21 / 56
突き刺さった言葉
しおりを挟む初めてだった。
自分が女性にしてきた行いを、面と向かって間違いだと叱られたのは。
誰に何を言われても止める気なんてなかったのに、ヒーナス侯爵夫人の言葉は堪えた。
美しい人だと思った。
存在は知っていた。遠目では見た事はあった。でも、人形みたいだなと思っただけだった。
シルビオの事は知っていた。
夫人を学生時代から追いかけ回し、卒業パーティーで公開プロポーズをして断られた男。
最後は泣き落としで、婚約してもらった男。
いわゆる美男美女、並んでもお互い遜色ないお似合いのカップルなのに、彼女は断り続けていたらしい。
嫉妬や妬みの嫌がらせや悪口も上手に対処していたらしい。
そして結局結婚した2人。
それくらいは知っていた。
だからキャルティ嬢に声をかけた。
あのシルビオの愛人だから。
あの人形のような人の旦那が愛人にしている女はどんな女なんだろうって。
珍しく俺も酔っ払って、キャルティ嬢も酔っ払ってたから勢いでヤっただけだった。
妊娠したらいつも通りに、そう思ってた。
あの夫婦もそうした方が喜ぶと思ったから。
でもそうじゃなかった。
ちゃんと俺がしている事には意味がある、この国の為にやってる事だ、だから俺は間違っていない。
そう思ってた。
ちゃんと責任も取ったつもりだった。
他の女性達も、結局は納得してくれた。
とても幸せだったと。
だから今回もさほど気にしていなかった。
俺が行ったら、驚いて、何も言えないだろうって。
なのにこの様だ。
あの人に俺は、浮気した夫と愛人の罪を無いものとしようとしたのだ。
怒る事も出来ず、泣く事も出来なくしていたのは俺だ。
あの人は、2人に責任を取らせると言っていた。
おそらく2人は子供のことが解決したら、許してもらえると思っていただろう。
あそこにいた人間みなそう思っていただろう。
もちろん俺もだ。
だけど、あの人は違った。
無いものにはしないと。
かっこいいと思った。
同時に泣きたくなった。
あんな泣き顔を見たくなかった。
させたくなかった。
好きになったとかそういうものではない。
ただ人として、自分がした事で、あんな顔で泣かせてしまう人がいるなんて考えつかなかったから。
申し訳なくて、顔を見られなかった。
「クリス様。」
俺の執務室にダニエルがいた事も忘れて、ずっとさっきの事を考えていた。
「ようやくご自分でしてきた事の惨さが分かりましたか?」
「ああ、こんなに酷いとは思わなかった・・・最低だな…」
「エルザ夫人は娘と変わらない歳ですが、尊敬致しました。
普通、ああは言えませんし、ましてや王太子に許さないなんて言えないですから。」
「王子妃になれそうだ、彼女は。」
「殿下、娘に言いつけますよ。」
「俺なんかとはとっとと別れて新しい婚約者探せよ。正妃様に嫌われるぞ。」
「娘は一途ですから。」
「ブライアンがいるだろ。」
「私も貴方と娘をさっさと別れさせたいんですよ。娘は一途ですけど、そろそろ考え始めたようです。
もう自分では貴方を止められないと。」
「その方が良い。俺にはフランシスと結婚する資格はない。」
「でももうあんな事しないでしょ?」
「しないからと言って今までの罪は消えない。」
「ま、それはそうですが。夫人に言われた事をよく考えなさい。
キャルティ嬢のお腹の子をどうするのか、私も一緒に考えますので。
あ、陛下にも報告しておきますよ。」
そう言ってダニエルは執務室を出て行った。
もう薬を飲ませる事は無理だ。
俺に強要する資格はない。
生まれてみなければ、誰の子か分からないのだから。
シルビオの子ならばヒーナス家の後継者だ。
おそらくシルビオはキャルティと結婚する事になるだろう。
そうさせるだろうな、彼女は。
浮気をする、不倫する、その事がこんなに罪深いのかと初めて実感した。
俺の子ならば・・・何処かの家に養子に出されるのだろうな…。
父と名乗る事も、抱く事も出来ない我が子。
恨むのだろうな・・・
父上もようやく俺を王太子から外すだろう。
それが目的だったのだから良かったと喜ぶべきなのだが、ちっとも喜べない。
彼女の泣き顔がチラつくから。
彼女の嗚咽する姿が焼き付き、いつまでも頭から離れなかった。
彼女はこれからどうするのだろう…。
そして俺はこれからどうしようか…。
170
あなたにおすすめの小説
短編 政略結婚して十年、夫と妹に裏切られたので離縁します
朝陽千早
恋愛
政略結婚して十年。夫との愛はなく、妹の訪問が増えるたびに胸がざわついていた。ある日、夫と妹の不倫を示す手紙を見つけたセレナは、静かに離縁を決意する。すべてを手放してでも、自分の人生を取り戻すために――これは、裏切りから始まる“再生”の物語。
理想の『女の子』を演じ尽くしましたが、不倫した子は育てられないのでさようなら
赤羽夕夜
恋愛
親友と不倫した挙句に、黙って不倫相手の子供を生ませて育てさせようとした夫、サイレーンにほとほとあきれ果てたリリエル。
問い詰めるも、開き直り復縁を迫り、同情を誘おうとした夫には千年の恋も冷めてしまった。ショックを通りこして吹っ切れたリリエルはサイレーンと親友のユエルを追い出した。
もう男には懲り懲りだと夫に黙っていたホテル事業に没頭し、好きな物を我慢しない生活を送ろうと決めた。しかし、その矢先に距離を取っていた学生時代の友人たちが急にアピールし始めて……?
愛された側妃と、愛されなかった正妃
編端みどり
恋愛
隣国から嫁いだ正妃は、夫に全く相手にされない。
夫が愛しているのは、美人で妖艶な側妃だけ。
連れて来た使用人はいつの間にか入れ替えられ、味方がいなくなり、全てを諦めていた正妃は、ある日側妃に子が産まれたと知った。自分の子として育てろと無茶振りをした国王と違い、産まれたばかりの赤ん坊は可愛らしかった。
正妃は、子育てを通じて強く逞しくなり、夫を切り捨てると決めた。
※カクヨムさんにも掲載中
※ 『※』があるところは、血の流れるシーンがあります
※センシティブな表現があります。血縁を重視している世界観のためです。このような考え方を肯定するものではありません。不快な表現があればご指摘下さい。
龍王の番〜双子の運命の分かれ道・人生が狂った者たちの結末〜
クラゲ散歩
ファンタジー
ある小さな村に、双子の女の子が生まれた。
生まれて間もない時に、いきなり家に誰かが入ってきた。高貴なオーラを身にまとった、龍国の王ザナが側近二人を連れ現れた。
母親の横で、お湯に入りスヤスヤと眠っている子に「この娘は、私の○○の番だ。名をアリサと名付けよ。
そして18歳になったら、私の妻として迎えよう。それまでは、不自由のないようにこちらで準備をする。」と言い残し去って行った。
それから〜18年後
約束通り。贈られてきた豪華な花嫁衣装に身を包み。
アリサと両親は、龍の背中に乗りこみ。
いざ〜龍国へ出発した。
あれれ?アリサと両親だけだと数が合わないよね??
確か双子だったよね?
もう一人の女の子は〜どうしたのよ〜!
物語に登場する人物達の視点です。
【完結】遅いのですなにもかも
砂礫レキ
恋愛
昔森の奥でやさしい魔女は一人の王子さまを助けました。
王子さまは魔女に恋をして自分の城につれかえりました。
数年後、王子さまは隣国のお姫さまを好きになってしまいました。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる