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プライベートフィールド
加護者のつぶやき
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――この国も、末期だな。
一月ほど前に立ち寄ったこの国で熱病が流行し始めた時、まっさきに頭をよぎったのはそんな思い。
創世四神の一柱を担う魔神様の愛し子だったというブロッキ一世。
彼が、自らの名を関するブロッキ神国を興してから今でちょうど二十代目だという。だが、その名が人の記憶から消えてしまうのもそう遠い日の話ではなさそうだ。
俺が国を離れたのは、ただの好奇心からだった。
自身の生まれ育った国では、十人に一人はなにがしかの神の加護を授かる。
そのため、末端の神の加護をうけてるだけならばこれといった義務がなかった。この国のように加護者を縛る決まりがあったなら、旅に出るなど出来なかっただろう。
俺は、本当に運がいい。
ただの旅人として訪れているから、いつだってこの国を出ることも出来る――この国で生まれ育った加護者には、そんな自由はかけらもないというのに。
「やっぱり、グラジオラスは無理にでも連れてくるべきだったんじゃないかしら」
巫女服を身にまとった女は、未練がましく自分たちが来た方向を振り返っている。
「そうは言ってもあの家には、いの一番で熱病にかかった娘がいただろう。あの小僧だって今頃は熱病にやられておっちんでるに決まっとる」
「でも、あんなきれいな子なんてそうそう生まれないわ。献上するにも最適だったのに――」
「代わりに病を持ち込むわけにはいくまい。そうでなくとも、村を捨てる羽目になったというのに……」
男が大損だと吐き捨てた瞬間、脳裏に猫耳族の子供たちの姿が浮かび、同時に『守らねば』という思いが胸をよぎる――これは、『神託』だ。
神々からの寵愛の深さによって、『神託』の情報量は大きく変わる。
ソレは案外知られていない情報だ。
なにせ、一番頭数が多い『加護者』の場合、『神託』をうけず一生を終えることも珍しくない。
俺の場合は、旅に出てから『神託』をちょくちょく授かるようになったが――
断片的な情報や突発的な衝動といった形で下される『神託』は、分かりづらい上に、行動した後で困ることも多い。
それに、内容だってまちまちだ。人助けを求めるものはとにかく、その土地の名物をお供えに求めるものだったこともある。お供えの要求をうけたときには、案外、神様というのも俗な存在だと思って乾いた笑いが出た。
これが『愛し子』ともなると、『加護者』に与えられる情報のほかに神々からのお言葉がついてくるらしい。
世界に一人ずつしかいないという『寵児』なんて、伝承によると、自由に言葉をかわしたり神々の御姿を目にすることまで出来るとか。あくまでも、伝承上の話だが。
「ハズレ村で唯一のアタリだったというのに――」
――ハズレ村、ね……
タイミング的に、この二人組の話している『グラジオラス』というのが神託で頭に浮かんだ猫耳族の子供のどちらかだろう。
通り過ぎていく二人組の、大きすぎる声に感謝しつつ心の中で村の名前を反芻する。ひどい名前だが、『ハズレ』と呼ばれるだけの理由がある土地なんだろう。
「クリナム、次はどっちに向かう?」
相棒のピエリスに問われて、さっきすれ違った二人組の捨ててきた村の名を告げる。兎耳族のこの男は、人から話を聞き出すのが上手い。こういうときには助かる特技だ。
「了解っ! 場所、調べてくるっ」
「頼む」
そうしてたどり着いたハズレ村は、周りを囲っていたはずの柵が全て朽ち果て、森神の小神殿があるだけの荒れ地になっていた。村人が住んでいたはずの家はどういうわけか一軒も残っていない。契約者の死によって枯れ落ちたフルーツトレントの姿が、唯一、人の居た名残と言えなくもない状態だ。
「うわぁ……ここ、一体いつ廃村になったんですか」
「つい、最近のはずだが……」
「知ってんよっ! 俺が調べたんだしっ」
「ああ、いや、すまん」
えらい勢いで唾を飛ばすピエリスに腰をひきつつ、カクカクうなずく。
「ってか、創世神殿からこんだけ離れれば成長は早くなるもんだけど、コレは異常っしょ!?」
そこは、同意する。
創世神殿から離れた魔素の濃い地域で、動植物の成長は早くなる。極端な話、創世神殿から10kmも離れれば、切り倒した木が翌日には元通りなんて聞いたこともあるくらいだ。(実際には、若木が生えてる程度だったらしい)
人の手によって作られた小神殿でも、加護者さえいれば周囲の魔素は加護結界によって浄化される。その浄化力は加護者のいなくなったあとでも一月程度なら持続し、実際、このハズレ村の加護結界も辛うじてではあるものの機能しているようだ。
「まるで、最初から家などなかったような――」
「いやいや、村を名乗れる程度の住民はいたはずなんだからっ。家がないのはおかしいっしょ!」
まるで、誰かが村にあった神殿以外の何もかもを根こそぎ奪っていったかのような光景だなと、頭を抱えつつ叫んでいるピエリスから視線をそらす。ソレはソレとして――
――この状況下で、どうやって保護したら良いもんなんですかね、薬神様?
せめて、猫耳族のこどもたちがどっちの方向に行ってしまったのか、再度ご神託をいただきたいと、こっそり心の中で呟いた。
一月ほど前に立ち寄ったこの国で熱病が流行し始めた時、まっさきに頭をよぎったのはそんな思い。
創世四神の一柱を担う魔神様の愛し子だったというブロッキ一世。
彼が、自らの名を関するブロッキ神国を興してから今でちょうど二十代目だという。だが、その名が人の記憶から消えてしまうのもそう遠い日の話ではなさそうだ。
俺が国を離れたのは、ただの好奇心からだった。
自身の生まれ育った国では、十人に一人はなにがしかの神の加護を授かる。
そのため、末端の神の加護をうけてるだけならばこれといった義務がなかった。この国のように加護者を縛る決まりがあったなら、旅に出るなど出来なかっただろう。
俺は、本当に運がいい。
ただの旅人として訪れているから、いつだってこの国を出ることも出来る――この国で生まれ育った加護者には、そんな自由はかけらもないというのに。
「やっぱり、グラジオラスは無理にでも連れてくるべきだったんじゃないかしら」
巫女服を身にまとった女は、未練がましく自分たちが来た方向を振り返っている。
「そうは言ってもあの家には、いの一番で熱病にかかった娘がいただろう。あの小僧だって今頃は熱病にやられておっちんでるに決まっとる」
「でも、あんなきれいな子なんてそうそう生まれないわ。献上するにも最適だったのに――」
「代わりに病を持ち込むわけにはいくまい。そうでなくとも、村を捨てる羽目になったというのに……」
男が大損だと吐き捨てた瞬間、脳裏に猫耳族の子供たちの姿が浮かび、同時に『守らねば』という思いが胸をよぎる――これは、『神託』だ。
神々からの寵愛の深さによって、『神託』の情報量は大きく変わる。
ソレは案外知られていない情報だ。
なにせ、一番頭数が多い『加護者』の場合、『神託』をうけず一生を終えることも珍しくない。
俺の場合は、旅に出てから『神託』をちょくちょく授かるようになったが――
断片的な情報や突発的な衝動といった形で下される『神託』は、分かりづらい上に、行動した後で困ることも多い。
それに、内容だってまちまちだ。人助けを求めるものはとにかく、その土地の名物をお供えに求めるものだったこともある。お供えの要求をうけたときには、案外、神様というのも俗な存在だと思って乾いた笑いが出た。
これが『愛し子』ともなると、『加護者』に与えられる情報のほかに神々からのお言葉がついてくるらしい。
世界に一人ずつしかいないという『寵児』なんて、伝承によると、自由に言葉をかわしたり神々の御姿を目にすることまで出来るとか。あくまでも、伝承上の話だが。
「ハズレ村で唯一のアタリだったというのに――」
――ハズレ村、ね……
タイミング的に、この二人組の話している『グラジオラス』というのが神託で頭に浮かんだ猫耳族の子供のどちらかだろう。
通り過ぎていく二人組の、大きすぎる声に感謝しつつ心の中で村の名前を反芻する。ひどい名前だが、『ハズレ』と呼ばれるだけの理由がある土地なんだろう。
「クリナム、次はどっちに向かう?」
相棒のピエリスに問われて、さっきすれ違った二人組の捨ててきた村の名を告げる。兎耳族のこの男は、人から話を聞き出すのが上手い。こういうときには助かる特技だ。
「了解っ! 場所、調べてくるっ」
「頼む」
そうしてたどり着いたハズレ村は、周りを囲っていたはずの柵が全て朽ち果て、森神の小神殿があるだけの荒れ地になっていた。村人が住んでいたはずの家はどういうわけか一軒も残っていない。契約者の死によって枯れ落ちたフルーツトレントの姿が、唯一、人の居た名残と言えなくもない状態だ。
「うわぁ……ここ、一体いつ廃村になったんですか」
「つい、最近のはずだが……」
「知ってんよっ! 俺が調べたんだしっ」
「ああ、いや、すまん」
えらい勢いで唾を飛ばすピエリスに腰をひきつつ、カクカクうなずく。
「ってか、創世神殿からこんだけ離れれば成長は早くなるもんだけど、コレは異常っしょ!?」
そこは、同意する。
創世神殿から離れた魔素の濃い地域で、動植物の成長は早くなる。極端な話、創世神殿から10kmも離れれば、切り倒した木が翌日には元通りなんて聞いたこともあるくらいだ。(実際には、若木が生えてる程度だったらしい)
人の手によって作られた小神殿でも、加護者さえいれば周囲の魔素は加護結界によって浄化される。その浄化力は加護者のいなくなったあとでも一月程度なら持続し、実際、このハズレ村の加護結界も辛うじてではあるものの機能しているようだ。
「まるで、最初から家などなかったような――」
「いやいや、村を名乗れる程度の住民はいたはずなんだからっ。家がないのはおかしいっしょ!」
まるで、誰かが村にあった神殿以外の何もかもを根こそぎ奪っていったかのような光景だなと、頭を抱えつつ叫んでいるピエリスから視線をそらす。ソレはソレとして――
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