秘密の異世界交流

霧ちゃん→霧聖羅

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動き出す運命

☆頼りになる子

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 一番弟子ちゃんの、ミシンへの食いつきっぷりは見事なものだった。
最初にミシンを見た時のアルを思い出すなぁと思いながら、ニヨニヨと夢中でソレを色んな方向から為すがめつする姿を眺める。
何と言うんだろう?
アルの時より微笑ましさが凄く上に感じるのは、ちんまりした可愛い女の子だからだろうか??
まるで、ネズミかリスがチョロチョロしてるみたいでめちゃくちゃ可愛い。
 アルは、そんな彼女があれやこれやと質問するのに答えるのに忙しくしていて、こっちを見やしないんだけど……。
リアルだと、あんな風にして彼女に色々と教えてるのかぁと、ちょっと感慨深い。
最近、はっちゃけてる姿ばっかり見てるし、そうでなくても彼が仕事をしてる姿とか全然想像がつかないから余計かも。

 リエラちゃんが足踏みミシンを解体しそうな勢いで、鼻息荒く仔細に検めているのをただ見ているのももったいないなと言う事で、わたしは彼女用に何か服を作る事にした。

「んー……。」

 悩む事しばし。
彼女をぼんやり眺めている内に、ふと、やたらとスカート丈を気にしている事に気が付く。

「ねー? アル??」
「何かね?」
「リエラちゃんって、普段どんな服着てる?」
「どんなというと……。」
「スカートの丈、随分気にしてるみたいだから。」

 女の子の初期服のスカート丈は短めだ。
太股の半ば位まではあるけど、人によっては『短いなー』と思う長さではある。
どんなに動いても、中は見えないんだけどね!

「……そう言えば、私の世界キトウゥンガーデンではあまり肌を見せる服は着ないものだったな。」
「ふむ……。女の子はズボン穿いたりは?」
「基本はしない。」
「りょーかーい。」

 んじゃ、デニムのサロペット・ロング丈にロンTのセットにしとこうか。
アルが最初に欲しがったヤツに近い感じで。
靴下と靴は……手持ちのをあげてしまおう。
わたしは早速、彼女の為の服の作成に取り掛かった。



「でーきた!」
「#$&%$!」

 いつの間にやら、至近距離でわたしの作業を見守っていたリエラちゃんに、出来たての服を渡す。
キョトンとした顔をした後、それを手に取ると彼女はどうすればいいのかと言う様にアルを見上げた。
彼が装備の仕方を教えると早速ソレを身につけて、スカートの丈やら袖の長さやらを確認しながらクルリと回る。

「&%$&#@&%$!」

 小首を傾げるとお礼と思われる言葉を口にしながら、満面に笑顔を浮かべる姿に胸を打ち抜かれる。


可愛い!!!
可愛すぎる!!!!!


「アル、彼女モテるんじゃないの?」
「モテるかどうかは知らないが、兄上が四六時中、恋人繋ぎで側に居るから寄ってくる男は居なかったのではないかと。」
「お兄ちゃん、どんだけ……。」


しかし、分からんでもない。
小さい→可愛い→+素直とか、なにコレフルコンボ的な。


「で、彼女本人はお兄ちゃんの事どう思ってんの?」
「物凄く好きらしい。」
「うわ。リア充滅びろだ。」
「うむ。……もうすぐ結婚するし。」
「……。」


藪蛇でした。


 リエラちゃんの結婚の話が出た途端に、アルの目が暗く翳るのを見て失敗したなと思う。
彼の故郷では結婚式の神父様役はアルがするらしく、彼女達のものもそうなんだと前にポツリと漏らした事があって、その時もこんな顔をしていたなと思い出す。
 アルがそう言う表情を見せる度に、『やっぱり世界の壁を超えるのは無理なんだ』と突き付けられる様で胸が痛くなる。
わたしに、何かやれることがあるなら、何でもしたいとも思うんだけど……。
自転車の修理すらも自分でやれないし、超能力があるわけでもない。
頭だってさほど良くない私に、出来る事はなにも思いつかなくって。
いつも、アルをそっと抱きしめる。
アルを慰める為なのか、自分を慰める為なのか?
きっと、両方かもしれないけど、それしか出来ないのが切ない。
他に何か出来る事は無いんだろうか?

 ふと、視線を感じてそちらを見ると、リエラちゃんが心配そうな表情を浮かべてこちらを窺っていた。
わたしと視線が合うと、彼女は笑顔を浮かべて胸をドンと叩く。
『私に任せろ』的な感じ?
目をパチクリしながらアルを見ると、少しだけ明るい声で通訳してくれた。

「『私もお手伝いしますから!』と言ってくれているのだ。」
「……リエラちゃんは、アルを私のところにやっちゃっても構わないの?」
「私達は『共犯者』だから、自分だけが幸せになるのは公平じゃないそうだ。」

 『共犯者』って、何をやったんだと一瞬思ったけど、彼女が悪い事をするタイプには見えないし……。
犯罪とかではないだろうと判断する。

「頼もしいねぇ、リエラちゃん。」
「私よりずっと。」

 わたしの言葉に応えるアルの声には、ずっしりとした重みを感じた。
随分と、彼女の事を頼りにしているんだなと思いながら思わず苦笑する。


だって、一回りも年下の弟子の方が頼りになる師匠って、どうなのよ?
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