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お前のものは俺のもの

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 俺が山下にずっと伝えたかった一言を俺のために力強く紡いでくれた山下。

 嬉しかった…嬉しくてどうしようもなかった…
 こんな俺に、友達になりたいなんて言ってくれたヤツは誰もいなかったんだよ…

 友達…俺が憧れていた友達…
 ずっとずっと、欲しかった本当の友達…

 それでも…友だちになったとしても、俺たちには俺たちにしか分からない、隠し事と悩みがある事実は変わらない。

 山下自身は俺が‪α‬だと言うことに気付いていない。その反面、俺は山下がΩだと言うことには気付いてしまっている。

 ‪α‬の俺のせいで、山下の秘密がバレてしまってはコイツを傷つけてしまう…
 隠したい何かがコイツにもあるんだろうから…

 友達になるからには、山下を傷つけたくなんかない…コイツがちゃんと事実を話すまで俺は、見守ってやるしかないんだ。

 それには、俺も俺で山下のフェロモンに反応しないように気をつけなきゃいけない。

 でも内心は、山下の事が可愛くて堪らないし、完璧一目惚れをしてしまっているのは事実…

 黒縁眼鏡に透き通った瞳…
 そして、何より可愛い容姿…

 このどれかを一つでも自分のものに出来るのであれば、どこかで自分の気持ちが抑えられるんじゃないだろうか…

 百%可愛いより、何か一つを俺のものにして、九十%可愛い山下にしておけば、気持ちも抑えられるんじゃないだろうか…

 上手くいくかは分からない…
 ただ、やってみないともっと分からない…

 そんな賭けみたいな事を俺は考えついていて、頬を少し赤くさせながらも山下にある条件を与えてたんだ。

「…お前の気持ちはよく分かった…俺もお前と友達になりたい…でもな…?お前が俺と友達になりたいのなら、一つだけ条件がある…」

「…う、うん…?じょ、条件…?」

「ああ………今日からお前のものは俺のもの…いいか?それが俺と友達になる条件だ」

 俺の訳の分からない条件に若干、唖然とする山下…無理もねぇよな…

 でも、こうしないとずっとお前の傍にいて、見守り続けることは俺自身が無理なんだよ…

「ね、ねぇ…ど、どういう…」

「嫌なら友達じゃなくてもいい」

 それだけの覚悟で俺は山下に『友達じゃなくてもいい』と伝えたんだ。

 でも、それでも…
 山下はの心の底から良い奴だった。

「わ、わかったよ!さぁ、ど~んっとこい!」

「ふふ…やっぱお前、良い奴だな…じゃあ早速……お前が掛けてる、その黒縁眼鏡…俺に渡してくれ」

 そう、身体を変えることは出来ない。
 ならば、山下のトレンドマークであろう黒縁眼鏡を俺のものにしておけば、九十%の山下になるだろうと…それに賭けてみることにしたんだ。

 そんな俺の要望に、山下はそっと眼鏡に手をやり、俺に向かって外して見せてくれた。

 だめだって…!!
 まだ、俺にちゃんと顔を見せないでくれっ!!

 百%の山下を見る前に俺は、山下の眼鏡を奪い取ったんだ。

「…眼鏡外しても俺の顔、見えるか?」

「…うん、ちゃんと見えてるよ?」

 眼鏡を外しても山下の可愛さは変わらない…
 それでも俺は、トレンドマークが無くなった山下の顔を直視する事が出来たんだ。

 そのまま俺は、山下から奪い取った眼鏡を自分の顔へと掛け「おおお~っ!」と可愛いやつの眼鏡を掛けたことが嬉しくて堪らなくて…自然と笑みが溢れだしちまった。

「…ねぇ、逆に僕の眼鏡なんか掛けて、ちゃんと見えてるの?」 

「…ああ、お前の顔、すげぇ綺麗に見えてるよ?」

 ごめんな…これもちょっとした嘘なんだ。
 そんなに目も悪くないし、眼鏡を掛けた時、少し…ほんの少しだけ山下の顔がボヤけていた。

 そう、この眼鏡があると山下を直視したとしても、ほんの少しだけボヤける。

 それも俺の狙いだったんだ。

 いずれどこかで九十%は百%になってしまう…
 なら、ほんの少しだけボヤけて八十五%ぐらいにしておければ、俺はお前の傍にもっと長くいれる気がしたんだよ…?

「…や、山際くん…!!」

「…ふふっ!大和でいいよ」

 親以外に名前で呼ばれた事がなかったけれど、これも憧れの一つだった。

 友達同士、気軽に名前で呼び合いたいと俺は願っていたんだ。

 そう、山下とくしゃみ野郎が名前で呼び合っているように…

「…や、大和くん…?」

「同い年なんだから、くんもいらない」

「…や、大和?」

「ん?なんだ?」

「僕のことも…裕翔って呼んでくれる…?」

 素直に嬉しかった…
 友達になりたいと願い、初めての友達になってくれた山下が、俺と同じように名前で呼んで欲しいと言ってくれたのだから…

「ああ、もちろんだ…裕翔…?これからもよろしく頼むな…?」

 可愛くて堪らないヤツの名前を初めて呼んだだけで、俺は頬を少し赤らめてしまう。

 そんな俺に裕翔も裕翔で頬を染めているのが見て分かる。

 やっぱりお前、可愛いよ…?

 そんな裕翔は、俺からの頼み事に「うん、もちろん!」と笑顔で返答してくれて、やっと俺たちは互いに笑顔を見せ合うことが出来たんだ。
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