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涙の名前
しおりを挟む結真は焦って翔に布団を被せた。
「あ、あの…結衣これは…その…」
結衣は結真と翔に近づいた。そして翔の顔色が悪いことに気づいて、翔の額に手を当てた。苦しんでいる翔を見て驚いて動揺したのか…自分の口を手で覆った。
「…翔くん…すごい熱!!
お姉ちゃん…なんで?
こんなことになってるならなんで私に連絡してくれなかったの?酷いよ!」
結真は「本当だね。ゴメン、本当にごめんなさい。」と俯いた。その時、翔が目を覚ました。
「う…ん…結衣?来てくれたんだ。ゴメン。
昨日の夜から体調悪くて…訪ねて来た結真が看病してくれたんだ。結真…本当にありがとう。」
「あ、あたし…スポーツドリンク買ってくるよ。」
結真は部屋から飛び出した。
結真は頭の中が混乱していた。
…好きな男がいる。
それは妹の彼氏。
諦めようと何回も思った。
思えば思うほど、想いは強くなる。
彼女がいても、親友は諦めない。
その姿が羨ましい。
真っ直ぐな自分が好き。
でも自分は今、真っ直ぐに生きられていない。
その胸の痛みが…結真からずっと離れない。
結真はしばらくマンションの下で立ち止まったまま、動けなかった。
「ゆ、結真…」
後ろから呼ばれた結真が振り返るとそこには翔の姿があった。
壁にもたれながら階段を降りてきていた。
「翔くん!!何処?何処に居るの?
…翔くん?あっ!!翔くん!」
結衣が後から階段を駆け降りてきて、その場に崩れ落ちた翔に駆け寄る。結真も慌てて翔の身体を受け止めた。
「何やってんだよ!寝てないとダメじゃないか!」
「ゴメン、お姉ちゃん。私が悪いの。翔くんもお姉ちゃんも悪くない。私が悪いの…ううう…」
結衣が泣き崩れた。
二人でベッドに翔を運んだ。翔は落ち着いたのかまた眠りに落ちた。
結衣がゆっくり口を開く。
「お姉ちゃん、さっきはゴメン。」
そして結真に向かって頭を下げた。
「私、翔くんのことになるとダメなの。
自分を見失ってしまうっていうか…クリスマスに私のワガママで帰りたく無さそうにしていただけなのに、部屋の合鍵をくれて…
ああ…この人はどんな大きな気持ちで私を包んでくれているんだろうと思うと…私ももっと…大事にしなきゃって…」
結真は結衣の話に微笑みながら、自分の気持ちの中にある嫉妬のような感情を理性という名前の剣で寄せつけないように抵抗していた。
「部屋に入ってきたとき、何故かはわからないんだけど、お姉ちゃんに翔くんを取られたような気がしたの。それでイライラしちゃって…
すぐにお姉ちゃんに酷いこと言っちゃったって反省して…それを翔くんに話しちゃった…
翔くん、お姉ちゃんが気にして出て行ったと思って私が冷感シートを替えようと探している間に…ううう…」
そこまで話すと結衣はまた泣いてしまった。
結真は結衣の背中をさすった。
結真にも大粒の涙が流れる。
この涙に名前をつけるとしたら一体何だろう。
結真は生まれて初めての感情に戸惑うばかりだった。
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