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君が好き…これが言えないのに…

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「と、とりあえず落ち着けっ!山下がどうしたんだ!?」

 俺はクラスメイトの焦りに、ゴクリと唾を飲み込んだ…

 おい、何がどうなってるんだよ…

「お化け役に驚かされて…一人でどっかに行っちゃって…」

 あ、あのバカっ…!!
 あれだけ前に進むなって行ったのに…!!

 お前の瞬足だったら、訳の分からんとこまで行っちまうんだよっ…!!

「どこにいるか分からんのかっ!?」

「はぐれちゃったから全く分からなくて…ご、ごめんなさいっ…とにかく戻って先生に報告しなきゃと思って…」

 お前らはなんにも悪くない…
 むしろ俺がちゃんと止めれば良かったんだ…
 怖いものが苦手なことも知ってたくせにっ…!

 俺と駿は二人で顔を見合わせて『うんっ』と頷き、先公の指示なんか宛にせず、真っ暗な山中へと駆け出していったんだ。

 裕翔、頼む…頼むから無事でいてくれ…
 神様…お願いだから、裕翔のことだけは傷つけないでくれ…

 ◇ ◇

「裕翔~っ!!裕翔っ!!」
「裕翔~どこだ~っ!!返事しろ~!!」

 俺と駿が声を上げても裕翔からの返答はない…
 くそっ、どこにいるんだよ…!!

「大和、お前はあっちを見に行け!」

「ああっ!駿、そっちは任せた!」

 このままだとお互い迷子になるかもしれない…
 でも、そんなこと言ってられねぇんだよ…!

 俺にとっても駿にとっても…
 あいつは俺らが守ると決めた。
 そして、あいつは俺の希望の光なんだ…!!

 あいつのおかげで、今の俺がいる。
 あいつの笑顔のおかげで俺は笑える。
 あいつが居たから、俺は救われた。
 あいつを…あいつを失いたくなんかない!!
 裕翔…!!待ってろ!!絶対見つけてやるから!!

 俺と駿は、それぞれ違う方面から裕翔を探す事にしたけれど、なかなか見つからない…

 ただ、駿と離れたことによって俺にしか出来ない探し方がある事に気付いたんだ。

 俺にしか分からない裕翔の事…
 ああ、俺が大好きな甘ったるい匂いだ。

 俺はその場で動きを止め、渾身の勢いで『スゥーッ!』と鼻へと向かって空気を吸い込んだ。

 頼む…微量でもいいから匂いがしてくれ…
 裕翔のフェロモンを…俺の鼻に…!!

 なかなか匂いが鼻に入ってこない…
 いつもは傍であんなに香っては、耐えてきていたのに…

 くそっ!!なんで、なんでこんな時に限って匂いが入ってこないんだよ…!!

 馬鹿、諦めんな…!諦めずに吸い続けろ…!

 スゥーッ!!裕翔、どこだ…!?
 スゥーッ!!裕翔…!!
 スゥーッ!!……はっ……!!

 諦めずに空気を吸い続けていた俺の鼻に微量ながらも、いつもより甘ったるい匂いが刺激してきた…

 きっとこの近くに裕翔はいる…!!

 スマホのライトと裕翔のフェロモンを頼りに、俺は何度も何度も裕翔の名前を呼び続け、足を動かす度にフェロモンが強みを帯びていく。

 そして…


『大和…ここだよ…』


 俺に届くかどうか分からない小さな囁きが俺の耳に微かに聞こえたんだ。

 そうだ、俺が初めて裕翔の為に吐き出した、三角関数の答え張りに小さな囁きだ…

 囁きが聞こえた方へ目を向けてみるとそこには、ピンク色のフェロモンが蛍のヒカリのように灯っては消え…時折大きくなるのが見て取れたんだ…絶対にあそこだ…!

「ゆ、裕翔!!」

「…や、大和…」

 やっと…やっと見つけた…
 俺はボロボロになった裕翔の身体をそっと優しく抱き寄せたんだ。

「バカヤロウ!怖くなったら後ろに引けって…迷子になるなって言ったろうが…」

 バカヤロウ…こんなに傷ついちまって…
 怖かったろ…?寂しかったろ…?
 もっと早く見つけてやれなくてごめんな…

「ああっ…ひくっ、ごめん、ごめんなさい…大和、ごめんなさい…」

「謝らなくたっていい…お前が無事ならもうそれだけでいい…本当に良かった…」

 裕翔は、安心感と張り詰めていた不安から解放され、俺の胸で子どものように泣きじゃくっていた…

 俺はそんな裕翔の身体を温めるかのように、落ち着くまでずっとずっと…優しく抱きしめてやることしか出来なかったんだ。
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