水溜まりの水平線

品方 耳夫

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また、逢った

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「こんにちは、また会ったね。」

彼女が僕に笑顔を向けたその場所は、特にロマンチックでも何でもない所々穴が見受けられる古くて汚い、錆水に染められたバス停のベンチだった。
急に降り出した雨に染められて僕は雨水でぐっしょりだったが、彼女は薄く雨水が染み込んでいる程度で僕ほど濡れてはいなかった。
雨が降り始めたのは五分程前のことだが、如何せん凄まじい勢いの雨だったから、僕は不思議に思った。
彼女は後からこのバス停に雨宿りに来たし…と考え込んでいると彼女がまた声をかけてきた。

「ねぇ、聞こえてる?雨すごいね」

僕の顔を覗き混むような姿勢でまた彼女はにっと笑った。
その時見えた右肩は他よりも色濃く濡れていてた。
なるほど、相合傘でもしてきたのだろう。
彼氏とかいるのかな。
僕はその一点が気になって仕方なかった。
ただそれを本人に訊くというのはちょっと野暮だな。と思った。
まして、右肩が他より多く濡れてるけど相合傘でもしてきたの?
なんて口が裂けようが言えない。
はっと意識を戻すと目の前に彼女の顔があって、目が合った。

「うわっ」

僕は驚いて仰け反った。
彼女は膨れた顔をしていたが、仰け反り目を丸くしている僕を見てニヤッと笑った。

「こんばんは!」

少し低くてゆっくりした声で戯けた様子で彼女は言って、僕を見てまた口角をあげた。

「悪かったよ、ぼうっとしてて」

裾まで濡れた足で弾ける水溜まりを蹴りあやしながら適当に話を楽しんでいると、あっという間に雨は止んだ。

「雨やんじゃったね」

そういう彼女の瞳から僕は物足りなさを感じた。
もしかして僕ともっと話したいんじゃないか?
とか思った。
至極単純で恋愛経験も少ない僕は今こそデートに誘ってみる完璧なタイミングなんじゃないか!?とか滅茶苦茶に心拍を刻んだ。

「今度さ、一緒に映画行かない?ほら、さっき話してた。」

その一言を押し出すのに要る力は如何程だったろうか、しかし口に出す時はわりと自然に言えたんじゃないかと思う。

「あー…そうだね。私も行きたいよ、行けたらいいね。」

彼女の声は小さくて聴き取りづらい程だった。
さっきまでの雨の中ではかき消されていたであろう程に小さかった。
そして返事も、ぎこちなかった。
しまった。と思った。
多分これはあんまり行きたくない。ということだろう。
僕が彼女を気にしすぎるあまり変な勘違いをしてしまった。と後悔した。
しかし僕には彼女の「私も行きたい」が嘘であるとは到底聴こえなかった。

「うん!行こう行こう!」

と、僕はそんなこと気づいてなんかいないかのように振る舞った。
本気で行きたくなくて濁してたのなら彼女にとっては相当鬱陶しかったと思う。
でも彼女は

「うん、楽しみにしてるよ」

と僕を見て微笑んだ。
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