33 / 56
正体
しおりを挟む最近体調も良くなり、朝は頗る調子が良い。
夢見も良いし、エルビオは可愛い。
後はエルザがいればなぁ…
朝食を食べ終わり、執務室へ向かっている時、階段を上りきった曲がり角であの棒読みメガネとぶつかりそうになった。
「グッ⁉︎」と声を出したメガネは、
「モウシワケアリマセン…」と言って、クルッと振り返り、来たであろう方向へ戻ろうとした。
「待て!」
「ハイ⁉︎」
「なぜ戻る?」
「ア、エルビオサマガ、ナイテイル!」
とまた棒読みでダッシュで逃げてった。
「アレはホントに…」
あのメイドはホントに躾がなってない。
ジョバンニ…もう少しちゃんとした人を雇えよ。
でも、この香り…エルザと同じだ。
クンクンクンクン・・・
エルザの香り…。
そういえば棒読みメガネの香りはエルザと同じだ。
あの女…こっそり高級石鹸使ったな…。
そんなこんなでエルビオが生後6ヶ月になった頃、クリスハート様が、遅くなったが出産祝いとエルビオの顔を見に行きたいとの手紙が届き、我が家に来る事となった。
クリスハート様は、エルビオの出産届の母親の欄がエルザの名前だった事に最初驚いていたが、事情を話すと直接陛下に許可を取り、そのまま出産届を提出してくれた。
エルザはその事を知らない。
怒るだろうなぁ…。
ハァ~とため息を吐き、クリスハート様の到着を待っていた。
馬車が到着した事が分かり、しばらくするとジョバンニが呼びに来た。
階段を降りている途中で外から、
「「え─────⁉︎」」と言う叫び声が聞こえた。
何事だと急いで降り、外に飛び出るとクリスハート様とブライアン様が口を開けて、飛び出そうなほど目を見開いて棒読みメガネを見ていた。
「王太子殿下、クリスハート様、うちのメイドが何か粗相でも仕出かしましたか⁉︎」
と慌てて尋ねると、
「「いや、なんでもない!」」と同時に答えた後、笑顔で、
「済まない、ブライアンも来たいというので断りもなく連れてきてしまった。」
「ヒーナス侯爵、急に押しかけて申し訳ない。滅多に赤子など見られないのでな、私もご子息に会わせてはもらえないだろうか。」
「それは息子も喜びましょう。さあ、中へどうぞ。」
急な王太子殿下の訪問に少し慌てたが、問題はないだろう。
しかし、さっきのはなんだったのだろう。
お2人は何に驚いたのだろう…。
気にはなるが、お2人を追いかけエルビオを紹介した。
「シルビオにそっくりだな。可愛いなぁ~」
とクリスハート様。
「本当だな、将来男前になる。」
とブライアン様。
その時エルビオが、
「かあ、かあ」と泣き始めた。
俺が抱き上げても泣き止まず、
「かあ、かあ」と泣く。
ミルクの時間なのかと乳母のレーネに渡しミルクを与えるが泣き止まない。
どうしたものかと困っていると、棒読みメガネが来てエルビオを抱っこすると、ニコニコしながら「かあ、かあ」と喜んでいる。
それを2人の王子が先程と同じ顔で、そのメイドを見ていた。
俺もメイドを見た。
息子が何故か『かあ』と呼ぶ棒読みメガネを見ていた事が分かったのか、
「シツレイ、イタシマス!」と言ってエルビオを連れて出て行ってしまった。
「あーと、シルビオ、あのメイドはいつから?」
「使用人を一斉に変えましたので、半年前くらいか、その辺りかと。」
「そう・・・なのか…。」とクリスハート様。
「ヒーナス侯爵、シルビオと呼ばせてもらって良いだろうか?」
「もちろん構いません。光栄でございます。」
「あのー、ちなみにあのメイドの名前は何と言うのだろうか?」
「あー、えーと、エリーです。」
「「ふぅ~ん」」
なんだろ…なんでお2人は棒読みメガネを気にするんだろう…。
その後は、エルビオの事や、他愛のない話しをして、帰って行った。
帰りにクリスハート様が、
「今度こそ、幸せになって欲しいと祈っている。」
と言って帰って行った。
ブライアン様が、クリスハート様の肩を抱いて、何か慰めているようだった。
ん?誰と?エルビオと?
首を傾げながら、見送った。
「なあ、ジョバンニ、棒読みメガネを『かあ』とエルビオが呼ぶのはどうしてだ?」
「さあ…」
何か引っ掛かるが、それが何かが分からない。
モヤモヤしたまま夜になり、ベッドに横になるが、眠れない。
何気にバルコニーに出たら、誰かがあの部屋の入り口がある所に立ち、中に入った。
誰だ⁉︎あの入り口を知っているものは少ない。
ましてやメイドなど知り得ない。
そういえばあの部屋はジョバンニが書斎の本を置くとかなんとか言っていた。
こんな夜中に本の整理?
部屋に戻り、短剣を枕の下に隠しベッドに横になった。
ひょっとして夜這いか⁉︎
寝たふりをしばらく続けた。
すると書斎からのドアが静かに開いた。
ソォーっと歩いてくる気配がする。
ベッドの横まで来ると、
「シルビオ」と俺に声をかけた所で、目を開けた。
ガッと腕を掴み、
「エルザ⁉︎」
と声をかけると、
「あちゃー、バレちゃった」
と言ってカツラを取った。
なんか変だと思ってた。
皆んなが楽しそうで、何かワクワクしている感じに違和感があった。
ジョバンニでさえ、楽しそうだった。
エルビオだけの理由ではないとは分かっていたが、何なのかは分からなかった。
そして、棒読みメガネ。
考えてみれば、あんなメイドいるわけがない。主人を見ると走って逃げるメイドなんて聞いたことない。
普通に話せばバレるから棒読みだったのか…。
そうか・・・
エルザが帰ってきてくれてたんだな・・・
「エルザ…エルザ・・・」
掴んだ腕を離して抱きしめた。
「シルビオ、頑張ってたの、ちゃんと見てたよ。」
「うんうん・・・」
「エルビオの世話もちゃんとしてたの、見てた。」
「うん・・・」
「夜遅くまでお仕事も頑張ってた。」
「うん・・・」
「でも、最初は夜うなされてたね…」
「うん…」
「だからあの部屋でシルビオが寝るまで待ってたの。」
「うん…」
「頭撫でてたの、知ってた?」
「夢かと思ってた…」
「褒めてたの、分かった?」
「夢でも嬉しかった…」
「愛してるって言ったの、覚えてる?」
「朝、泣いた…」
「シルビオ…」
「何?」
「もう一回最初からやり直そう。」
「・・・・・良いの?」
「うん、私はシルビオが好き。」
「俺も好き、大好き。」
「愛してるわ。」
「俺も・・・愛してる・・・」
その後はもう涙が止まらなくて、エルザを抱きしめながら号泣した。
気付けば寝てしまい、ハッとして起きた。
「エルザ⁉︎」
慌てて探すと横で眠っているエルザがいた。
しっかり抱きしめて、もう一度寝ようとしたら、
「こら、もう起きる時間だよ!」と怒られた。
ああ、エルザがいる!
エルザが同じベッドにいる!
朝からまた号泣の俺に、
「シルビオ、ただいま。」
と言って抱きしめたエルザも泣いて、いつまでも出てこない俺達を心配したジョバンニが様子を見に来るまで、抱き合いながら泣いた。
それを見たジョバンニが、
「エルビオ様が泣いてるんだけど。」
の一言でピタっと泣き止んだエルザは俺を置いて走って行ってしまった…。
「シルビオ、良かったな」
と言ったジョバンニも泣いているのを見て、また泣いた。
こんなに最高な目覚めは初めてだ。
135
あなたにおすすめの小説
短編 政略結婚して十年、夫と妹に裏切られたので離縁します
朝陽千早
恋愛
政略結婚して十年。夫との愛はなく、妹の訪問が増えるたびに胸がざわついていた。ある日、夫と妹の不倫を示す手紙を見つけたセレナは、静かに離縁を決意する。すべてを手放してでも、自分の人生を取り戻すために――これは、裏切りから始まる“再生”の物語。
龍王の番〜双子の運命の分かれ道・人生が狂った者たちの結末〜
クラゲ散歩
ファンタジー
ある小さな村に、双子の女の子が生まれた。
生まれて間もない時に、いきなり家に誰かが入ってきた。高貴なオーラを身にまとった、龍国の王ザナが側近二人を連れ現れた。
母親の横で、お湯に入りスヤスヤと眠っている子に「この娘は、私の○○の番だ。名をアリサと名付けよ。
そして18歳になったら、私の妻として迎えよう。それまでは、不自由のないようにこちらで準備をする。」と言い残し去って行った。
それから〜18年後
約束通り。贈られてきた豪華な花嫁衣装に身を包み。
アリサと両親は、龍の背中に乗りこみ。
いざ〜龍国へ出発した。
あれれ?アリサと両親だけだと数が合わないよね??
確か双子だったよね?
もう一人の女の子は〜どうしたのよ〜!
物語に登場する人物達の視点です。
私も処刑されたことですし、どうか皆さま地獄へ落ちてくださいね。
火野村志紀
恋愛
あなた方が訪れるその時をお待ちしております。
王宮医官長のエステルは、流行り病の特効薬を第四王子に服用させた。すると王子は高熱で苦しみ出し、エステルを含めた王宮医官たちは罪人として投獄されてしまう。
そしてエステルの婚約者であり大臣の息子のブノワは、エステルを口汚く罵り婚約破棄をすると、王女ナデージュとの婚約を果たす。ブノワにとって、優秀すぎるエステルは以前から邪魔な存在だったのだ。
エステルは貴族や平民からも悪女、魔女と罵られながら処刑された。
それがこの国の終わりの始まりだった。
駄犬の話
毒島醜女
恋愛
駄犬がいた。
不幸な場所から拾って愛情を与えたのに裏切った畜生が。
もう思い出すことはない二匹の事を、令嬢は語る。
※かわいそうな過去を持った不幸な人間がみんな善人というわけじゃないし、何でも許されるわけじゃねえぞという話。
愛された側妃と、愛されなかった正妃
編端みどり
恋愛
隣国から嫁いだ正妃は、夫に全く相手にされない。
夫が愛しているのは、美人で妖艶な側妃だけ。
連れて来た使用人はいつの間にか入れ替えられ、味方がいなくなり、全てを諦めていた正妃は、ある日側妃に子が産まれたと知った。自分の子として育てろと無茶振りをした国王と違い、産まれたばかりの赤ん坊は可愛らしかった。
正妃は、子育てを通じて強く逞しくなり、夫を切り捨てると決めた。
※カクヨムさんにも掲載中
※ 『※』があるところは、血の流れるシーンがあります
※センシティブな表現があります。血縁を重視している世界観のためです。このような考え方を肯定するものではありません。不快な表現があればご指摘下さい。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる