隠していない隠し部屋

jun

文字の大きさ
32 / 56

棒読みメガネとシルビオの攻防

しおりを挟む


今、私は最大の危機に陥っている。

それはエルビオと思う存分遊び、さて執務でもやるかと部屋を出た瞬間、目の前にシルビオがいた。

ヒィッと息を飲み、辛うじて声を出すのを堪えた。即座に下を向き、顔を見られないようにした。

「シツレイシマシタ。」

「・・・君の名前はなんだったかな?」

「エリー、デス」

「なんでそんな変な話し方なの?」

「イナカモノ、デスカラ…」

「訛りは気にしない。普通に話して良いよ、ほら、話してごらん。」

「イエ、ハズカシイ、デスカラ!」

「いやいや、他の人とは普通に話してるんでしょ?エルビオにもその話し方では悪影響になると思うんだが?」

「それは・・・」

沈黙が続く…さあどうする、走って逃げるか!

「シルビオ、どうかしたのか!」と救世主登場!

「ジョバンニ、別にメイドと話していただけだ。」

「エリー、仕事があるだろ、必要以上にシルビオ様に近付いてはダメだと言っているだろう、さあ、行きなさい!」

助かったぁ~。

「ハイ」

走って曲がり角まで行き、こっそり覗き込むと、

「なんで俺に近付くのはダメなんだよ、俺は何もしない!」

「お前は分かっていない!必要以上に女性を近くに置かない方がいいだろ?
お前は大丈夫でも相手はそうとは限らないんだから!」

ジョバンニ、上手い!
でも、なんか腹立つ。

「それはそうだが・・・あのメイド、何か、怪しい…。」

「田舎者をいじめるな。辞められると困る。」

「そうなんだが…」

シルビオは納得いかない感じで子供部屋に入った。
角から顔を出す私を見つけたジョバンニは、
「お前はホントに隠れる気あるのか!
絶対シルビオに目ぇ付けられたぞ!」

「そんな感じがしてる…油断しました、反省しています…。」
「ほら、今のうちに行け!」と追っ払われた。

アイツは私を雑に扱い過ぎると思う。

それから、私とシルビオとの戦いが始まった。

私を見つけると、走って追いかけてくる。
だから私も逃げる。
足の長さ分、シルビオは距離を詰めるのは速いが、私には味方がたくさんいる。
途中、妨害工作を繰り出す使用人の皆様。
ワゴンで道を塞いだり、急にドアを開けたり、エルビオを使ったりと様々な妨害に合い、一度もシルビオには捕まった事はない。

なので、私は考えた。
カツラを変えよう。

今までは茶髪のカツラだったが、くすんだ金髪のカツラを被った。
見事、シルビオは私を見失った。



「ジョバンニ、あのメガネはどこ行った?」

「おりますよ、あの子が何か?」

「いや、用事はないが、俺を見ると逃げるから、つい追いかけるのが習慣になっていた。
最近見ないから辞めたのかと思っただけだ。」

「お呼びしましょうか?」

「え?呼んでくれるのか?」

「良いですよ、私もなかなかあの子を捕まえる事は出来ないのですが、見つけたらお連れします。」

「そうか、頼む。」

ジョバンニは俺にあのメイドを会わせたくないのではなかったのか?
拍子抜けしたが、ジョバンニが連れてきてくれるなら、追いかける必要はない。


とでもシルビオは思ったに違いない。
それからは追ってこなくなった。
コソコソしなくて良くなった私は堂々と廊下を歩けるようになった。

今日の執務を終わらせ、エルビオの所に向かっていると、前をシルビオが歩いているのが分かった。
ヤバいと思い、戻ろうとした所を気付かれた。

「おい、そこのメイド。」

別のメイドを呼んでると思おう、だから私は逃げる!

咄嗟に走ってしまった私を見たシルビオは、

「あ!お前棒読みメイドだな!その走り方、忘れてないぞ!髪色変えたとは小癪な!」
と追いかけてきた。

ヤバいヤバい、近くに誰もいないのか、妨害もされないからシルビオに追いつかれそうになったので、私は座り込んだ。
顔を手で覆い、
「ご主人様は~、いづも~、わだしを見づげると~なんで~おいがげるのですか~、わだしは~なんにも、しでないのに~!」
と泣き真似をした。

「いや、違うんだ、お前が逃げるからついな、怖がらせたいわけではないんだが、ついな、泣くな、済まない、もう追いかけないから、ほら、立ちなさい。」
と私をたたせようとした時に、

「シールービーオーーーーー!」
とジョバンニが走ってきた。

「いや、違うんだ、別に虐めてたとか、そういうんではないんだ!」

「メイドを追いかけ回して、挙句に泣かせるなんて、当主としてどうなんだ!
今後、エリーを追いかけ回すのは絶対ダメだからな!」

「済まない、分かった…エリー、すまなかった、あまり怖がらないでくれ、何もしないから。」

「はい…」


こうして一旦、私とシルビオの追いかけっこは休止となったが、
エルビオを抱っこしながら、
「ビオの父様はね、とぉーっても母様の事が好きなんだって。」
と普通に喋っているのをたまたま聞こえたらしいバルコニーにいたシルビオが、

「お前ーー、訛りなんかないじゃないかぁーーー、騙してたな、このクソメガネ!」
と怒鳴りながら私を捕まえようと部屋の中に入ったので、私は隠し部屋への入り口から隠し部屋に逃げ込んだ。
階段の窓のカーテンから覗くと、

「どこ行きやがった、あのメガネ!」
と息を切らしたシルビオが喚いていた。

執務室の窓から、

「シールービーオーー!何やってんだー!」
とジョバンニがシルビオを怒鳴っている。


シルビオよ、訛りに気付く前に私の声に気付け!





シルビオが気付くまで、もう少し。















しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

ねえ、テレジア。君も愛人を囲って構わない。

夏目
恋愛
愛している王子が愛人を連れてきた。私も愛人をつくっていいと言われた。私は、あなたが好きなのに。 (小説家になろう様にも投稿しています)

妻の遺品を整理していたら

家紋武範
恋愛
妻の遺品整理。 片づけていくとそこには彼女の名前が記入済みの離婚届があった。

【完結】聖女の手を取り婚約者が消えて二年。私は別の人の妻になっていた。

文月ゆうり
恋愛
レティシアナは姫だ。 父王に一番愛される姫。 ゆえに妬まれることが多く、それを憂いた父王により早くに婚約を結ぶことになった。 優しく、頼れる婚約者はレティシアナの英雄だ。 しかし、彼は居なくなった。 聖女と呼ばれる少女と一緒に、行方を眩ませたのだ。 そして、二年後。 レティシアナは、大国の王の妻となっていた。 ※主人公は、戦えるような存在ではありません。戦えて、強い主人公が好きな方には合わない可能性があります。 小説家になろうにも投稿しています。 エールありがとうございます!

愛された側妃と、愛されなかった正妃

編端みどり
恋愛
隣国から嫁いだ正妃は、夫に全く相手にされない。 夫が愛しているのは、美人で妖艶な側妃だけ。 連れて来た使用人はいつの間にか入れ替えられ、味方がいなくなり、全てを諦めていた正妃は、ある日側妃に子が産まれたと知った。自分の子として育てろと無茶振りをした国王と違い、産まれたばかりの赤ん坊は可愛らしかった。 正妃は、子育てを通じて強く逞しくなり、夫を切り捨てると決めた。 ※カクヨムさんにも掲載中 ※ 『※』があるところは、血の流れるシーンがあります ※センシティブな表現があります。血縁を重視している世界観のためです。このような考え方を肯定するものではありません。不快な表現があればご指摘下さい。

10年前に戻れたら…

かのん
恋愛
10年前にあなたから大切な人を奪った

幸せになれると思っていた

里見知美
恋愛
18歳になったら結婚しよう、と約束をしていたのに。 ある事故から目を覚ますと、誰もが私をいないものとして扱った。

完結 貴方が忘れたと言うのなら私も全て忘却しましょう

音爽(ネソウ)
恋愛
商談に出立した恋人で婚約者、だが出向いた地で事故が発生。 幸い大怪我は負わなかったが頭を強打したせいで記憶を失ったという。 事故前はあれほど愛しいと言っていた容姿までバカにしてくる恋人に深く傷つく。 しかし、それはすべて大嘘だった。商談の失敗を隠蔽し、愛人を侍らせる為に偽りを語ったのだ。 己の事も婚約者の事も忘れ去った振りをして彼は甲斐甲斐しく世話をする愛人に愛を囁く。 修復不可能と判断した恋人は別れを決断した。

短編 政略結婚して十年、夫と妹に裏切られたので離縁します

朝陽千早
恋愛
政略結婚して十年。夫との愛はなく、妹の訪問が増えるたびに胸がざわついていた。ある日、夫と妹の不倫を示す手紙を見つけたセレナは、静かに離縁を決意する。すべてを手放してでも、自分の人生を取り戻すために――これは、裏切りから始まる“再生”の物語。

処理中です...