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正妃
しおりを挟むヒーナス邸での話し合いで、出産は王宮でしてもらう事になっていたので、出産予定日よりも1ヶ月早く王宮に深夜の移動となったキャルティは、俺と母上がいた離宮に入ってもらった。
元々ここには俺しか住んでいないし、使用人も少ない。
信頼出来る使用人しか置かないからちょうど良い隠れ場所だ。
たまにブライアンが来るが、正妃が来る事はない。
出産を担当する医者も俺を幼い時から診ている爺さん先生だ。
説明もしているが、
「クリス様がなさっている事は、命を粗末に扱っている事なのだと分かっておられるのか!この馬鹿者が!」
と怒られた。
本当にそうだ。
あれから2人は本当に離婚して、エルザ殿はすぐ出て行ったそうだ。
慰謝料も受け取らず、サバーナの領地に引っ込んで静養しているらしい。
俺が離婚の原因ではないとしても、やはり気が滅入る。
シルビオはエルザ殿が出て行ってから人が変わったように仕事ばかりしているらしい。
離宮に入ったキャルティは、最初の印象とは全く別人になっていた。
大人しく読書をしたり、子供用の縫い物をしていたりしているようだ。
一度、キャルティとゆっくり話した時、
「私はエルザ先輩に合わせる顔がありません・・・・・どんなに謝っても許されませんし、許されてもいけないと思っています・・・。
子供が産まれたら、体調が落ち着き次第すぐ修道院に入ろうと思っています。
エルザ先輩とシルビオ様が一緒になれる事はないかもしれません、ですが、それでも私がいなくなる事でお二人がまた仲良くなれるのなら、一日でも早くお二人の前から居なくなりたいのです・・・私さえいなかったら・・・私が邪魔しなければ・・・」
これ以上は興奮させてしまうからと、俺は部屋から出されてしまった。
ヒーナス邸で聞いたエルザの心からの叫びは、そこにいた全員の記憶に強く残った。
事の発端となった2人には俺以上に堪えただろう。
エルザが出て行ってから集まった話し合いで、
シルビオとキャルティは生まれてくる子供のために入籍だけはすると決まった。
その話しの時のシルビオはほんの少し身体を揺らし、キャルティは無表情、サバーナ侯爵はニヤっとした事を覚えている。
ひょっとすると何か話しがついているのかもしれない。
キャルティが修道院を出た後の事は2人で決めるのだろうが、結婚を継続はしないだろうと思っている。
夫婦の浮気話しはいくらでもある。
特にこういう話しは珍しくもない。
政略結婚が多いせいか、愛人を作り、使用人に手を出す、そんな奴らの話しを気にした事なんか今まで一度だってない。
だが、今回は違う。
自分が泣かせた人、そしてその人の敵とも言える旦那の愛人に手を出したのが俺。
エルザを苦しめた人間のど真ん中に俺はいる。
「ハァ──────」
ため息も出るわ…
「クリス、デカいため息だな。」
数ヶ月しか変わらない弟、ブライアンが声をかけてきた。
「ため息も出るぞ、今回の事で初めて後悔した…やらなきゃ良かったって…。」
「話しは聞いたけど、ま、悪いのはクリスだし、自業自得だな。
これに懲りたら二度とやるな。」
「もうやる気なんか出ない。ま、結局俺は継承権、無くなるからそれだけは良かったよ。」
「お前は俺の補佐をやらせる。それは絶対だ。俺だって王太子なんてもんになりたくなかったんだ!
でも、それでお前を守れるとも思ってる。
もう母上の好きにはさせない。」
「あの人はお前の母親だ。俺さえ引けばあの人は納得するから気にするな。」
「アレが母親とは思いたくはないがな。
仕事は出来ても、人徳がない。
誰も付いてこない者に用はない。
俺とお前、父上がいれば執務は十分こなせる。
父上と相談して、使っていない西の別荘に行かせる。あそこなら王都から一週間はかかるし、王家所有の土地に囲まれ、他の貴族の領地も遠い。街も近くにはない。森に囲まれ余生を過ごせば良い。予算も削って贅沢なんかさせない。」
「お前は俺より正妃を恨んでるよな。」
「俺はアイツよりリーシャ様の方が母親だと思ってる。いつも俺を気遣ってくれていた。
だからリーシャ様を殺したアイツを許さない。証拠は必ず見つける。」
「俺も母上を殺した奴を許す気はない。あの人以外考えられないが、毒を仕込んだ料理人も運んだメイドも死んだ。
今のところ何の証拠もない。
あの人は証拠を残すような事はないだろう。」
「もう何かでっちあげるか、適当に不貞とか。ずっと父上には相手にされていない。
誰か相手してるやついるだろう。」
「そんな奴いてもバレるような事をするわけないだろ。」
「あーあ、俺達って女運悪いよな」
「お前は腹にいる時からだけどな。」
「まあな、俺が一番悪いかな、アレから生まれたんだからな、最悪だ。」
ブライアンと俺の執務室へ行こうと歩いていると、途中で正妃に会った。
最悪だ。
「あら、兄弟で仲が宜しいこと。」
「母上、お久しぶりです。」
「レベッカ様、お久しぶりでございます。」
「クリスハートは継承権を剥奪されたらしいわね。いつまでも遊び歩いては駄目よ、ブライアンにも迷惑かける事になるのですからね、気を付けなさい。」
「はい。申し訳ございません。」
「母上、私達は急いでおりますので、これで失礼致します。」
「ブライアン、たまには私とお茶でも飲みましょう。」
「申し訳ございません、急ぎで片付けなければならない執務が残っておりますので。
クリス行こう。
失礼致します。」
ブライアンは俺の腕を掴んで、正妃から距離を取ろうとした。
「クリスハート!最近離宮にはお客様がいるみたいね。
どんなご関係なのかしら?体調が悪いみたいだけれど、気を付けてあげなさい。」
「・・・はい。ありがとうございます。」
正妃はそれだけ言うと来た道を引き返して行った。
「クソッ、あの女キャルティ嬢に目ぇ付けたぞ。クリス気を付けろよ。
と言っても、あの女に離宮に手を出せる人間も金もほとんどないけどな。」
「ああ、アイツはどんだけ俺の事嫌いなんだか…」
「アレは誰かに喧嘩売らなきゃ生きていけねぇんだよ!」
ブライアンが吐き捨てるように言った後、俺達は執務室に戻るまで一言も話さなかった。
出産まで後半月。
警備の強化をブライアンと相談した。
もうあの女に誰も殺させない。
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