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ホラー君襲来

591日目 ソレは内緒です

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「え? ソレはヒミツです☆」

 翌日、報告の為にやってきたアッシェに何があったのか訊ねると、そんな答えが返ってきた。
その言葉に、彼女の隣に腰かけたコンカッセは不満げな様子で頬を膨らます。

「私が聞いても教えてくれない。」
「姫にしかやれない事なのです~。」
「ヒカルさんは?」
「一族の中でも、女性に稀に顕れる事がある特殊能力のようなものです。現在、使用できるのは姫の身で間違いありません。」
「信用ないですねぇ~。」

 私がヒカルさんに確認をとると、アッシェはそう言って苦笑したけど、正直、信用の問題じゃないと思います。
昨日の晩、不法侵入の名目で捕まったマロウさんは、警備隊に引き渡された時には気が触れていたらしい。
ジュリアンヌさんは、親族だと言う事で警備隊からの呼び出しを受けて出頭中だ。
ちなみに、気が触れてた云々の情報に関しては、アッシェがペロリと舌を出しながら教えてくれた。

「なにはともあれ、自業自得です。」
「そこは同感……。」
「ウサギの巣に入ったつもりが、毒蛇が居ただけの話ではありますね。」
「え? アッシェってヘビだったの?」
「実は、見えないところに鱗が……。」

 そんな馬鹿話を始めるのを見ていると、本当に、マロウさんの件が終ったように思える。
一件落着。
って言うのには、なんともスッキリしない幕引きだけど……。
どんな幕引きならいいのかって聞かれても、ソレに答える言葉がないな……。
取り敢えず、マロウさんはもう私の前には現れないだろうと言う、その一点においては確かに終った事なのかもしれない。
なにはともあれ、これで安全が確信出来たら私の外出禁止も解ける事だと思うから、これでめでたしめでたしという事にしておこう。
ソファから立ち上がると、私はみんなに向かって頭を下げた。

「今回は、私の為にみんなありがとう。」

 お礼の言葉を言い終えると、改めて、ここに居る一人一人に向かって頭を下げなおす。
実際、この件ではみんなにひどい負担を強いてしまっているから当然の行為だと思う。
悪い事をしてしまったら『ごめんなさい』。
誰かに手助けをしてもらったら『ありがとう』。
コレは人間関係の基本だもんね。
私の言葉に、それぞれの口から異なる言い回しではあったものの、『気にしないで欲しい』と言う返事が返ってきた。
いつか、今回の事の恩返しをみんなに出来たらいいな、と思う。

「リエラは、いつから工房に戻れる……?」

 コンカッセの期待のこもった眼差しが痛い。
ソレは、今の私の立場では自分で決める事が出来ない。

「お養父様とお養母さまの許可が降りてから、かな……。」
「「!」」

 私の返事に、アッシェとコンカッセが同時に息を呑む。
それから、2人は喜色を満面に浮かべて破顔すると、感極まって抱きついてきた。

「やぁ~っと! 他人行儀を止める気になったですねぇ~!」
「村長達なら、リエラを任せられると思ってた。」

 2人は、私を散々もみくちゃにした後で、不意に我に返ると互いに顔を見合わせて難しい顔になる。

「でも、そうなるともう、あのお家には帰ってこないのですねぇ……。」
「む……。ソレは寂しい。」
「……毎週、紅月の日にお泊りに来て貰うと言うのはどうでしょう?!」
「師兄とのデートも出来て一石二鳥!」
「「是非それで!」」
「お養父様達の許可が降りたらね。」
「いざとなったら、無理やりにでも……ですぅ☆」

 相変わらず、2人の息はぴったりだ。
最後のアッシェの言葉に、私は苦笑した。
どうやって無理矢理許可させるつもりなのかは聞かない方が良さそうかな。

「ところで、ルナちゃんの体調ってどう……?」
「ルナは、つわりでゲロゲロしてる。」
「スルトちゃんが付きっきりですぅ。」
「だから、僕は最近他の人と迷宮に行ってるよ。」

 実は、先月の頭になってルナちゃんの妊娠が発覚した。
妊娠促進薬の試作品の、被験者第一号に立候補してくれた彼女は「薬の効果があったよ?!」と大喜びで報告してくれたんだけど、まだまだ若いし、たまたまじゃないかなぁと思う。
そもそも、飲む必要はまだ無いんじゃないかなぁと……。
そう言ったら、スルトの子供は一人でもたくさん欲しいんだとちょっぴり寂しそうな返事が返ってきた。
スルトは、ルナちゃんよりも確実に早く年をとるからだと気が付いて、思わず黙り込んでしまったら、逆に慰められちゃったんだけどね。
スルトの魔力量の低さが恨めしい。
40ってなんだ、40って!
私の1万分の1だよ。少し分けてやりたい。
 ちなみに、ルナちゃんの妊娠は本人は勿論のこと、スルトも大喜びで毎日甲斐甲斐しく彼女の世話をしているそうだ。
今月に入って、悪阻がひどくなって寝込んでいるらしくてちょっと心配。
外出できるようになったら、真っ先に彼女のお見舞いに行こうと心に留めた。
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