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失恋
しおりを挟むあの日、ヒーナス侯爵邸にブライアンと行った時、彼女に声をかけられた。
「クリスハート様、お久しぶりでございます。エルザです。」
そう言って声をかけてきた姿は、茶髪のカツラを被りメガネをかけたエルザだった。
「「えーーーーーー!」」と大声を2人で出してしまい、あまり話せなかったが、
「私、今、ここに潜入しているんです。では。」と言って逃げようとした。
俺達の大声に気付き、シルビオが外に出てきてしまった。
もっとエルザと話したかったが、屋敷に入りキャルティが生んだ、シルビオの息子を見に行った。
エルビオと名付けられたシルビオの息子は、とてもシルビオに似ていて、将来有望だ。
だが、途中で泣き止まなくなり、乳母もシルビオも泣き止ませる事は出来なかった。
すると、さっき会った変装したエルザが入ってきた。
シルビオは全くエルザだとは気付いていない。
エルザに抱かれたエルビオは泣き止み、ニコニコ笑い、「かあ、かあ」と呼んでいる。
俺とブライアンはその姿を見て、驚いた。
血も繋がらない、不貞した証の子を我が子のようにあやす姿は、正しく母親だ。
俺達の表情にシルビオは驚いている。
なんで?と。
エルザもシルビオの視線に気付き、すぐエルビオを連れて出て行ってしまった。
いつ頃からエルザがこの屋敷に戻ったのか俺もブライアンも知りたくて聞いてみると、半年前程だと言う。
半年前ならほぼエルビオがこの屋敷に来てすぐではないか⁉︎
驚いた。
衝撃を受けた。
だって浮気相手の子供だぞ⁉︎
何故あんなに愛おしげに抱ける⁉︎
それに子供まで作った男を許したのか⁉︎
あまりの衝撃にその後何を話したのかほとんど覚えていない。
ブライアンが俺の異変に気付き、上手くフォローしてくれていたようだが、もう帰るのがいいだろうと思ったブライアンは早々に辞去の挨拶をし、俺を帰らそうとした。
そうか・・・エルザはシルビオの元に戻ったんだな…そうか…。
最後に、エルザには言えないけれど、伝えたかった。
今度は幸せになって欲しいと。
シルビオはピンと来てなかったようだが、俺はもう2度とここに来る事はないだろう。
馬車が走り出してから、
「クリス、大丈夫か?お前、途中からヤバかったぞ。」
「ああ、ほとんど何を話したか覚えていない。」
「だよな、俺も驚いた。ヒーナス侯爵夫人ってなんか思っていた感じと違ったわ。
てっきりシルビオだけが夫人を好きで、夫人はあっさりしているプライドの高い女性だと思ってた。
見た目の印象もあるんだろうが、実物は活発で聡明な方なんだろう。多分身体も鍛えてる。
いやあ、あんな人なら俺の婚約者になってもらいたかった~」
「ダメだ!」
「冗談だよ。でもクリスが惚れるのが分かった気がする。
本当は銀髪なんだろ?見た目良し、度胸良し、頭も良しなんて、よく俺らの婚約者候補にならなかったな。」
「サバーナ侯爵が上手く隠したんだろ。
騎士団で会ったことあるだろ。意外と曲者だ。団長より副団長のユージンの方が怖いって有名だ。」
「あ~シルビオは見る目あったんだなぁ~。
クソォー、勿体ないなぁ。
王太子妃になってもおかしくないのに、子持ちかぁ~」
「俺は・・・エルザが離婚したなら結婚を申し込もうと本気で思っていた…。
でも、何故かエルビオの母親の欄にエルザの名前があったが、日を見て離婚するのかと思っていた。
俺は・・本気だったんだ・・・。」
「後3年早く生まれてたら良かったな。でも、フランもお前には合ってると思うぞ。」
「・・・・・・・」
「まあ、今すぐは無理でも少しは会ってやれよ。失ってから後悔するのは今だけで十分だろ。」
「・・・・・・・・」
今のクリスには何を言っても無理なんだろう。
初恋だ。
それも相手は上級の女性だ、なかなか忘れないだろうなぁ…。
でも、俺もクリスより早く会ってたら…。
ま、今更だ。
俺はそんな愛だの、恋だのはいらない。
政略で結構。
俺の母親みたいな女はいらない。
そろそろ父上も母上の処罰を決めただろう。
あの女は王族籍の者が重大な罪を犯した者のみが入る幽閉塔に入ることになる。
あのプライドの高い女が耐えられるかは分からんが、二度と会う事がないのならそれで十分だ。もしそれでもまだ何かを仕掛けてきたら、その時は容赦なく始末する。
本当はもっと苦しめてやりたいが、クリスはそんな事を望まない。
だからそれで我慢しよう。
ハア~俺も人を好きになってみたい。
クリスのように焦がれるような気持ちを知りたいなぁ、無理だけど。
黙りこくったクリスを横目で見ながら、帰りの馬車の中はただ景色をボォーっと見ていた。
鼻をすする音がし、ギョッとしてクリスを見たら泣いていた。
マジかよ~~そんなに⁉︎
と思ったが、弟してそこは突っ込まないでずっと外を見ていた。
「お前だって本当に好きな人が出来て、告白も出来ずに終わったらこうなるんだからな!」
と負け犬の遠吠えのような台詞を吐いたクリスをハハハと笑っていたが、数年後全く同じになった俺がいる事をこの時の俺は知らない。
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