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最後の夜
しおりを挟む屋敷の雰囲気が明らかに変わった。
使用人が新しくなったのもあるだろう。
宴会の影響か私への対応もかなり好意的になった。
だけど、シルビオ、ジョバンニ、キャルティさんは変わった。
無視するわけでは無いが、泣きそうな顔で笑うのだ。
多分、私に対する罪悪感と、離婚のち再婚がいつ私から通達されるのか不安なんだろう。
こうなってしまっては一刻も早く離婚しないとなぁ…。
出産までは、なんて悠長な事を言ってられない。
王太子の返事を待っていても埒が明かないので、そろそろ終わりにしようと思う。
ジョバンニを捕まえて、
「ねえ、無視するのは良くないと思うけど。
そんなに私に会うのが気まずいなら、そろそろ出て行こうと思うの。
シルビオに時間取ってもらえるか聞いてくれる?」
と言うと、目をこれでもかと見開いて、
「出て・・行く?」と言った。
「そうよ、王太子からの返事なんて待っていられないから、私は出て行くわ。
生まれる前に離婚しておかないと。
離婚した後、2人は籍入れなきゃならないでしょ?生まれた子が庶子になってしまうもの。
だからシルビオと最後にちゃんと話しておかないと。」
「本当に離婚・・するのか?」
「ええ、当然でしょ?大概、愛人に子供が出来たら正妻は追い出されるでしょ?
この国に第二夫人や愛妾なんて制度はないのだもの。
だから、離婚の手続きをしたいからシルビオに時間作ってもらって。」
「エルザ…俺がもっとちゃんとシルビオを教育してたら・・・「あ─────そういうの良いから。ジョバンニにはアレは治せないわ。
シルビオが自分で治そうと思わない限り、一生治らない、だから何も変わらない。
それに私は耐えられないし、許さないから、離婚するの。
だからそれ以上何か言ったらブッ飛ばす。」
ジョバンニの視線が私を通り過ぎて後ろにいったのが分かった。
後ろにシルビオがいるのだろう。
「エルザ・・・」
やっぱり。
振り返り、「ちょうど良かった。シルビオ、今夜少し話しをしたいの。良いかしら?」
「分かった。夕食後、俺の部屋に来てもらえる?」
「分かった。ありがとう。」
2人を置いて私は部屋に戻った。
夕食も食堂に行ったが、シルビオもキャルティさんもいなかった。
部屋でそれぞれ食べているらしい。
最後だから一緒に食べたかったのにな…。
そしてシルビオの部屋に行った。
向かっている途中で、ドーン、ガーンと大きな音が響いた。
何事⁉︎と驚いてシルビオの部屋のドアを開けると、部屋がとんでもない事になっていた。
「シルビオ⁉︎なにやってるの⁉︎」
シルビオは壁をハンマーでぶち壊していた。
あの部屋の入り口があると思われる場所を壊している。
私が入って来たのは分かったらしいが、構わず壊し続けている。
釘を打つようなハンマーではなく、解体する時に使うようなハンマーをひたすら壁に打ち付けている。
「シルビオ、やめなよ、危ないから!」
何も話さないシルビオは黙々とハンマーを振り下ろす。
元々入り口だった場所だ、隣りの隠し部屋が見える穴はすぐ開いた。
微かに不快な空気が漂い始めた。
何十年も当主、多分それ以外の男達も使ってきた部屋。
なんて汚れた部屋なんだろう…。
こちらの部屋の明かりが隣りの部屋を照らし始めると、この間部屋に入った時には気付かなかった、目には見えないけれどとても汚れている事が分かる部屋。
ただセックスをする為だけの部屋。
お風呂もない。
窓もない。
ヤるだけの部屋は、何もないのに何もないから汚い。
その部屋を私はずっと見ていた。
シルビオは完全に入り口を壊した。
そこでようやくハンマーを下ろした。
「こんな部屋はもういらない。使う事もない。」
そう言って、その部屋に入るとベッドをハンマーで壊し始めた。
響き渡る破壊音。
途中からジョバンニも私の隣りでそれを黙って見ていた。
床まで壊しそうな勢いだったので、ジョバンニが急いで止めに入った。
「シルビオ、やめろ、床が抜ける!危ねえだろうが!」
動きを止めたシルビオが、
「こんなにきったない部屋だったんだな…」
とボソっと言った。
「近くにはエルザがいるのに・・・俺は・・こんな汚い部屋で・・・好きでもない女を抱いて・・一番好きな女を失ったんだな・・・バカだな…」
静かに話すシルビオをジッと見つめた。
「ごめんね、エルザ。
許しては貰えないだろうけど、謝りたい。
ごめん…ごめんなさい…エルザ……本当にごめん…離婚届にサインはする……でもずっとエルザを愛してる…それだけは許して…。」
「分かった。」
昼間用意してもらった離婚届に自分のサインは記入した、後はシルビオだけだ。
それをシルビオに渡した。
受け取ったシルビオは、隠し部屋にある壊してなかった机に離婚届を置いて、サインしようとした。
でも手が震えてサインが書けない。
「ごめん・・少し、だけ…待って…」
泣いているシルビオは結局書けなかった。
「落ち着いてからで良いから書いといて。
シルビオ、血が出てる。破片が飛んだ時に切れたのね…消毒するからこっち来て。」
ノロノロ歩いて来たシルビオとソファに座った。
ジョバンニが薬箱を持って来てくれたので、
シルビオの顔の傷を消毒する。
涙でなかなか消毒出来ない。
私の手も震えてるから上手く出来ない。
「エル、ザ…やっぱり…ダメかな…別れ……なくちゃ…ダメ…かな…」
「ダメだよ、これは貴方の罰なんだから。」
「エルザ・・・エルザ…エルザ……」
「ちゃんとしなさい。もう私みたいに叱ってくれる人なんかいないのよ、ちゃんとシルビオが立派な大人になったら褒めてあげるから、頑張りなさい。」
「エルザ…エルザ…」
「はい、終わったわ。この部屋凄い事になってるわよ、修理大変ね。
ジョバンニ、私は明日出て行くから王太子からの返事が来たらラエル様に連絡して、また会議開いてみんなで話し合って。
キャルティさんには会わないで行くから。
荷物は適当に実家に送って。
シルビオ、身体に気をつけて。
ちゃんと仕事するのよ。キャルティさんともちゃんと話し合いなさいよ。
今までありがとう。
ジョバンニ、あんたとは喧嘩ばっかりだったけど、なんだかんだお世話になりました。
ありがとう。
2人の幸せを祈っております。」
お辞儀をし、シルビオのぐちゃぐちゃの部屋を出て自分の部屋に戻って、少し泣いた。
使用人が起き出す前に、パールと私はヒーナス家を出て行った。
窓からシルビオが見ていた事には気付かなかった。
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