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月へと消えた馬車

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「…あ…あなた……ううっ!!」



成す術も無く立ち尽くしていたプラティナもとうとう膝から崩れ落ちてその場にうずくまってしまった…



「お、王女様!!!」



プラティナの存在を崇拝し、尊敬しているサブリナが直ぐに側に駆け寄った。


大好きなプラティナの背中をさすり…彼女のことを気遣う中、サブリナはある事に気付く…


「つ、月の色が……」


ふと目に入った湖面に浮かぶ月…


黄金色に輝くそれが真紅のモノへと姿を変えていた。





当然…皆の視線は頭上へ…


頭上で輝く燃えるような大きなルビーを眺めていると…何故だか涙が溢れ出す。



……フワリ。




ゆっくりと馬車は宙に浮かび始めた…



馬車と言っても馬が引いている訳ではなく…
その代わり、深紅の月から光の帯のようなモノがまるで道標のように伸びている…



「ああ……」



光の帯の線路に乗った馬車が動き出すと王女達はため息混じりに見送ることしか出来なかった。




「竹取物語…」


人間界で幼い頃から暮らしていたアイは馴染み深いその御伽話おとぎばなしの名前を呟く…


「これが…みかどが見ていた景色なのかしら…」



馬車が通った後の光の帯は消えていき、やがてその馬車自体も段々と小さくなり…とうとう見えなくなってしまった。


月はすぐにまた美しい黄金へと姿を変えて皮肉にも心地良い涼しい風がプラティナ達の頬を撫でた…




「……くっ!!」


プラティナは歯を食いしばって立ち上がってあらぬ方向へと駆け出し…何処かへ瞬間移動して行った。



まるでヴァルプルギスに優也を奪われて…単身で彼女の居城に乗り込んだあの時と同じように…








そして…


絞り出すようなか細い声で呟くサブリナ…



「…王女様…申し訳ございません…

先日、優也様に陰ながらお護りさせて頂きますと誓いを立てたばかりでこのような…


…くっ!!」




…魔界探偵失格だ…





心の奥底から彼女は後悔していた。

命に換えても護り抜くという決意と探偵のプライドを粉々に打ち砕かれた。



弓が残していったペンダントを握りしめがらプラティナと同じように歯を食いしばる…



薄らと瞳に涙を浮かべた彼女の肩にマーブルがそっと手を……









……バッチーン!!!!!



「あ痛ぁぁぁっ!!!」





マーブルは振り上げた平手で思いっきりサブリナの背中を張った。


そのあまりの勢いにサブリナは前にガックリと倒れ込む…



「バカ!!アンタがそんな顔しててどうすんのよ!!

これからどうしなきゃいけないなんて直ぐにわかる事じゃないの!!

しっかりしなさい!!!」





…ジンジンジンジンジン…



背中に響くその痛みがサブリナに語りかける。



王女様の…いや…自分自身の為に大切なお方を全力で取り戻すんだ…







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