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第一部 無駄な魔力と使い捨て魔法使い
「やぁ、皆は僕を勇者と呼ぶよ」
しおりを挟む「ありがとう、ソイルちゃん」
最大のチャンス、逃すまいと構えた。
「最極魔法神風堕とし!!!」
ケイトの声が高らかに響いた。
そして最上位の風魔法が炸裂し、圧倒的な風の力が魔王に襲いかかる。
風は下級魔法に近いサイズで放たれたが、周りを巻き込む嵐となり徐々に膨れ上がっていく。
その中で無数の輝く光が稲妻のように荒ぶっている。
まるで風神の怒りそのもののように地上を飲み込んで魔王へと迫る。
魔王はその強力な魔法に自身の魔法を打ち込むがあっけなく吸収された。表情に焦りもみられる。
竜巻とまで巨大化したケイトの魔法が魔王に到達すると、爆発的な光の閃光が四方八方に広がり、大地を揺るがし、周囲一帯を光の嵐で包み込む。
「こんな、魔法、ぐ、ぐぉおおおおおお!!!」
魔王も必死の抵抗を見せるがその魔法に飲み込まれて声も消えていく。すべてが包まれ、一掃されていくのが分かった。
「やった!」
ロットがナルルに肩を貸し、立ち上がりながら喜びの声を上げる。2人共どうにか命はあった。
「えぇ、みんなありが……そ、そんな」
ケイトも喜びにこたえようとするが、魔法が終わりすなけむりが落ち着くとそこに信じられないものを見た。
魔王が傷だらけになりながらも、まだ生き残っていたのだ。しかもその傷も魔王自身の治癒能力であっという間に消えていく。そして勝ち誇ったかのようにケイトを見た。
「ヌハハハハ、人間。やるではないか、まさかここまでのダメージになろうとは。貴様ら全員残らず塵にしてやろうではないか!」
魔王の声が地獄のように響く。
「うそ、もう、魔力が……」
すべての魔力と気力を使って魔法を放ったケイトは今にも倒れそうになりながら絶望する。もう何も太刀打ちできない。ケイトは絶望的な状況を認識する。
「まずは小娘からだ!」
もはや放っておいても自分で倒れてしまうケイトに、それを許さず死を言い渡そうと魔王が襲い掛かった。ケイトはもう何も抵抗できない。
「させるかぁぁあ!!!」
迫ってくる魔王からケイトを守るように、ロットが前に出る。ロットもあちこちの骨が折れ、血が出ている。それでも頼りない手で剣を持ち、飛び込んだ。
魔王の剣がロットを切り裂くため振り下ろされた。
その瞬間、不意に何かが魔王に襲いかかり、魔王が吹き飛ばされる。そして地面に叩きつけられた。
手負いとはいえ魔王にそんなことをやってのける人を一目見るため視線を向ける。その先には、強大な力を秘めた彼の姿があった。
「だ、誰?」
ロットは驚愕し、目を見開く。安堵から力が抜けそうになる体を言い聞かせて立ち続ける。
「やぁ、皆んなは僕を勇者と呼ぶよ」
次第にすなけむりが晴れてくる。立ち姿だけで鍛えられていることが伝わる、息を呑みそうな迫力が目の前の青年にはあった。その髪は赤く、鮮明で絶望に抗うロットの目にも空白を生むほど強烈だった。
ロットたちの目の前に勇者が立っていた。
「……勇者様!?」
「うん、僕だよ」
胸を切り裂くような絶望感が消え、目からは涙がこぼれるロットにウインクで答えた。
「ほん、もの?」
ケイトも朦朧とした意識のなか、信じられない様子で問いかける。
「まったく、僕を見間違うなんて、君たちはまだまだだな」
勇者は一歩前に出て、余裕の表情を浮かべる。その時、吹き飛ばされた魔王が瓦礫の中から起き上がり、怒りを宿した目で周囲を睨みつける。
「余を足蹴にするとはいい度胸だ。勇者といったな。その希望をいまから消してみせよう」
魔王は地面を蹴り、ものすごいスピードで勇者に向かって突進する。魔王の動きはまるで流星のようで、空気が震えるほどの速さだ。
「っと。魔力の剣かぁ、面白いことするね」
対する勇者は余裕を崩さず手を差し出し、あろうことか指の二本だけで魔王の剣を軽々と押さえ込む。魔力の剣が止まる様子に、周囲の者たちは目を見張った。
「くっ、ならば!」
魔王は魔力の剣を解除してさらに目にも止まらぬ速さで移動する。もはやロットの目では追いきれないほどになってきている。攪乱して背後をとろうとしているのだが、勇者もまた移動を開始した。
「アハハ、まあまあ早いね。僕には負けるけど」
勇者は楽しげに笑いながら、あっさりと魔王の動きを追い抜く。その姿は目にも留まらぬ速さで、魔王の目前に現れる。
一瞬虚を突かれた魔王はほんの一瞬完全な隙をさらす。しかし勇者はあえてその隙を見逃し、魔王にも屈辱が伝わる。
「ならば、はぁぁぁああ!!」
激情した魔王が至近距離で凄絶な魔法を放った。闇のような炎が勇者を襲い、周囲の空気が焼け焦げるような圧力を持っていた。それはケイトの最極魔法にも匹敵するほどの威力である。それをいとも簡単に魔王が出したことにケイトは絶望し、さすがの勇者でも負けるんではないかという考えがよぎる。
「勇者様危ない!」
ケイトが心配しながら叫ぶ。
その声が届くよりも早く勇者は後ろに下がり、両手を前に突き出して構えていた。まるで真正面から立ち向かおうとしている。その姿にケイトはおろか魔王も目を疑っている。
「そーれっ!」
迫りくる闇の炎は勇者に到達した。そして燃え盛る竜のように勇者を食らいつくそうとしたが、気の抜けた掛け声とともにその魔法は簡単に止められ、霧散し、消え去った。
「なんだと!?」
魔王は驚愕し、唇を震わせる。
「うーん、やっぱり発芽の時期が早すぎると特殊な魔力種とはいえこの程度か」
勇者は冷静に言った。魔王の手が止まったことにより周囲は一端の静けさを取り戻す。
「余が期待外れだとでもいいたいのか、貴様許せんぞぉぉお!!」
魔王は憤怒の声を上げ、この場のすべてを滅ぼさんと自身の魔力を爆発させようとしている。
「ざーんねん。もうお眠り」
勇者は柔らかな笑みを浮かべると、一瞬で魔王の背後に回り込み、胸に短剣を刺し込んだ。
魔王は自身の治癒能力を信じて疑わない。むしろ胸を刺したぐらいで仕留めたと思っている目の前の男に好機と思い魔力で焼き殺そうとした。
「ヌハハハハ余がその程度でしぬとおも、……なんだこれは?」
どういうわけか魔王の胸のナイフは抜けることなく、さらには治癒する気配が全くない。勇者はというと少しだけ距離をとりそれを見守っていた。
魔王は驚愕と、和らぐことのない苦痛に声を上げている。そして次第に足が震え、身体から力が抜けていった。そして跪く形になり勇者は見上げる。
「これは封魔の剣さ。君のような魔力種から発芽したのを閉じ込めるためのもの。君はここで眠りにつくのさ」
「な、なにを。きさま。ゆる。ゆるさんぞぉぉおおぉぉぉ、ぉぉ……ぉ」
魔王は恐怖と苦痛に満ちた表情で呻きながら、剣に吸い込まれていく。その姿がどんどんと消えていき、最後にはただの虚無となった。
魔王がいたはずの空間は短剣がカランと落ちる音のみ響いた。それを勇者が布越しにつかみ取るとそのまま変わった文様の描かれたナイフ入れにしまった。振り返った笑顔の勇者はロット達を見つめる。
戦いが終わった。
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