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第二部 最大級の使い捨てパンチ
「親の愛ってずれてるよね」
しおりを挟む「お困りですかな?」
その声に振り返ると、シルクハットをかぶった紳士が立っていた。彼はすらりとしたスーツをまとい、洗練された雰囲気を漂わせている。明らかに地位の高い人物であることが一目で分かった。
「グレイソン様…ご予定より随分と早いお帰りですね?」
受付嬢が深々と頭を下げて言った。その言葉にケイトたちは驚き、目の前に立つ人物がグレイソン本人であることを理解した。
「ああ、予定より早く帰れる船に乗れたんだよ」
グレイソンは穏やかな笑みを浮かべて答える。
「あなたがグレイソンさん!?」
ロットは驚きと共に話しかけた。商会長ともなると貴族と同等かそれ以上の権力を持つのでロットのような旅で汚れた冒険者に気安く話しかけられることははあまり好かない。
しかし、グレイソンは嫌な顔一つせずに答えた。
「そうだが、何か用かな?」
彼の声は柔らかで、穏やかなものだった。
「実は、今日そちらのお宅に確認に行ったら、ジュリ君が家出してしまったらしくて…」
ケイトはこのチャンスを逃さぬよう、急いで状況を説明する。
グレイソンは黙って聞いていた。彼の表情は無感情で、彼が何を考えているのかは誰にも分からなかった。ただ、彼が動きを止めたので、ロットとエレナは心配そうに彼の反応を待っていた。
突然、グレイソンの口から小さな声が漏れた。
「な…」
何を言うつもりなのか、ロットたちにも緊張感が走る。
「な…」
怒っているのかどうかもわかりにくく、固唾をのんで待つ。
「なぁぁぁあにぃぃぃぃいい!!??」
突如彼の絶叫がエントランス中に響き渡った。エレナは思わず耳を塞いだが、グレイソンの叫び声は止まらず、次々と言葉が紡ぎ出されていった。
「ジュ、ジュリが家出!?あんなに気立てが良くて賢い子が!?君たち、うちのジュリに一体何をしたというんだ!というか君たち何でジュリのことを知っている?あ?もしかしてジュリは攫われたとか?そうだよなぁあんなに可愛い子を世間は放っておかないよな。ということは君たちはジュリを救うために妻が遣わせた冒険者なのかい!え?どうなんだい!?」
興奮したグレイソンは、ロットの肩をがっしりと掴み、激しく揺さぶった。目に宿る必死さから、彼が相当焦っていることは明らかだったが、その力強さにロットは身の危険を感じた。
「ちょっ、やめて!」
ロットは必死に抵抗し、最終的にグレイソンを突き飛ばす形で逃げ出した。グレイソンは驚いた様子で一瞬動きを止め
「す、すまない。気が動転してしまって…。それで、ジュリはどこに?」
激情は去ったようだが、今度はオドオドとし始めた。
「それがわかれば苦労しないっすよ。ちなみにあたしらはジュリ君の病気を治すために来てるっす。そしてジュリ君は家出っすよ。父親に会いに来たかもってことでここまで来たんすけど、外れでしたね~」
エレナが正直に話すと、グレイソンはさらに取り乱し、膝をついてうなだれそうな様子だった。
「う、うぅージュリ……どうして家出なんか!それに病気を治せるというじゃないか。なぜそんな今になって」
グレイソンは、それでも家出した理由がわからなかった。その謎はロットとケイトにも同じく理解できないもので「本当に、なんで逃げるのかしら」とケイトも呟いていた。
「寂しかったんじゃないっすか?」
「エレナ、何を…?」
エレナだけは何となく理由がわかっていた。だから、彼女はそう言った。
「どういうことだね?私は自慢じゃないが、息子が大好きでね。仕事で忙しい代わりに、お金に不自由はさせたことがないし、わがままだって叶えられなかったことはないほどだ。それに、具合が悪い時は付きっきりで看病もしているぞ」
グレイソンは、寂しさを与えていると言われたことに驚き、反論した。彼は愛情の代わりにお金で息子を満たせると信じていたからだ。
「それっすよ。ジュリ君からしたら、お金なんて愛情表現にならないんす。それに、一緒にいてほしい人たちが付きっきりでいてくれるのは、自分が体調不良の時ばっかっすよ。病気がなくなったら、果たして愛してもらえるのか?大事にしてもらえるのか?不安なんじゃないですか」
「何を……当たり前じゃないか!」
グレイソンの言葉には、息子への愛情が込められていた。しかし、家族のために働き続けた結果、息子との時間を取れなくなっていた現実には気づいていなかった。それでも彼は、息子を愛している。
「でも確かに、しんどい時にそばにいてくれるのも嬉しいけど、どうでもいい日に一緒に遊んでもらった時間とかって意外と大切かもね」
ケイトが自分の幼少期を思い返しながら言った。
「俺も、幼い時に両親は亡くなりましたが、大好きだったのは何でもない日に家族みんなで外でサンドウィッチを食べた時でした」
ロットも幼い頃の記憶を遡り、家族四人で草原で手作りのサンドイッチを食べていた日のことを思い出した。あの瞬間は今でも鮮明で、その味は今でも忘れられない。
「伝わってるって思ってても、すれ違うこともあるっすよ。でも今、ジュリ君が行動を起こしてくれたんすから、絶好のチャンスかも」
「そうだったのか。私は息子のためにとがむしゃらに働いてきたが、そうだよな。私も父と手を繋いで歩いた記憶が鮮明に残っているよ。
そういえば、妻もジュリのために薬師を探したり、いろんな方法を試してくれていたから、世話は執事たちに任せることも多かったかもな」
グレイソンはロットたちの言葉を聞いて、ようやくジュリの家出の原因に気づき始めた。そして、息子が何を感じていたのかを理解し、後悔しない行動を取ることを決意した。
「よし!ならば今日の仕事は全てやめだ!マルクス君、君に全て一任する。君なら大丈夫だ!ジュリ、今すぐ会いに行くからなぁぁぁ!」
グレイソンは晴れやかな表情でエントランスを去り、外に飛び出した。
「ちょっと待って、グレイソン様?」
受付係や、先程からグレイソンの隣で生真面目な顔を崩さず立ち尽くしていた側近が止める間もなく、グレイソンは外へと向かって行った。
ロットたちが顔を見合わせていると、数分後、息を切らしたグレイソンが戻ってきた。
「はぁ、はぁ…。すまない、それでジュリはどこにいるんだったかな?」
グレイソンは本気で息子を探すつもりだが、少し抜けているところもあるのかもしれない。ロットはそう感じながらも、ジュリを探す場所について考えを巡らせた。
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