55 / 117
第二部 最大級の使い捨てパンチ
「守銭奴?違うわよ、お金が大事なだけ」
しおりを挟む街の料理屋という感じで、店内少し古臭いが美味しい料理ばかりだった。ロットとケイトはそこで初めて思い知る。今までのエレナは食事量を抑えていたことを。
あまりの食べっぷりと話の面白さからコックだけでなく店中の客がエレナに奢り、そして話を楽しんだ。二人はそんなエレナの新たな一面に圧倒されつつもそれなりに食べた。
食事後、宿屋に戻った3人はロットの部屋で明日以降の話し合いをするため集まった。
「いやー美味かったっす」
大満足のエレナはベッドに寝転がりその膨れたお腹をさする。シャツ越しにもぽっこりと膨れていることがわかるほど食べていた。
「あなたほんとによく食べるわよね。私とロットの分合わせるより食べてなかった?」
ケイトはエレナのように開放的ではないが、それでもエレナのベッドに腰掛けて壁にもたれかかるようにしている。
「ニヒヒ、まだ入るっすよ」
起き上がって笑うエレナは本当にまだ食べそうなので恐ろしさを感じさせる。しかし既にお腹ははち切れんばかりで、一体どこに入るのだろう。
ロットはそんなことを思いつつも女の子の部屋なので同じベッドに寝転がることはできず、結果一人立ち尽くした。
「まあ、限界まで食べなかったのは良心だと思っておくわ」
「実はデザートにこの街名物ピグ饅頭を買ってたんすよ」
一体いつ買ったのか、お腹をめくるとピグという魔物の肉が入った腹持ちの良い饅頭を取り出した。なるほど、お腹の膨らみはピグ饅だったのだ。つまりあれだけ食べてもエレナの腹はすぐさま消化して栄養に回してしまっているらしい。
「うっぷ。あたしもう入らないわよ」
「俺もさすがにお腹いっぱい」
二人は文字通りお腹いっぱい食べていたので見るだけでも顔をしかめている。それを横目に口いっぱい頬張った。
「おいひいほに」
「食べながら喋らな……誰かしら?」
ベッドの上で食べだしたエレナをどかそうとしていると、部屋の扉がノックされた。
既に日は暮れて完全に夜だった。酔っ払った誰かが間違えてきたのかもしれない。追い返すために扉に近づくロットだったが
「はーひ、ほーほー」
エレナが行儀悪い姿勢で咀嚼を同時にこなしながらそう言ったので扉が開いた。
「こ、こんばんわ」
開けてすぐにロットが立っていたからかノックをした人は少し怯えた様子で挨拶をした。
安宿には似つかわしくないような質の良い服を着ているのがわかる。アクセサリーなどはあまり見られないが、結婚を示す指輪は大きな宝石がついており、目の前の女性がお金持ちであることは想像できた。
さらには手入れの行き届いた長い黒髪と、落ち着いた服装が気品を漂わせていた。
一瞬豊満な胸元に目が行き、なんとか視線を上に持ち上げたロットは平然を装う。
「どう、されましたか?」
精一杯の落ち着いた声だったが、そんな繕いも女性がすがりついてきたことで一気に崩れた。
「あの、息子を助けてくださいません!?」
「わっ?!」
女性の出ているところが押し付けられてロットはあっという間にしどろもどろし始める。
「おー、お姉さんぐらまーっすねー」
それを面白そうにエレナが眺めて、ケイトはと言うとベッドから飛び降りてその勢いのままロットの側頭部に張り手をうった。
「こらロット!お姉さんも落ち着いてください」
「いって。なんで俺殴られたの?」
殴られたロットは派手に壁にぶち当たる。その音で女性は我に返ったのか口元に手を当てて一歩下がった。
「あぁすみません。私ったら焦っちゃって」
「大丈夫ですよ。ちなみに私がケイト、こっちのがロット、そこのだらしないのがエレナというエルフです」
そう言いつつケイトも目の前の女性のスタイルに目がいく。悔しさのような感情が生まれた。
ロットに直視させないためケイトはさらに後ろへ追いやった。女性は自己紹介を聞いてしばらく黙っていたが、それぞれの視線が自分に何かを待っていることを理解して慌てて自己紹介を始めた。
「あ、申し遅れました。私はセリーナ・グレイソンと言います。息子はジュリです。よろしくお願いします!」
頭を下げ、戻って来るとしっかり揺れる場所を見つめてケイトは苦々しく思いつつも意図を汲み取る。
「もしかしなくても魔力種の件で来てくださったのかしら?」
「そうです!私の息子今5歳なんですが、思い返すと誕生日はいつも調子が悪くって。しかもだんだんひどくなっているように思えるんです。今年ももうすぐ誕生日で、いつ体調を崩してもおかしくないんですが不安で不安で」
そこまで聞いて目の前の来客が魔力種絡みであることを知ったロットは一気に元気を取り戻していく。
「任せてください、俺たちが必ず息子さんに助けますから!」
ケイトを押しのけるようにそう言うと、セリーナの満面の笑みとともにガッチリと手を掴まれる。胸が大きいのか手が短いのか。谷間に今にも埋まりそうになりながら手を握られてロットは刺激の強さに赤面する。
「あぁ!ありがとうございますぅ!」
「わっ、いや、えへへ。どういたしまし、いって!?」
そんなロットはまたまたケイトに吹き飛ばされることとなったのは言うまでもない。
「あらごめんなさい魔法が滑ったわ」
「そんな言葉初めて聞いたよ!」
「ともかく、息子さんが魔力種ならばおそらく私たちが助けられます。でももしただ体が弱い子だった場合は何もできません。あと、魔力種を取り除く時に報酬も頂きたいのですが」
街なかでやってしまったような誤解を生まないよう丁寧に話す。そういえば報酬の設定をしていなかったな、と思いつつも相手の言い値をきくためにあえてそのまま答えを待った。
「もちろんです!息子が治るんでしたら、こちらに金貨100枚があります。これで足りますでしょうか?」
ずっしりと重みのある袋を手渡されるケイト。開いてみると輝く金色のコインが詰まっていた。
「ひゃ!?たり、足ります!任せてください!」
一気に目の色を変えたケイトだったが、冒険者稼業と言えどもこれほどのお金を得ることはなかったので混乱するのは仕方ないだろう。
ちなみに金貨は100枚もあればしばらく遊んで暮らしても平気な額ではある。
金貨、銀貨、銅貨、青銅銭とあり、100枚で、次の硬貨1枚分の価値になる。青銅銭の下に鉄銭もあるが使い勝手の悪さから消えつつある。
一般的に就職したら安定間違いなしと言われている街の衛兵は月に金貨1枚なのだからかなりの高値だとわかるだろう。
「わー、姐さん守銭奴」
「なに?」
「頑張りましょうね、姐さん!」
鋭い視線で睨まれたエレナは慌ててそういった。
「ともかく、明日そちらに伺わせてもらいますね」
結局起き上がったロットが喧嘩勃発の前にそう言い、セリーナもこれ以上ここにいてもいいことはないと悟ったのか
「よろしくお願いします。私の家は宿屋を出て左手に進んだ先の坂を登った先にあります。屋根の色が黄色で特徴的なのでわかると思います。いつでもお待ちしていますのでよろしくお願いします!」
と部屋を去っていった。
0
あなたにおすすめの小説
クラス転移したら種族が変化してたけどとりあえず生きる
アルカス
ファンタジー
16歳になったばかりの高校2年の主人公。
でも、主人公は昔から体が弱くなかなか学校に通えなかった。
でも学校には、行っても俺に声をかけてくれる親友はいた。
その日も体の調子が良くなり、親友と久しぶりの学校に行きHRが終わり先生が出ていったとき、クラスが眩しい光に包まれた。
そして僕は一人、違う場所に飛ばされいた。
『異世界ガチャでユニークスキル全部乗せ!? ポンコツ神と俺の無自覚最強スローライフ』
チャチャ
ファンタジー
> 仕事帰りにファンタジー小説を買った帰り道、不運にも事故死した38歳の男。
気がつくと、目の前には“ポンコツ”と噂される神様がいた——。
「君、うっかり死んじゃったから、異世界に転生させてあげるよ♪」
「スキル? ステータス? もちろんガチャで決めるから!」
最初はブチギレ寸前だったが、引いたスキルはなんと全部ユニーク!
本人は気づいていないが、【超幸運】の持ち主だった!
「冒険? 魔王? いや、俺は村でのんびり暮らしたいんだけど……」
そんな願いとは裏腹に、次々とトラブルに巻き込まれ、無自覚に“最強伝説”を打ち立てていく!
神様のミスで始まった異世界生活。目指すはスローライフ、されど周囲は大騒ぎ!
◆ガチャ転生×最強×スローライフ!
無自覚チートな元おっさんが、今日も異世界でのんびり無双中!
異世界転生したらたくさんスキルもらったけど今まで選ばれなかったものだった~魔王討伐は無理な気がする~
宝者来価
ファンタジー
俺は異世界転生者カドマツ。
転生理由は幼い少女を交通事故からかばったこと。
良いとこなしの日々を送っていたが女神様から異世界に転生すると説明された時にはアニメやゲームのような展開を期待したりもした。
例えばモンスターを倒して国を救いヒロインと結ばれるなど。
けれど与えられた【今まで選ばれなかったスキルが使える】 戦闘はおろか日常の役にも立つ気がしない余りものばかり。
同じ転生者でイケメン王子のレイニーに出迎えられ歓迎される。
彼は【スキル:水】を使う最強で理想的な異世界転生者に思えたのだが―――!?
※小説家になろう様にも掲載しています。
第5皇子に転生した俺は前世の医学と知識や魔法を使い世界を変える。
黒ハット
ファンタジー
前世は予防医学の専門の医者が飛行機事故で結婚したばかりの妻と亡くなり異世界の帝国の皇帝の5番目の子供に転生する。子供の生存率50%という文明の遅れた世界に転生した主人公が前世の知識と魔法を使い乱世の世界を戦いながら前世の奥さんと巡り合い世界を変えて行く。
どうも、命中率0%の最弱村人です 〜隠しダンジョンを周回してたらレベル∞になったので、種族進化して『半神』目指そうと思います〜
サイダーボウイ
ファンタジー
この世界では15歳になって成人を迎えると『天恵の儀式』でジョブを授かる。
〈村人〉のジョブを授かったティムは、勇者一行が訪れるのを待つ村で妹とともに仲良く暮らしていた。
だがちょっとした出来事をきっかけにティムは村から追放を言い渡され、モンスターが棲息する森へと放り出されてしまう。
〈村人〉の固有スキルは【命中率0%】というデメリットしかない最弱スキルのため、ティムはスライムすらまともに倒せない。
危うく死にかけたティムは森の中をさまよっているうちにある隠しダンジョンを発見する。
『【煌世主の意志】を感知しました。EXスキル【オートスキップ】が覚醒します』
いきなり現れたウィンドウに驚きつつもティムは試しに【オートスキップ】を使ってみることに。
すると、いつの間にか自分のレベルが∞になって……。
これは、やがて【種族の支配者(キング・オブ・オーバーロード)】と呼ばれる男が、最弱の村人から最強種族の『半神』へと至り、世界を救ってしまうお話である。
『スローライフどこ行った?!』追放された最強凡人は望まぬハーレムに困惑する?!
たらふくごん
ファンタジー
最強の凡人――追放され、転生した蘇我頼人。
新たな世界で、彼は『ライト・ガルデス』として再び生を受ける。
※※※※※
1億年の試練。
そして、神をもしのぐ力。
それでも俺の望みは――ただのスローライフだった。
すべての試練を終え、創世神にすら認められた俺。
だが、もはや生きることに飽きていた。
『違う選択肢もあるぞ?』
創世神の言葉に乗り気でなかった俺は、
その“策略”にまんまと引っかかる。
――『神しか飲めぬ最高級のお茶』。
確かに神は嘘をついていない。
けれど、あの流れは勘違いするだろうがっ!!
そして俺は、あまりにも非道な仕打ちの末、
神の娘ティアリーナが治める世界へと“追放転生”させられた。
記憶を失い、『ライト・ガルデス』として迎えた新しい日々。
それは、久しく感じたことのない“安心”と“愛”に満ちていた。
だが――5歳の洗礼の儀式を境に、運命は動き出す。
くどいようだが、俺の望みはスローライフ。
……のはずだったのに。
呪いのような“女難の相”が炸裂し、
気づけば婚約者たちに囲まれる毎日。
どうしてこうなった!?
セーブポイント転生 ~寿命が無い石なので千年修行したらレベル上限突破してしまった~
空色蜻蛉
ファンタジー
枢は目覚めるとクリスタルの中で魂だけの状態になっていた。どうやらダンジョンのセーブポイントに転生してしまったらしい。身動きできない状態に悲嘆に暮れた枢だが、やがて開き直ってレベルアップ作業に明け暮れることにした。百年経ち、二百年経ち……やがて国の礎である「聖なるクリスタル」として崇められるまでになる。
もう元の世界に戻れないと腹をくくって自分の国を見守る枢だが、千年経った時、衝撃のどんでん返しが待ち受けていて……。
【お知らせ】6/22 完結しました!
備蓄スキルで異世界転移もナンノソノ
ちかず
ファンタジー
久しぶりの早帰りの金曜日の夜(但し、矢作基準)ラッキーの連続に浮かれた矢作の行った先は。
見た事のない空き地に1人。異世界だと気づかない矢作のした事は?
異世界アニメも見た事のない矢作が、自分のスキルに気づく日はいつ来るのだろうか。スキル【備蓄】で異世界に騒動を起こすもちょっぴりズレた矢作はそれに気づかずマイペースに頑張るお話。
鈍感な主人公が降り注ぐ困難もナンノソノとクリアしながら仲間を増やして居場所を作るまで。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる