秘密の異世界交流

霧ちゃん→霧聖羅

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昔がたり

★祖父が死んだ

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 実は半年ほど前に、祖父が亡くなっていた。
亡くなったと言っても、天寿を全うした訳ではなく、病に倒れた訳でもない。
単純に言うのなら、自殺と言うヤツだ。

「アスタール。お前にはもう、私が今まで生きてきた間に得た知識は全て伝え終わった。」

 祖父は、暗い喜びと狂気に澱んだ目に私を映し、笑う。

「これで、やっと自由になれる。」

 彼が狂った様に――実際、狂っていたのだろうが――笑うのを、私は無表情に眺めた。
最近、そう言う事が頻繁にあった為、『またか』としか思わなかったのだ。
ただ、その日はそこで終らず、笑いの発作が去っていくと彼は掠れた声で呪詛を紡ぐ。

「お前は、これから、ここの民の為に生き続ける。永遠に、私の替わりに……!」

 ひょろりとした体つきからは想像もつかない程の力で私の肩に爪を立てるように掴むと、その顔をグイと近付けて、寒気がする程私とそっくりなその顔に歪な笑みを浮かべる。余りのおぞましさに、顔が引きつるのを感じた。

「我、ここに新たな『輝影の支配者』を任ずる。後継者はアスタール。我が力の全てを継ぐ者也。」

 祖父の口からその言葉が放たれるのと同時に、膨大な力が彼から私の身に流れ込んでくる。
みるみるうちに、祖父の体が萎んで行く。
力の奔流に、意識と正気がもっていかれる錯覚に陥り、私は必死で目を瞑ると『彼女』の事を一心に思い浮かべ続ける。


リリンと、共に生きる。
何があっても、何を捨てても、彼女だけは手に入れる。


 あちらの世界の言葉で言うのならば、『走馬燈の様に』とでも言うのだろうか?
彼女との遣り取りの一つ一つが、鮮明に脳裏に浮かぶ。
必死の思いで彼女との思い出に縋っていたのは、一体どれほどの時間だったのか……。
目を開いて初めて、私は自分が意識を失っていた事を知った。
床の上で意識を失くしていたのがどれほどの時間だったのかは分からないものの、結構な時間が経っていたらしい。硬い床に転がっていたお陰もあって、体の節々が痛む。
のろのろと起き上がると、私の胸の上からずるずると干からびた物体が床へと落ちて行く。
床に転がった、『祖父』だった物体を目にして、ソレの姿に込み上げてくる吐き気と必死に戦った。
結果は敗戦だ。
ひとしきり胃の中のモノを吐きだした後、覚束ない足取りで初めての『外』に向かう。

 無駄に立派な大扉は、思いの外すんなりと開く。
今は、私が外に出る事を阻んできた祖父は物言わぬ物体になっていると言うのに、そこから外に出ようとすると足が竦む。
頭を振って恐る恐る、強い日差しの中へと踏み出した。
乾燥した空気の中、燦々と照りつける太陽が、肌を焼く。
咄嗟に手で庇を作って、その余りの眩しさから目を守る。
すぐ目の前に広がるのは、昔、祖父が語っていた町の者たちが集まる時に使われる広場らしい。
踏み固められたむき出しの大地には、草の1本も生えていない様に見える。
その向こうには、人が3人位なら並んで通れそうな道が幾つか、草叢を割るようにして伸びているのが見えていて、そちらの方に向かって私は足を踏み出した。

 散策の結果は散々なもので、私はその後しばらく外に出る気にはなれなかった。
道行く人すべてから、『錬金術師様』と声を掛けられるのだ。
ソレは、祖父への呼称であって、私へのものではないのだが、誰1人として私が祖父であると言う事を疑う事は無かった。
 それにもかかわらず、あちらから毎日毎日足繁く通ってくる。
『祖父』に箱庭への魔力の補充を頼む為に。
私はそれを煩わしく思いながらも、一々対応していった。
それは彼等に対する義務感からではなかったが、例え祖父を訊ねてきていたのだとしても、誰かが訊ねてきてくれて多少なりとも会話を交わすと言う事は、その頃の私の正気を保つのに丁度良かったのかもしれない。
 実は、祖父の亡くなったその夜から、眠る度に知りたくもない物を見せられる様になった。
『地球』へ旅立とうとしている私が、『キトゥンガーデン』での『輝影の支配者』としての役割など知って何になる?そんなものは知りたくもない。
眠ると見せられるソレから逃れる為もあって、私は少しずつ睡眠時間を減らしていく事にした。
流石に、すぐには無理が出るから徐々に減らしていくようになる。


丁度良い。
地球への『穴』を広げる方法を探す時間を捻出できただけだ。
それ以上でもそれ以下でもない。


 そうとでも思わないと、やってられない。
そうやって毎日をやり過ごしながら、リリンとの交流は続けていく。
顔を合わせて話す事が出来る訳ではないが、やはり彼女との会話以上に安らげる時間は無かったのだ。
 祖父が亡くなってから2カ月が経った頃になって、王都で暮らす父が帰郷した。

「まさか、アスタール……か?」

 父の動揺の中に驚きを含んだ声が、一瞬、私の心を揺らす。
祖父が亡くなったのだと言う事は、私の姿を見た瞬間に悟ったらしい。
その亡骸をどうしたのかと訊ねられて、「そのまま置いてある。」と答えると一瞬だけ肩を握って「後は私が手配する。」とだけ言って、あの日のまま放置していた部屋へと向かって行った。

「ねーねー。アスタールちゃん?」
「何か?」
「イリーナ、喉乾いたぁ。」
「……水でしたらあちらに。」
「お茶いれてくれなきゃやーだー!」

 私の傍らに残ったのは、確か『母』だったように思う。
私の肩よりも下にある小さな顔の割に大きな瞳が、上目遣いにこちらに向けられる。
『何故、私が?』と思わないでもなかったが、応えなかった場合により面倒な事になりそうな予感がして彼女の要望通りに、茶を淹れた。

「何でビーカーなのぉ?」
「お気に召さないのなら、ご自分でご用意なさればよろしいのでは?」

 そう返すと、唇を尖らせながらそのまま口にする。

「後で、フーガちゃんにも淹れて上げてね?」

 そのまま部屋に引き篭もろうとしたところで、そう告げられため息交じりに承諾した。
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