級魔法は魔族の男にいなされてしまう。
ソイルはろくな抵抗もできず、台座に捧げられた。
「させるかぁぁ!」
そこにナルルが叫びながら斬りかかった。その切っ先はソイルを台座にささげた魔族の背を捉えようとしたが、爆発が起きて吹き飛ばされた。
辺りは粉塵に包まれ、全員の視界が全く効かなくなった。
ロットは吹き飛ばされたものの大事には至らず戦闘位置に戻ってきている。3人は体制を整えて、どうなったのかを固唾をのんで見守る。最悪に備えてロットの魔力をケイトに供給している。
粉塵が晴れる前に、ロットたちの心に深く刻まれたのは、言葉にできないほどの恐怖と絶望だった。彼らの震える姿は、言葉では表しきれないほどの恐怖に包まれていた。
その恐怖を具現化するかのように、粉塵から現れたのは、ソイルにそっくりだが、髪色が鈍く赤い、禍々しい雰囲気を纏った存在だった。
それはまるで体をほぐすように首をまわしているが、その角度が人間でないことを知らせていた。やがて天を仰いだかと思うと口元だけが笑った不気味な表情を魔族の男に向けた。
「……余を起こしたのは貴様か」
それの声が響き渡り、圧倒的な威圧感に全員が戦慄した。勝ち誇ったような魔族の男がそれに胸ぐらを掴まれいた。粉塵が晴れると下半身がなくなっていることにロットたちは気づく。
魔族の男もわかっていなかったのか、痛みよりも先に戸惑い、その表情は一気に苦痛と困惑に変化していった。
「きひゃ!?どうして、俺様が主人のはずじゃ?お、い、主人が死んでしまうぞ。なおせ」
自身から零れ落ちる臓腑や血を眺めてうつろな目でつぶやく。上半身はそれに胸倉をつかまれ浮いているだけだった。
「貴様のような低俗な魔族が余の主人だと?笑わせるな。余は魔王。細工をしたとして操られるようなはずなかろう。しかし余を目覚めさせた褒美に甘美なシをやる」
魔王の冷酷な言葉が、彼らの恐怖を増幅させる。
「きびゃぁぁあ!」
あっけなく、魔族の男ははじけ飛び、ソイルに似ている顔の魔王にその血しぶきが飛んだ。顔が血濡れてより不気味さを増している。
「して、貴様らはなんだ?」
標的が自分たちに移り、逃げ出したくなるような威圧感がロットたちを襲う。それはナルルであってさえも震えるほどの実力差を物語っていた。
それでも逃げ出さないのは本物のソイルを見捨てることはできないという人としてのプライドだ。
「わ、私たちは」
ケイトは震える声で答えようとするが、自分が震えているのに気がつく。息がうまく吸えないような感覚になる。
「俺はソイルの兄だ!そ、ソイルを返せ!」
唯一、実力差が一番離れているロットがその事実に一番鈍くいられているため、戸惑いつつも怒りと絶望の入り混じった声で叫ぶことが出来た。
魔王はソイルと呼ばれて後ろで意識を失っている自分と顔の似た人間を見る。
「おぉ、コヤツの兄か。なるほど。許しがたいことにまだこの小娘とのつながりは消えておらんようだな。真の復活には小娘を余以外の誰かが殺さねばならんが……のお、兄よ。スマヌがソイルとやらを殺してくれぬか」
どこまでが本当かわからない申し出に一気に怒りに支配される。すると不思議と震えも止まった。
「ふ、ふざけるなぁぁあ!」
ロットが怒りに斬りかかるが、魔王の手であっさりと止められた。そして指で弾くようにして吹き飛ばされた。
ロットの行動にはじかれるようにナルルも向かっていく。
「うぉぉぉおおおりゃぁぁぁあ!!!」
「ふん、人間風情が」
ナルルの剣技も、まるで遊ぶかのようにあっさりとかわされている。しかしあえてギリギリで避けてみせ、その反応さえ楽しむ余裕があった。
吹き飛ばされたロットはまた怒りに任せて突っ込もうとするが何かに頭を殴られる。
「ロット待ちなさい。ソイルちゃんは簡単に殺せないみたいよ。そして奴の言葉を信じるなら、ソイルちゃんが死ぬことで魔王は完全体になる。つまり逆にあいつを倒しちゃえばソイルちゃんも元通りってことよ。
しっかりしなさい。奴が油断している今がチャンスなんだから。やつに極魔法をぶち込むわよ」
「ぐ、……わかった!」
ケイトの冷静な判断に、そこまで冷静なら頭をグーで殴らなくてもよかったのにな、と思いつつもロットはうなずく。
殴られたおかげでそう考える落ち着きを取り戻していたが、そこまでは考え至らない。
ケイトの手をしっかりと握った。今度こそ話さないように、そして少しでもケイトを守れるように歯を食いしばって構える。
「ふむ、人間にしてはやるではないか。それっ」
「のぁぁぁああ!」
しばらく遊ばれていたナルルは絶え間なく剣を振り続けていたがついにとらえることはなく、魔王の指先一本をはじいただけで数メートルも弾き飛ばされてしまった。
ナルルは本能から腕で身を守ったため腕を折る程度で済んだ。しかし着地もままならず衝撃で呻きすぐには起きられない。
まさに暇つぶしという言葉が今行われていた。魔王は新しいおもちゃとしてケイト達を選んだ。
「ほう、次は何を見せてくれるのかな」
ケイト達の準備が整うまで、あえて待ち、両手を広げて受け止める気でいた。その様子はまるで子供がはしゃいでいるようにも見えた。
「ふふ、余裕でいられるのも今のうちよ。食らいなさい、風の王者!」
ケイトが力強く呪文を唱えると、とてつもない威力の竜巻が魔王を襲う。その威力はドラゴンモドキを倒したときよりもさらに威力を増しており、そしてそれは油断した魔王に直撃した。
「倒せないまでも、かなりのダメージは与えたはずよ!」
自身の魔法に自信を持ちケイトは言った。ロットもそばで常に極魔法を見てきていて、今までで一番の威力に、もしかしてこのまま倒せたんではないかという希望さえ抱いていた。
そして粉塵が晴れた瞬間、ロットたちに言葉にできない絶望が襲う。魔王の姿は無傷のままだった。
「ふむ、砂利を巻き上げる魔法か、面白いのお」
魔王は余裕の笑みを浮かべ、ケイト達をあざ笑う。
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