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西へ

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数日後、外海の上を高い高度でフワフワと飛ぶ四角い形の物体があった…

海をひたすら西の方角へ結構なスピードで進んでいく…海の上には小さな四角い影が優也達をずっと追いかけてくる…


「殿…やっぱり殿って凄いわぁ…じゅうたんを濡れへんようにしてくれはったんやね…」


「ああ…スキーウェアなどに使う撥水はっすいスプレーを何重にもかけたんだよ…しばらくは水を弾いて吸い込まないと思うよ…」


「人間界やったっけ?本当に凄いもんがあるんやなぁ…」


「フッ素樹脂が水分をブロックして染み込まないようにするんだよ…」


「ふ、ふっそ…?」


「…と、とにかく撥水の効き目があるうちにジーナさんの国を探さないと…方角はこっちで良いはずだよね…」


「はい…殿…この方向で合うてるはずです…上手く言えへんけど故郷の風みたいなもんを感じます…間違いないですわ…」

「それは良かった…ところでさ…」

「…はい?」

「このまま…ずっとくっついて行く気?」


ジュエラを出てからピッタリとくっついてきた彼女だったが僕の言葉に急に悲しそうに涙ぐんだ…

「ウチ…とんでも無く酷い事をしてしもうた…自分を助けてくれた人に酷い事を…

でもそのおかげであなたが誰よりも純粋に自分を愛してくれる美しい心の持ち主だと分かったんです…

正直…殿が壺から出してくれた時は優しい人やし…好きになろ!!って位に思ってました…そやけどあんな事したウチを殿は…グスン…」


溢れてくる涙を拭いながらジーナさんは僕の胸に飛び込んできた…


「ううう…もう絶対殿を嫌いになったりせーへんから許して…ウチ、殿に見放されとうない…」


「困ったなぁ…見放すなんて…そんな事しないよ。無事に故郷へ帰れるように一緒に頑張ろうよ…」


「…グスン…はい…殿……」


結局ジーナさんはそれからずっと僕からくっついて離れなかった…



ツンと鼻をつく潮の香りの空気に慣れてきた夕焼けの中、オレンジ色に染まる彼女の顔をふと見ると、
何処かあどけなさの残る成人直後のとても美しい女性…


見た目は僕とそんな年齢は変わらないのだが、僕は中身は三十代…彼女は歳の離れた妹のような存在になるのだろうか…?



年下と言ってもまだ自分と近いティナやナギさんとはまた違う…


甘えてきても自然と許してしまう自分に今までにない感情が生まれていることを何となく感じていた…



水平線の向こうに日が落ちてリュックの中から毛布を出す…

疲れて寝息を立てて眠ったジーナさんに掛けてあげた。



夜があけたら引き返すかどうかを決めなくてはいけない…

大陸が見えないようならハッキリ言ってこのまま飛んでいても撥水スプレーの効果が切れて水分を含んだじゅうたんと一緒に二人とも海に落ちてしまう…



暗闇の中をじゅうたんに乗った僕達は西へ西へと進んでいく…


下弦の三日月の明かりにボンヤリと照らされながら…
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