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最後通牒
しおりを挟むお父様も帰った屋敷は静かだった。
新しく雇った使用人もまだ数人で、手が足りず、私も出来ることは手伝った。
身体を動かしていないと落ち着かないから。
明後日王太子が来て、キャルティが薬を飲んだら、子供はいなくなってしまう。
その子供がシルビオの子供だったら?
良いんだろうか。
でも万が一王太子の子なら、大変な事になる。
男爵では王太子妃にはなれない。
側妃にもなれない。
薬を飲むしかなんだろうな…。
なんだろう、何か納得いかない。
何に私は引っかかるんだろう…。
キャルティさんは納得している。
王太子は産ませないと言っている。
何かが引っかかっている感じ、それが何なのか分からない・・・
窓を拭く手は止まらないが、同じ所をずっと拭いている私に、
「エルザ様、考え事はお部屋でやって下さい。手は動いてますが、ずっーと同じ所を拭いていますよ。」
「あ、ごめん。」
思考が途切れ、窓拭きに専念する。
別の部屋に移ろうとして、
「ちょっと、何してるんですか⁉︎」
とジョバンニが飛んできた。
「人手が足りてないから手伝ってただけだけど。」
「いやいや、侯爵夫人がする事じゃないでしょ⁉︎」
「はあ⁉︎だって学院では掃除してたでしょ?
やる人がいないなら、いる人がやるのが当たり前じゃない?
私にやって欲しくないなら、さっさと新しい使用人見つけなさいよ。
なんなら料理もするけど。」
「はあ⁉︎料理も出来るのかよ⁉︎」
「こっちこそハア⁉︎よ。あんた私が鹿を捌ける事、知らないの?
何なら今から捕まえてきて今夜の夕食作るけど。」
「マジかよ⁉︎鹿⁉︎」
「お母様と2人でよく狩りに行くのよ。お母様ほどではないけど、私もそこそこ弓は得意よ。短剣も。」
「そういや子供の頃も木登りもかけっこもお前に勝てなかったな。」
「今でも木登りは上手よ。剣の腕は落ちたわね。結婚してから訓練してないから。」
「今度手合わせしてくれよ。俺も最近身体を動かせてないから。」
「うそ⁉︎良いの⁉︎やろうやろう!」
ジョバンニと話して、ようやく何に引っ掛かっていたのかがなんとなく分かった。
そして、さすがに今から狩りには行けないけど、鳥肉を2、3羽買ってきてもらい、捌いて、中庭にレンガでかまどを作ってもらい、鶏肉と野菜、牛肉を焼いて塩胡椒のみの味付けにし、使用人全員とジョバンニ、キャルティさん、いつの間にか帰ってきていたシルビオも混ざり、お酒を飲みながらワイワイ食べた。
もちろんキャルティさんはジュース。
ジョバンニに焼くのを変わってもらい、
私はシルビオの近くに行き、
「シルビオ、美味しい?」と聞いてみた。
「うん、エルザが捌いたんだってね、凄いね!塩胡椒だけなのに美味しい!」
「シルビオ、私が弓矢得意って知ってた?」
「知らなかったよ~エルザはホントに凄いよ!」
「シルビオ、私、剣も使えるって知ってた?」
「え⁉︎剣も⁉︎」
「木登りも得意よ。」
「知らなかった~今度見せて。」
「遠乗りも好きなの。」
「そうなの⁉︎今度行こうよ!」
「シルビオって本当に私の事、何にも知らないんだね…」
「え…」
「学院でも、婚約中でも、結婚してからでも知る機会はいくらでもあったよね?
なのにシルビオは何も知らない。
私の好きな花、好きな色、好きな食べ物、嫌いな物、苦手な物、怖い物、知らないでしょ?」
「・・・・・・」
「シルビオ、私ね、私も言うほどシルビオの好きな物、嫌いな物、知らない。
けど、紅茶に砂糖は入れない。
クッキーは甘味が少ないものが好き。
肉より魚が本当は好き。
マッシュポテトがあまり好きじゃない。
これくらいは知ってるの。
段々知っていくのは楽しかったかな。
でも、シルビオは私の事は好きだけど、私が何が好きなのかには興味がない。
何が嫌いなのか知ろうとしない。
だから私がされたら嫌な事を平気でするんだよ。知らないから。
逆にキャルティさんが何のケーキが好きなのかは知ってるでしょ?
何処に連れて行けば喜ぶのか、何を買ってあげたら喜ぶか、知ってるでしょ?
私ね、王太子がキャルティさんの子供を薬で無かった事にするのは、どうかと思うの。
だって貴方の子供かもしれないでしょ?
貴方は自分でやった事の責任を取らなければならない。
貴方はキャルティさんに対して責任を取らなければならないの。
ここで無かった事にすることを、私は許せない。
シルビオ、私と離婚して、キャルティさんと結婚しなさい。
それが貴方のやってしまった事の責任の取り方よ。
2人きりでは話したくなかったの。
シルビオ、泣くから。
本当は離婚はしたくないのよ、だって私は貴方が好きだから。
でも、これが貴方が悪気なくやったことへの罰よ。」
シルビオは目を見開きながら、ずっと聞いていた。
初めてかもしれない、シルビオが邪魔しないで最後まで話しを聞いたのは。
私は気付いた。
シルビオは何が悪いのか分かっていないのかもと。
私が、何が気に入らないのか、シルビオは分かってない。
分かってないのは私の事を何も知らないから。
知ろうとしないから。
このままいても何も変わらない。
同じ事の繰り返し。
だから、私はシルビオとキャルティさんに自分達がした事を分からせたいと思った。
私が深く傷ついた事を分からせたいと思った。子供がいなくなってしまったら、多分2人は安心して、元に戻れると思ってしまう。
それが嫌だということ。
動かなくなったシルビオを置いて、ジョバンニのところに行った。
「後はよろしく。」と言うと、
「まだ良いだろう、もっと食えよ。」
「シルビオが固まってるから後、よろしくね。最後通牒しちゃったから。」
「え⁉︎エルザ⁉︎」
最初で最後の宴会は、まだまだ続いているが、主人夫婦がそんな事になっているとは誰も気付いていなかった。
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