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第二部 最大級の使い捨てパンチ
「あぁ、金貨」
しおりを挟む屋敷に戻った一同は大喜びの使用人に何度も感謝され、歓待を受けた。パンチの体は1日寝ると元に戻っていた。その事実にレナは少し残念そうにしていたが、パンチはホッとしていた。
そしてケイトは魔力が回復するにつれて、体調も戻って行った。しかし、ルミナリアの強い勧めもあり、数日間はベッドで過ごすことになる。心配性のロッドが何度も様子を見に来て、ケイトに追い返されることもあったが、追い返す声に力が戻っていてロッテは怒られながらも嬉しそうな姿を見せていた。
後遺症なのか、体調自体は完全には戻らなかった。それでも魔法を使ったり体を動かすことには支障がないほどには回復した。
そんなケイトとともにロットはルミナリアの魔力を取り除くことに成功した。魔力種自体は特に苦戦なく、取り除くことができ、その事実を告げると再度屋敷の一同、そしてルミナリアから感謝の言葉と金貨を約束通り300枚もらった。
そして数日の経過観察の後にルミナリアの体調がおかしくなる様子もなかったためロットたちは旅立つ。
「もう行かれるんですね?」
荒れていた庭は美しく整えられており、家全体に気品が戻っている。そんな玄関口で別れの挨拶を交わす。
「ええ。僕たちの目的は魔力種に困っている人たちを助けることですから」
「それに十分美味しいおもてなししてもらったしね」
「串焼き最高でした」
それぞれ礼を言い頭を下げた。お金だけでなく宿や食事も最高級を提供され続けたためどちらか世話になったか分からないほど満足していた。
ただ、だからお金は返そうとするロットをケイトが全力で止めた。
そのがめつさに少しだけ顔をしかめたロットだったが労働には適切に賃金が支払われないと頑張ってくれた方に失礼です、というルミナリアの言葉で仕方なく受け取った。
「エレちん元気でなー!」
「コルミっちも元気で!」
エレナとコルミはすっかり仲良くなり別れを惜しむ。そこに涙がないのが二人らしい。
「あの、近頃魔族の動きが活発になってきているようです。どうか旅の道中お気をつけて」
「そうだね。俺たちも二回は魔族とやりあったからそこは気をつけるよ」
前回の魔王種といい今回の魔族といい、平和な世界とは程遠くなってきている気がしていた。そんな今の情勢を詳しく知っているであろう勇者に出会った時に詳しく話を聞こうとロットは決意していた。
「そうですか……では最後に今回のお礼なんですが」
「まだくれるの?もういいよ、宿と食事をもらっちゃって十分だよ」
ルミナリアの言葉にロットは驚いて提案を断る。咄嗟にケイトを見るが、さすがのケイトももう受け取らないとジェスチャーしていた。しかしルミナリアの決意はかたいようで首をふる。
「いえ、それでは私の気がすみません。金貨もお約束の分しか渡せていませんし。それに大事な戦力の一人であるケイトさんも本調子ではないのも事実。ですのでパンチをお譲りします」
その言葉に視線が集まる。予期していなかったパンチは呑気に鼻をほじっていた指を慌てて引き抜いた。
「ぁ?お、お嬢。冗談にしちゃあつまらねえぞ?」
慌てるパンチだがルミナリアの意思は堅い。そしてロットたちは唖然としながら成り行きを見守る。
「冗談ではありませんよ。私も魔力種という病気に苦しめられてきて、同じように苦しむ人もいることを知りました。なのに私は何もできずここにいることしかできません。ですので、パンチ。私の代わりに旅に協力してください。あなたならきっと力になれるはずです」
「いや、俺は腕もまだ治ってないんだけど」
「そんなもの旅をしながら直せばいいんです」
なかなかの鬼畜である。ルミナリアは小さな身体だが意外と頑固で、こうと決めたらてこでも動かない人物だった。それをよく知っているパンチはしばらく考えた後に諦めたかのようにロットを見た。
「おいおい、そりゃあ、兄弟がいいっていうなら行ってもいいけどよ」
「助かるよ、でも危険な旅だよ?」
ロットもパンチ加入に反対ではない。ケイトでさえもあの戦いにおいて能力を使わずとも気合で魔族の攻撃を受け止めて自身を守った勇気を忘れていなかったので足手まといではないという判断で頷いた。エレナはコルミと遊んでいる。
「ま、お嬢に救われた命だ。お嬢がしたいことに使ってやんなきゃ罰が当たるわな」
行くことを決めたパンチは豪快に笑って手を差し出した。それを受け入れる形でロットが握った。
「じゃあ俺は賛成するよ」
「じゃあ決まりですね!パンチ、頑張りなさい」
二人が熱く握手を交わすなかルミナリアがパンチの背中を叩いて激励した。そして本当に最後の見送りが終わり一同はそのまま街を出た。草原にて今度はレナが根城に帰ると言い出した。
「今回は家のが本当に迷惑かけたね」
「お嬢も元気になったし終わったことは気にすんな」
「そうっすよ。おかげで串焼きたくさん食べられましたし」
「あはははは、違いないねぇ。んじゃいくとするかね。ロットとケイトも何か困ったら頼るんだよ。あたしにできることならしてやるからさ!」
ルミナリアとパンチが別れるときはお互い見えなくなってからメソメソ泣くという湿っぽいものだったのに対しレナはあっさりと笑顔で去っていく。それを皆が笑顔で見送るが、ケイトのみしかめっ面で非常に苦しんでいた。しかし何かを決心したように一人で頷き、中身が詰まった袋を取り出す。
「レナ!」
振り返ったレナに袋が投げられた。かなりの重さなのか少しのけぞる形で受け止める。レナが袋を確認すると中には金貨がぎっしりと詰まっていた。
「そ、それ、あげるわ!」
青い顔をしてなんとかそう言ったケイトに驚く。
「あたいが迷惑かけたのにこんなのもらえないよ!」と明らかに動揺していた。
「それは僕達からのお願いです。僕達が魔力種の子どもを救うのと一緒で、レナさんも恵まれない子どもたちを助けたいんですよね?それは金貨600枚あります。どうかそれでレナさんの夢を叶えてください。そうすれば人さらいもきっとしなくて済ますから」
ロットはそう言って笑った。あらかじめ決めていたのか他のものも頷いている。ケイトもかろうじて。レナは突然の大金に驚きつつも、これでようやく子どもたちのためのまちづくりにとりかかれることに思わず涙がこぼれそうになる。
「や、やだねぇ。湿っぽく終わりたくなかったのに。こんな粋なことされたら涙だってでちまうよ。わかった、このお金はいただく。その代わりいつか戻ってきたらあたしの町に立ち寄っておくれ。その時は子どもたちともども最大限のおもてなしをするからね!」
泣き笑うようにそう言うと今度こそレナは根城へと帰っていった。
後にエグランティーヌ家の後ろ盾を持った、恵まれない子どものための街が出来上がるのはまだ少し先の話だ。
そしてロットたちの旅は続く。
「次はどこへ行くの?」
「うーん、せっかくだから海を渡って緑塔の地域を見に行こうかな」
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