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入学式一週間前
しおりを挟む暗闇に光が差し、僕は目を開けた。
僕が目覚めた場所は自分の部屋のベッドの上だった。
「成功した…のか?」
ベッドから出て、洗面所に行き、顔を洗って鏡を見た。
若い。
まだ十代半ば頃だろうか…。
でも過去に戻ったのは間違いないが、既にルーナに出会っていたら面倒だ。
とりあえず身支度を整え、食堂へ向かった。
この時間なら父さんも母さんも食堂だろう。
案の定、食堂に二人はいた。
二人を見るのは久しぶりだ。
僕がおかしくなって、ミーシャを蔑ろにするようになった頃から父さんも母さんも僕を避け始めた。
避けるというより、見たくなかったんだろう…息子の恥ずかしい姿を。
母さんはミーシャに何度も謝っていた。
父さんは何度も僕を叱り、時には殴ったが、全く聞く耳を持たない僕を最後は諦め領地に籠った。
領地に行くと言った両親をミーシャはどんな顔で見送ったんだろう…。
食堂の入り口で立ち尽くす僕を訝しげに見た父さんが、
「エルンスト、どうした?体調でも悪いのか?学園の入学式が近くなり緊張してるのかな。」と笑顔で言った。
こんな顔の父さんに泣きそうになった。
「ごめんなさい…父さん…僕は本当に…ミーシャを…」
急に泣き出した僕を母さんが、
「やだこの子ったら、ミーちゃんが好き過ぎて泣いちゃったの?
父様も母様も反対なんかしてないわよ。
ほら、早く食べなさい。」
母さんの笑顔なんて何年も見ていなかった。
その母さんが笑っていて、ミーシャを“ミーちゃん”と呼んでいたのを思い出し、僕はもう涙を止められなかった。
ほらほらと僕に近寄りハンカチで涙を拭いてくれる母さんにまた涙が溢れるが、なんとか堪え、食堂の席に着いた。
「ごめんなさい…ミーシャと別れる夢を見て…目覚めても悲しくて・・・でももう大丈夫だから」
父さんと母さんと他愛ない会話をしながら今日が何日なのかを確認した。
今日は学園の入学式のちょうど一週間前だ。
ならまだ時間はある。
「ねえ父さん、久しぶりにライオネルに会いたいんだけど、行っても良いかな。」
「ああ、ライオネルも一緒の入学だもんな、構わないよ。いつ行くんだい?父さんが伝えておくよ。」
「じゃあ明日でも良いかな」
「分かったよ。今日伝えておこう。」
「ありがとう、父さん」
そして翌日、父さんの出勤に合わせて僕も一緒に馬車に乗った。
王宮に着き、父さんと馬車を降りるとライオネルが迎えに来ていた。
「やあ、ライオネル、今日はなんだか雰囲気がちがうけど体調が悪かったのならすまなかったね、エルンスト、あまり遅くならないようにな。」
父さんはライオネルの肩をポンポン叩いて行ってしまった。
ライオネルは父さんが完全に見えなくなってから声をかけてきた。
「エル…覚えてるかい?」
「ああ、覚えてる。成功したんだな。」
「アルベルトも来ている、さあ行こう」
「他の二人は?」
「ダリオもエミリオも後で来る。みんな記憶はあるようだ…良かった…」
「陛下には報告したのか?」
「いや、まだだ。君達と話してからと思ってね。」
そうしてライオネルの部屋に行き、ダリオとエミリオも合流し、僕達はこれから始まる物語の強制力にどう対抗するかを話し合った。
ライオネルがルーナとの出会いを話し始めた。
「恐らく前回と同じようにルーナと出会う場面があると思う。
それを阻止する為にルーナとの最初の出会いを話してほしい。
僕は新入生代表の挨拶があったので、みんなより早く登校したんだ。
馬車を降りたら、正門の横の桜の木に寄りかかって眠っているルーナを見つけた。
桜の花が散っている中で眠る桜色の髪のルーナに驚いて声をかけた。
目覚めたルーナを見た瞬間、ルーナから目を離せなくなった。
恥ずかしそうに『早く来過ぎてしまって…桜が綺麗だったのでずっと見ていたら眠くなってしまって…」と頬をピンク色に染める姿を可愛いと思ってしまった・・・。
そこからはお前達の知っての通りだ…。
ローズを虐げ、ルーナを寵愛した…。」
唇をキツく噛み、目を閉じるライオネル。
「僕は入学して数日経ってからだった…。
僕の前を歩いていたルーナが転んだんだ。
それで声をかけた…足を痛めたと言うから医務室まで運んだ…。
その時申し訳なさそうに『ごめんなさい…ありがとう…』とお礼を言うルーナと目が合ってから、僕はルーナから目を離せなくなった…。
目の前で転んだ人間を無視すれば良かったのか?出来ないだろう?
あの時どうするのが正解だったんだ…」
アルベルトも悔しそうに口を結び、拳で太ももを叩いた。
「俺はお前達がルーナの側にいるようになってからだ。
あんなに仲良かったローゼリアやタチアナと一緒にいる事がなくなって、どうしてあんな泣き虫にくっ付いてるのか分からなかった。
お前達がルーナにくっ付いてるから、女子にルーナは総スカンをくらってた。
ルーナは休み時間に呼び出されて、生意気だとかなんとか言われて泣かされてたから、俺が止めてやった。
それまでこれっぽちも好きじゃなかったのに、俺の目を見て『助けてくれてありがとう、ダリオ君』って涙目で言われてからはお前達と同じで、ルーナに侍ってた。
何なんだよ、これ⁉︎気持ち悪い!」
ダリオは操られる気持ち悪さに眉を寄せて嫌悪感をあらわにしている。
「僕は君達を見ていて…何だか怖かったから近寄らないようにしてたんだ…。
エルも同じく君達を遠巻きにしてたから、エルとかサンドラといるようにしてた…。
でも…サンドラと廊下を歩いている時ハンカチを落としちゃったんだ…そしたら後ろからルーナが僕の腕を掴んで『ハンカチ、落としたよ』って言ってハンカチを差し出したけど、サンドラが『急に後ろから腕を掴むのは失礼よ』ってちょっとだけキツく言ったら、ルーナが泣きそうになって『ごめんなさい…咄嗟に掴んじゃって…』って僕を見て言ったんだ…。
その目を見たら、サンドラの言い方に“そんな言い方しなくてもいいのに”って思ってイラついた…。
それからだよ、僕がルーナの側にいるようになったのは…。
サンドラは僕が女の子、苦手だから僕の為に叱ってくれたのに…あの時何故かサンドラに腹が立った…サンドラはいつも僕の盾になってくれてたのに…なのに僕は…」
泣き出したエミリオの背中を僕は摩ってあげた。
「僕は…ルーナには入学式には出会ってた…。
迷ったのかウロウロしてたんだ…。
僕はミーシャと講堂に向かってて、僕らに気付いたルーナが声をかけてきた。
迷ったから講堂の場所を教えてほしいって。
ミーシャが僕らも行くから一緒に行こうって言ったら、『ありがとう』って僕の隣りに来て僕の手を握ったんだ。
驚いてルーナを見たら、ニコッと笑って『これで迷わないよね』って言ったんだ。
その時、ミーシャが僕と繋いでいた手に力が入ったのが分かったから、ハッとしてルーナの手を振り払った。
悲しそうな顔をしてたけど、ミーシャはもっと悲しそうな顔をしてたから、三人無言で講堂に行った。
それからはルーナが気になって仕方なかったけど、ミーシャがいるからと思って極力近寄らないようにしてた…。
なのに…たまたま一人で歩いていた時、曲がり角でルーナとぶつかった…。
僕はそこからだ…立ち上がるのに手を貸した…人として当たり前の事をしただけなのに、その日から僕はルーナ一色になった…。
あんなにミーシャが好きだったのに!
あんなに注意してたのに!」
僕は自分の足をガンガン叩いた。
「つまりエミ以外は一人でルーナと対峙した時から始まったわけだ。
エミにはサンドラへの悪意を植え付けたんだな…。
エルはミーシャがいたから最初は持ち堪えたが、一人の時に持ってかれたということか…。
つまり婚約者といる時にルーナに会えば婚約者への悪意や嫌悪を植え付けられ、一人で会うとルーナへの執着心を植え付けられるって事だ。
ルーナとの出会いも、小説通りだったからがっちりハマって小説から抜け出せなくなったんだろう。
だったら通常の出会いではなくせばいい。
僕達以外の誰かを常に護衛としてつけよう。
本来学園の中には護衛はつけられないが、学生ならば大丈夫だろう。
今から父上に報告しに行くから君達も一緒に来てほしい。
父上には君達も同行する事は伝えてあるから安心して。」
僕達は時を遡ってきた事を国王に報告する為、ライオネルに続いた。
今世は必ずミーシャを守ってみせる。
*今日は18時にもう1話投稿します。
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