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セリス
ため息一つ
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「弟子を採ろうと思う。」
不意に、アスタール様がそう言いだした。
「突然、どうなさったんですか?」
そう訊ねながらも、その理由は容易に想像がつく。
「研究に没頭したい。」
そう答えつつ、作業を続けているが私の方を避けるようにしている。
ここは、イニティと言う国の端っこにあるグラムナードと言う町にある錬金術工房です。
アスタール様はここの主になって、確か5年目になる。
大分、工房の運営も落ち着いてきているしそろそろ弟子を採り始める頃合いではあるのかも…。
ただ、その理由と言うのがイマイチいただけないのですけれど…。
「研究…ですか。」
ため息をつきつつそう返すと、あからさまに目を逸らした。
―この方は本当に幼い頃から変わらない。
そう思うと苦笑が漏れた。
アスタール様は、この工房の主であり私の雇い主でもあるけれど、
父方の従兄でもあるのでそれこそ、産まれた時から知っている間柄です。
彼の方が5歳も年上だけど、この工房に私が勤め始めてから立場が何故か逆転してしまっている。
「研究だ…。」
今も、目を逸らしつつ更に耳が力なく肩にくっつくほど垂れてしまっている。
―そんなに後ろめたい研究なら、やらなければいいのに…。
彼のそんな様子を見ながらまたため息をついてしまう。
子供の頃からの想い人を、まだまだ諦められないらしい。
私にはそんなに想う相手がまだ現れていないので、たまにそれが羨ましくも感じる。
お役目を投げ出したりする事はないだろうし、弟子を採るのは彼にかかる負担を減らす対策としては悪くないかもしれない。
「それでは…町の中で才能のありそうな子を見繕っておきますね。」
そう言うと、途端にアスタール様の耳がピンと立った。
「いや、最初は外の町から採りたいと思っているのだ。」
「外町からですか?」
グラムナードは少し特殊な町だ。
古くからこの町に住んでいる者達が暮らす『中町』
この町の名物とも言われている迷宮と、迷宮探索者目当ての商売をする者達が集まる『外町』
私達が暮らしているのは勿論『中町』です。
『外町』で弟子を探そうと思えば探せなくはないとは言え、めぼしい人材を見つけても相手がこちらの糸に沿ってくれるとはとても思えません。
私が戸惑っていると、アスタール様が言葉を続けました。
「外町ではなく、他の町・・・大きめの都市では『学校』というものがある。
そこを卒業したばかりの子供を採用するのが良い様に思うのだ。」
「ああ…。」
学校と言うシステムは確かに聞いた事がある。
イニティ国の都市の一部にあるシステムで、教師と言う職業の人が12歳位まで簡単な計算や文字と歴史を教える場所なのだとか。
グラムナードでは一族毎に教育を担う老人がいて、その人が教育全般を担っているので今一つそのシステムがピンとこない。
とは言え、他の町から弟子を採るならば年の若い内にした方が良さそうだと言うのは納得できる話です。
「卒業したての子に限定して、であるならば良さそうですね。」
「うむ。中町でも見込みのありそうな子供が居たら交渉をしておいて貰えると有難い。」
「かしこまりました。」
グラムナードにもたった一人しかいない錬金術師。
その彼が認められるだけの能力を持った子供が果たして見つかるんだろうか。
求められる能力が高すぎて、弟子を一人採るのにも何年もかかる可能性の方が高い。
そう思うと、ため息が出てしまう。
願わくば、小柄で可愛らしい着替えの作り甲斐のある子が来てくれるといいんだけれど。
不意に、アスタール様がそう言いだした。
「突然、どうなさったんですか?」
そう訊ねながらも、その理由は容易に想像がつく。
「研究に没頭したい。」
そう答えつつ、作業を続けているが私の方を避けるようにしている。
ここは、イニティと言う国の端っこにあるグラムナードと言う町にある錬金術工房です。
アスタール様はここの主になって、確か5年目になる。
大分、工房の運営も落ち着いてきているしそろそろ弟子を採り始める頃合いではあるのかも…。
ただ、その理由と言うのがイマイチいただけないのですけれど…。
「研究…ですか。」
ため息をつきつつそう返すと、あからさまに目を逸らした。
―この方は本当に幼い頃から変わらない。
そう思うと苦笑が漏れた。
アスタール様は、この工房の主であり私の雇い主でもあるけれど、
父方の従兄でもあるのでそれこそ、産まれた時から知っている間柄です。
彼の方が5歳も年上だけど、この工房に私が勤め始めてから立場が何故か逆転してしまっている。
「研究だ…。」
今も、目を逸らしつつ更に耳が力なく肩にくっつくほど垂れてしまっている。
―そんなに後ろめたい研究なら、やらなければいいのに…。
彼のそんな様子を見ながらまたため息をついてしまう。
子供の頃からの想い人を、まだまだ諦められないらしい。
私にはそんなに想う相手がまだ現れていないので、たまにそれが羨ましくも感じる。
お役目を投げ出したりする事はないだろうし、弟子を採るのは彼にかかる負担を減らす対策としては悪くないかもしれない。
「それでは…町の中で才能のありそうな子を見繕っておきますね。」
そう言うと、途端にアスタール様の耳がピンと立った。
「いや、最初は外の町から採りたいと思っているのだ。」
「外町からですか?」
グラムナードは少し特殊な町だ。
古くからこの町に住んでいる者達が暮らす『中町』
この町の名物とも言われている迷宮と、迷宮探索者目当ての商売をする者達が集まる『外町』
私達が暮らしているのは勿論『中町』です。
『外町』で弟子を探そうと思えば探せなくはないとは言え、めぼしい人材を見つけても相手がこちらの糸に沿ってくれるとはとても思えません。
私が戸惑っていると、アスタール様が言葉を続けました。
「外町ではなく、他の町・・・大きめの都市では『学校』というものがある。
そこを卒業したばかりの子供を採用するのが良い様に思うのだ。」
「ああ…。」
学校と言うシステムは確かに聞いた事がある。
イニティ国の都市の一部にあるシステムで、教師と言う職業の人が12歳位まで簡単な計算や文字と歴史を教える場所なのだとか。
グラムナードでは一族毎に教育を担う老人がいて、その人が教育全般を担っているので今一つそのシステムがピンとこない。
とは言え、他の町から弟子を採るならば年の若い内にした方が良さそうだと言うのは納得できる話です。
「卒業したての子に限定して、であるならば良さそうですね。」
「うむ。中町でも見込みのありそうな子供が居たら交渉をしておいて貰えると有難い。」
「かしこまりました。」
グラムナードにもたった一人しかいない錬金術師。
その彼が認められるだけの能力を持った子供が果たして見つかるんだろうか。
求められる能力が高すぎて、弟子を一人採るのにも何年もかかる可能性の方が高い。
そう思うと、ため息が出てしまう。
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