隠していない隠し部屋

jun

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1度目の家出

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今日も私は庭にいる。
パールに日傘を差してもらい、ある部屋の窓の前に立っている。

例の1階の窓だ。
よく見て分かった。
カーテンが日に焼け、色が褪せている。
客室のカーテンなら考えられない事だ。
なのでここは客室ではないし、滅多にカーテンは開けないという事だ。
じっくり周辺を見て回り、分かった事がある。
この窓の前だけ草が生えていない。
庭師が丁寧に仕事をしているのは知っているが、ここはそういう問題ではない。
明らかにここを人が使っている、又は通っている形跡がある。
隣りの窓の前に行く。
ここは滅多に人が通らないのだろう。
芝生が綺麗に刈られ、雑草もない。
窓から中を覗くと、客室の掃除を使用人達がしている。
客室って普通そうだ。
使わなくても掃除はする。
急なお客様が来られる場合もあるのだから。

そして問題の窓。
試しに開けようとしてもやはり開かない。
というか、よく見るとはめ殺しだ。
何のためのはめ殺し?
少し離れて見てみたら、壁に薄く傷がある。
近くに行き傷を辿る。
縦に真っ直ぐ地面まで続く傷。
下は地面まで、なら上は、と思い目で辿る。窓より上まで。
でも今度は横に分かりづらいが横に真っ直ぐ切り込みがある。
ずっとたどる前に途中に壁と同系色の蝶番があった。
蝶番…つまりここは扉だ。
隠し部屋の出入り口。

「エルザ様…声かけても良いですか?」とパール。

忘れてた。パールがいたのに1人でブツブツ喋り、あっち行ったりこっち行ったりしていた。
「ごめんね、パールがいた事忘れてた。」

「いえ、エルザ様が謎を解いているのだと分かり、おとなしくしておりました。
エルザ様、謎は解けたのでしょうか?」
とワクワク顔のパールにはまだ言えない。

「なんとなくね。全部解けたら教えるわ。」

今日はここまでと部屋に戻り、パールにお茶を入れてもらって考えた。

隠し部屋は多分今も使われている。
ならいつ?
私の部屋からも昼間使ったなら気付く事もあるだろう。
ひょっとして非常用か?
だったら滅多に使わないか…。
夜中か⁉︎
夜中に使う…それだけでもう怪しい。
それもシルビオの私室と繋がっているであろう隠し部屋。
使う用途は一つ。
女だ。

でも結婚してからはほとんど聞かない。
だが、毎日夫婦の寝室を使っているわけではない。
シルビオが仕事で私室を使う日が結構な頻度ある。
その時か・・・。

納得出来て、一旦考える事をやめてお茶とお菓子を楽しんだ。

ある程度、隠し部屋の場所と入り口を見つけて満足した私は、追求するのも面倒なので放っておいた。

結婚して半年程経った頃から、シルビオの浮気の噂が流れ始めた。
どうでも良かったので気にしなかったが、さすがに私がいる所での噂話はイライラするので、
「私が気に入らないなら、辞めるか担当を変えてもらいなさい。
それにシルビオに愛人がいるなら喜んで妻の座を譲るから連れてきてくれると助かるわ。
それとも私からあちらの方に挨拶に行った方がいいのかしら?
それとも貴方達が私と変わってくれるの?
それも良いわね!さあ、今すぐ変わりましょう!ほら、早く、私は実家に帰るから。
侯爵夫人教育はお義母様にお願いするから!」

噂話を鼻高々と言っていたメイド達は、シクシク泣き始め、
「申し訳ございませんでした、許して下さい」
と私が虐めたように怯え始め、ジョバンニが駆けつけて、
「奥様、あまりメイドを虐めないで下さい。
貴方のようにお強くないのですから。」
と宣った。
この男、本当に小憎らしい。

「ジョバンニ、私、間違った事は言ってないのだけれど。
今すぐ愛人さんに妻なんてもの譲りたいんだけど、実家に帰っても良いかしら?
えーと、キャルティさんって言ったかしら?連絡してもらってもいい?」
と言えば、

「ハア~奥様、そんな噂話を信じておられるのですか?」
とジョバンニ。

「どっちでも良いのだけれど、そんな噂話が流れる状況を作ってるシルビオと貴方が悪いんじゃないの?
私が聞いて、気分を害するとは思わないの?」

「貴方は大丈夫でしょ?」

何だそれ⁉︎
気にはしないが、気分は悪い。
泣きはしないが、悲しくはなるのだ、人間なんだから!

「貴方は・・・私が嫌いだものね…分かるわけないわね、私の気持ちなんて…。
もう良いわ、勝手するから。」
と言ってジョバンニを無視して、部屋から出ようとした。

「奥様、申し訳ありませんでした。
言い過ぎました。私の責任です。私が出ますので、お部屋にお戻り下さい。」
と部屋に戻された。

ならばと、荷造りを始めた。
パールに手伝ってもらい、小さなトランクに大事なものだけを入れ、馬車を用意してもらった。
「パール、実家に帰ろう。でも、街に買い物って誤魔化そう。」

そして玄関を出ようとした時、走ってきたシルビオに捕まった。

「何処に行くの、エルザ!」
腕を掴んで離さないシルビオ。

「買い物しに街に行くのよ。手を離して。」

「本当に?そのトランクは何?」

「お土産。約束してたのよ、いつも行く雑貨屋さんに私が作った小物を見てもらうの。
上手く出来た物は売ってくれるそうよ。」
と言うと、
「見せて。」
「嫌よ、汚れるもの。」
「俺の手は綺麗だよ!」
「埃がつくのが嫌なの!例え埃がなくても買ってもらう商品を買い手以外には見せたくないのよ!」

なんやかんや言ってたが、シルビオが引いた。
「帰ってくるよね?」

「帰ってくるわよ」

「じゃあ、分かった…気をつけて。」

やっと馬車に乗れたのはだいぶ経ってからだ。

馬車にパールと乗り出発した所で、御者に行き先をサバーナ侯爵邸に変更してもらった。

そして、私は1回目の家出に成功した。















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