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真珠婚礼式(パール・ウェディング)

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チャペルへの扉が開くと…

バージンロードの中央あたりで待っている羽織袴姿の優也の元へ一歩一歩進んで行く。




従者に付き添われ…白無垢の綿帽子に打掛、掛下、帯等を全て白で統一したアイの和装姿はブーケを魔法で扇子に変えて細く長いアイの指に良く映えている…

髪を切って以前よりアクティブなイメージになった彼女と対照的な…だからこそ黙って優也の後を付いていくおごそかな和装が誰よりも映えるのかもしれない…

アイは優也の歩みの跡をしっかりと踏みしめてマザー・ハーロットの元へゆっくりと二人で歩みを進めて行く…そして彼女の前に二人で並んだ…


アイは俯いたまま自分の右側の優也を上目遣いに見上げた…そしてまた前を向き俯く…

その時…彼女は自分の中に不思議な感情が生まれている事に改めて気付いた。



…優也くん…立派になったなあ…私が人間界に留学している時は彼は怒るかもしれないけど…初めは可愛い弟ってカンジだったからね…

でも…勉強を教えてた私が彼に色々教えられるようになって…一人で王女らしくしなきゃって先走ってた私を彼は…あははっ…いつの間にか私のほうが彼のことを目で追うようになっちゃってたね…



黙って俯いて考えているアイの両肩の上に優也は自分の掌を置いて彼女を自分の方に向けた…

「えっ…?」

優也はニコッと笑いながら口づけの代わりに優也は未来を見透せるアイの瞳を真っ直ぐ見つめて口を開いた…

「…高校生になった僕は同じクラスの…いつも窓から外を眺めている透明感のある可愛い女の子を好きになった…いや…好きになるって決まっていたんでしょ?」

優也の言葉にアイはクスッと笑って…頷いた。

「君はミラールの王女としての責務を果たすために一生懸命…未来を見つめ、その通りに導く事だけを全てとして頑張った…

自分の青春も…僕との恋も…全てを犠牲にして…

僕はその事を思い出すと心が震え出していつも涙が出そうになる…」



アイは持っている扇子を震えながらギュッと握り締めた…



「でも…大人になって君と再会してあの頃の君への想いが間違ったものでは無かったと改めて確信したんだ…

色々な困難が僕達を襲ってもいつも君は一歩先で僕を見つめていてくれる…僕はどんなに心強い事か…

あの時、別れを切り出された僕だけど…今、君とこうして一緒にいられる事を本当に幸せに思うよ…


これからも僕達はずっと一緒だ…
君が笑ったら僕達も嬉しい…
悲しい事や辛い事はみんなで分け合える…

そんな世界を創りたい…

また今日がスタートだ…

僕達の夢に向かって進もう…

君は僕が守るよ…愛ちゃん…」


「ああ…」アイの未来を見据えている透き通った瞳からまるで人魚が流すと言われる真珠のような美しい涙が一粒…二粒とこぼれ落ちていく…




優也は涙を堪えようとしているアイの手に彼女の涙と同じ美しい大粒の真珠のイヤリングを彼女の両耳に着けてあげた…

「僕が高校生の頃…お金が無くって…一生懸命バイトして買ったイヤリングを君は嬉しそうに着けてくれたよね…

あの時のような安物では無いけど、あの頃の想いのまま…君に贈りたいんだ…受けとってくれるかい?」


「優也くん…ありがとう…」


…良かった…優也くんもあの時の事をずっと…


これからもその瞳でミラールを…そして僕達の道を明るく照らしてくれる立派な王女はみんなに祝福されて優也と…愛すべき仲間達と一緒に未来へ向かって生きていく絆を示した。

アイが流した真珠のような涙…そして種族を超えた優しさに心が震えた人々が流した涙がマザー・ハーロットの杯に葡萄酒となって現れた…

「おお…また葡萄酒が…随分と…さあ…次は…」


「行くわよ!」魔法で扇子をまたブーケに変えてアイはプラティナに向かってほうり投げた…



プラティナはブーケをしっかりと受けとって優也の
方に向かって大きな声で叫んだ…


「ダーリン…私を幸せにしてね…」
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