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遠い背中を目指して
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雪が駆け寄る。
「父さん…どうしたの⁉︎」
「冷蔵庫のリンゴジャムを見て、リンゴソースを作るところまでは俺もピンときたさ。
しかし…分からねぇのはこのサラダとカツレツだ。
このサラダ、野菜が甘くてしゃっきりしてる。
他の料理に邪魔なドレッシングなんか要らねぇ。
それに以前、俺がカツレツの温度と時間を課題として出したよな。それをお前さんはクリアしやがった。それどころか味付けが美味しくなってやがる。
しかし…厨房にはそんな材料が見当たらない。
翔、お前さん…何をやらかしたんだ。」
僕はフライパンの中身を親父さんに見せた。
親父さんは目を見開いた。
「そうか…そういうことだったのか…」
「はい。そうです。炙り塩です。
塩は炙って熱を加えるとアルカリ性に変わるそうです。そしてそれが冷めてくるに従ってまた酸性に変わって行くそうです。
その変化の過程で近くにある食材の細胞を活性化させて、旨味や甘味を引き出して、野菜をシャキシャキした食感にするんです。カツレツの仕上げにも少しこの塩を使いました。」
「濃い味のポークソテーやカツレツを甘味のソースや塩で引き立たせて、そしてこのシャキシャキの野菜を食べて口の中をリセットする。
そして次のもう一口を…いや、恐れ入ったよ。
確かに俺はお前さんに課題を出した…
それを見極めるだけじゃなく、味付けまで練り直して…
参ったよ…
お前さんは常に上の味を目指してるんだなぁ。」
「まぁ…目標としている人が遠く先を走ってるんで少しでも頑張らないと近づく事も出来ないですからね。」と冗談ぽく言うと…
「翔…お前…
言うようになったじゃねぇか!!」
親父さんは笑ってくれた。
その日の夜、宮崎家では…
「父さん…翔くん、コンクール間に合いそうね。」
「ああ、あんな凄い奴だとは思わなかったよ。
俺は…若い奴をナメてた。
いいか、雪…あいつが選んだメニューで、何か特別に仕入れを変える物があるか?」
「いいえ…あっ!!」
「そうだ。あいつは新しくリンゴを仕入れたらサラダやデザートに、少し日が経つ前にジャムやカレーのチャツネに利用する。
塩だってそうだぞ。必ず毎日使う物だ。
もし冷蔵庫でしんなりした野菜があってもアイツの方法なら美味しく食べられる。
いずれアイツが自分の店を持ってもな。
より美味しいものを求めるには美味しい素材を加えるのが一番手っ取り早いんだ。
しかし…コストや管理する手間もかかっちまうからメニューを変えずに味のレベルを上げる方が当然、何倍も難しい…
だけどアイツは安くて美味しいものをお客さんに食べてもらいたい…
その一心で…」
「翔くん、そこまで考えてたの…すごい…」
「ああ…アイツはいずれ俺を超えるだろう。
俺も負けないように頑張らないとな。」
親父さんはまた嬉しそうに笑った。
「翔くん…」
神社の石段の上で雪のギターの音が優しい音色を奏でる。
そして月の光が音色と同じように優しく彼女を照らしていた…
「父さん…どうしたの⁉︎」
「冷蔵庫のリンゴジャムを見て、リンゴソースを作るところまでは俺もピンときたさ。
しかし…分からねぇのはこのサラダとカツレツだ。
このサラダ、野菜が甘くてしゃっきりしてる。
他の料理に邪魔なドレッシングなんか要らねぇ。
それに以前、俺がカツレツの温度と時間を課題として出したよな。それをお前さんはクリアしやがった。それどころか味付けが美味しくなってやがる。
しかし…厨房にはそんな材料が見当たらない。
翔、お前さん…何をやらかしたんだ。」
僕はフライパンの中身を親父さんに見せた。
親父さんは目を見開いた。
「そうか…そういうことだったのか…」
「はい。そうです。炙り塩です。
塩は炙って熱を加えるとアルカリ性に変わるそうです。そしてそれが冷めてくるに従ってまた酸性に変わって行くそうです。
その変化の過程で近くにある食材の細胞を活性化させて、旨味や甘味を引き出して、野菜をシャキシャキした食感にするんです。カツレツの仕上げにも少しこの塩を使いました。」
「濃い味のポークソテーやカツレツを甘味のソースや塩で引き立たせて、そしてこのシャキシャキの野菜を食べて口の中をリセットする。
そして次のもう一口を…いや、恐れ入ったよ。
確かに俺はお前さんに課題を出した…
それを見極めるだけじゃなく、味付けまで練り直して…
参ったよ…
お前さんは常に上の味を目指してるんだなぁ。」
「まぁ…目標としている人が遠く先を走ってるんで少しでも頑張らないと近づく事も出来ないですからね。」と冗談ぽく言うと…
「翔…お前…
言うようになったじゃねぇか!!」
親父さんは笑ってくれた。
その日の夜、宮崎家では…
「父さん…翔くん、コンクール間に合いそうね。」
「ああ、あんな凄い奴だとは思わなかったよ。
俺は…若い奴をナメてた。
いいか、雪…あいつが選んだメニューで、何か特別に仕入れを変える物があるか?」
「いいえ…あっ!!」
「そうだ。あいつは新しくリンゴを仕入れたらサラダやデザートに、少し日が経つ前にジャムやカレーのチャツネに利用する。
塩だってそうだぞ。必ず毎日使う物だ。
もし冷蔵庫でしんなりした野菜があってもアイツの方法なら美味しく食べられる。
いずれアイツが自分の店を持ってもな。
より美味しいものを求めるには美味しい素材を加えるのが一番手っ取り早いんだ。
しかし…コストや管理する手間もかかっちまうからメニューを変えずに味のレベルを上げる方が当然、何倍も難しい…
だけどアイツは安くて美味しいものをお客さんに食べてもらいたい…
その一心で…」
「翔くん、そこまで考えてたの…すごい…」
「ああ…アイツはいずれ俺を超えるだろう。
俺も負けないように頑張らないとな。」
親父さんはまた嬉しそうに笑った。
「翔くん…」
神社の石段の上で雪のギターの音が優しい音色を奏でる。
そして月の光が音色と同じように優しく彼女を照らしていた…
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