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ごめんで済んだら神はいらない
しおりを挟む間違えちった、まちがえちった、マチガエチッタ。俺の頭の中で彼女の声がこだまする。目の前には舌を少し出してウインクする美女がいるわけだがこんなにも怒りが湧くとは。
つまりあれだ。俺は本来寿命を迎えるはずではなかったのにこの神のような女性に命を摘まれたわけだ。
しかもそれに飽き足らずどうやら似ても似つかわしくない小太りのおじさんと働き盛りの二十代を見比べて区別がつかず、勘違いしていたと。
そしてそのミスを「まちがえちった」の一言で済ませようとしている。
気は長い方だと思っていたが人生を唐突に終わらされてふざけた謝罪一つでは溜飲を下げるなんて到底無理な話だった。
だから抗議の意味も込めて謝罪には何も反応してやらず終始睨みつけていると、彼女もさすがに気まずさを感じたのかふざけたポーズはやめた。
そして
「間違えちった」
「ポーズの問題じゃねぇよ!」
ない胸を強調するかのような悩殺ポーズで再度謝罪で乗り切ろうとするので思わず突っ込んでしまった。彼女は驚いた様子で目を丸くしている。
あれで本当にいけると思っていたのか。
「えっと、1枚脱ごっか?」
「なんでそうなる! 何考えてんだあんた!?」
「いや、だって二十代の男の子なんて可愛い女の子を前にしたら怒りなんてどこかに行っちゃうでしょ?」
中学生かよ。
確かに魅惑的な美貌ではあるかもしれないが……。
そんな展開えっちなビデオだけで十分だ!
「だめなの? じゃあどうすればいいのかしら」
「どうすればって、……生き返らせて!」
当然の要求だと思った。しかし、妙なポーズを取ったまま固まっている。神は面倒くさそうに顔を歪ませる。やはり人を生き返らせるというのは神であっても禁忌の1つなのかもしれない。
だが、そうだとしても納得いくわけはなかった。社会人になって数年。仕事も面白くようやくこれからという時に死んでしまっていいわけがない。
「無理って言ったら怒るかしら」
怒る。
「ほんっとうにごめんなさい」
絶対怒る。
「反省しているわ。それに最初間違えちゃったことも申し訳ないと思ってます」
許すわけがない。
「あなたが赦してくれるまで謝ります!」
額を白い床に擦り付けている。はたから見れば顧客に土下座させられているコンビニ店員のようだ。
ちょっと可哀想になってきた。
「ちなみにだけど、生き返られない場合俺はどうなるんですか?」
ベタに言えば死後は輪廻転生か? 天国でゆったり過ごすんだろうか?
「えっと、転生か転移になります」
「詳しく教えてください」
「転生はその名の通り生まれ変わります。今回は特に、私に非があるので記憶を持ったまま生まれ変わることもできますよ!」
強くなってニューゲームみたいだな。本当に生き返られないのだとしたら、人生2周目として楽しむのはアリかもしれない。
家族と会えないのはさみしいがいつか顔を見るくらいはできるかもしれないしな。
「……まあ転生先は選べないのでミジンコになるかもですが」
「却下だ!!!」
ちょっとありかもと考えている俺に聞こえるか際どい声で言いやがった。危うく地獄の転生物語が始まるところだった。
となると転移一択になるが。
「転移は今のあなたのまま異世界に移ってもらいます。ちなみに行く先は決まってて剣と魔法が主流の世界です。あなたの世界で流行りの世界観の一つによく似ていますよ」
なるほど。異世界転移は面白そうだな。魔法を使ったり人間じゃない種族との交流、そして異世界飯は面白そうだ。
「……まああなたの世界の人間が身一つで放り込まれたら言語も分からず雑魚の魔物に殺されますが」
「やっぱりなしじゃねーか!」
なんて女だ。本当に神なのか。鬼畜すぎる選択肢ばかりじゃないか。
不服そうな俺に口を尖らせながら彼女は言う。
「文句言わないでよー。転生は記憶。転移は何か強力な能力をつけますからー」
「そんなお得なセットにされても騙されないぞ!……ちなみに能力って?」
口ではそういいつつもお得感には弱いのは人間の性だ。
「例えば超魔力とかどうですか? 強力な魔法を使い放題! 世界を征服し放題ですよー!」
「征服し放題ってあんた神様でしょ! ……でも魔法使いは悪くはないかな。それに生き返るのは難しいんだよね?」
「え?……ええ! 生き返るのはかなり難しいです。ので大人しく転生か転移をおすすめしますよ」
「ちなみに転生だと人間になる確率は?」
「0.00000001%ってとこですね!」
「転移でお願いします!」
結局転移一択だった。けどまあ異世界チートなら悪くはないかもしれない。人生これからってところだったけど異世界キャンプも悪くないしな。
「本当ですか! でしたら特別にキャンプ道具一式を揃えるのと、路銀、そして異世界の人間語を教えて差し上げます!」
「ありがとうございます」
もしかしたら優しい神なのかもしれない。言語も教えてくれるのなら転移したときに路頭に迷わなくて助かるな!
なんて親切な神様なんだろう。そんな思いすら抱きながら俺は神様から言語について教わった。
まさかの教科書とノートというアナログな方法での学びとなったが、この空間が特殊なのか腹が減ることもなければ排泄の心配もいらず、さらには疲労感がないので集中が途切れることなく取り組めた。
そんな状況下だからか100日ほど(神様曰く)で言語習得に至った。
そして旅立ちの日。
ムスビ様と相談のもと手頃な森に転移してもらうことになった。いきなり街の真ん中に転移させられたら無駄な騒ぎになるだけだし、勘違いで勇者やその一行にされては敵わない。俺は世界を救いたいわけじゃないからな。
だからといって転移した瞬間死んでしまうような過酷な環境では転移した意味がなくなってしまう。
なので森となった。
ムスビ様曰くただの森らしい。名前もない程度の森だから街に抜けるのも容易いに違いない。
数日キャンプ生活で体を慣らしてから街に向かって働き口を探そう。
俺は神様に頭を下げる。
服は神様がくれたキャンプ道具一式の中にあった深いカーキ色のシェルジャケットを羽織っている。防風・防水・防寒の三拍子がそろったハイエンドモデルで、胸元にはいくつもの止水ジッパーがあり、ギアを濡らさずに収納できるようになっている。その下には、ウール混の中間着フリース、さらに吸湿速乾性に優れたベースレイヤーがしっかりと重ねられていた。
パンツは、膝部分が立体裁断されたアウトドア用のカーゴパンツ。耐摩耗性に優れ、動きやすく、焚き火の火の粉にも強い難燃素材。足元には泥にも雪にも負けないハイカットのトレッキングブーツががっしりと足を支え、靴紐には反射素材が編み込まれている。
グローブは難燃性のレザーグローブ。手先の器用さを残しつつ、火を扱う際にも安全性を確保。左手の小指には、ほとんどの人が見逃すような極小のホイッスルが巻かれていた。いざという時のSOS用だ。
もちろん背負っている大容量のバッグはキャンプで必要なギアがぎっちり入れ込まれている。旅立つこの瞬間に渡されたため詳しい中身は確認していないがこれだけ優しい神様なのだから信頼していいだろう。
そして俺は頭を上げると歪められた空間に向かう。宙に浮かびそのねじれは飛び込むことで異世界へといざなうらしい。
「ムスビ様、死んでしまったときは正直不安でしたが、新しい異世界ライフを楽しめそうです。それじゃあ行ってきます!」
そして異世界への入り口に踏み込んだ。
「よかったわ! 生き返らせるのって手間だし上神にミスを報告しなきゃだから面倒なのよね。それじゃあ異世界ライフを楽しんでちょうだいね!」
転移に意識が薄れる最中、そんな声が聞こえた。異世界という不安と期待に満ちた世界に飛ばされる俺は
生き返れるんじゃねえか!
と声にならない大声を上げながら意識を手放した。
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