君達を守る為、僕達は時を遡る

jun

文字の大きさ
6 / 10

入学式一週間前

しおりを挟む



暗闇に光が差し、僕は目を開けた。

僕が目覚めた場所は自分の部屋のベッドの上だった。

「成功した…のか?」

ベッドから出て、洗面所に行き、顔を洗って鏡を見た。

若い。

まだ十代半ば頃だろうか…。

でも過去に戻ったのは間違いないが、既にルーナに出会っていたら面倒だ。

とりあえず身支度を整え、食堂へ向かった。
この時間なら父さんも母さんも食堂だろう。

案の定、食堂に二人はいた。

二人を見るのは久しぶりだ。

僕がおかしくなって、ミーシャを蔑ろにするようになった頃から父さんも母さんも僕を避け始めた。
避けるというより、見たくなかったんだろう…息子の恥ずかしい姿を。
母さんはミーシャに何度も謝っていた。
父さんは何度も僕を叱り、時には殴ったが、全く聞く耳を持たない僕を最後は諦め領地に籠った。

領地に行くと言った両親をミーシャはどんな顔で見送ったんだろう…。

食堂の入り口で立ち尽くす僕を訝しげに見た父さんが、

「エルンスト、どうした?体調でも悪いのか?学園の入学式が近くなり緊張してるのかな。」と笑顔で言った。

こんな顔の父さんに泣きそうになった。

「ごめんなさい…父さん…僕は本当に…ミーシャを…」

急に泣き出した僕を母さんが、

「やだこの子ったら、ミーちゃんが好き過ぎて泣いちゃったの?
父様も母様も反対なんかしてないわよ。
ほら、早く食べなさい。」

母さんの笑顔なんて何年も見ていなかった。
その母さんが笑っていて、ミーシャを“ミーちゃん”と呼んでいたのを思い出し、僕はもう涙を止められなかった。

ほらほらと僕に近寄りハンカチで涙を拭いてくれる母さんにまた涙が溢れるが、なんとか堪え、食堂の席に着いた。

「ごめんなさい…ミーシャと別れる夢を見て…目覚めても悲しくて・・・でももう大丈夫だから」

父さんと母さんと他愛ない会話をしながら今日が何日なのかを確認した。
今日は学園の入学式のちょうど一週間前だ。

ならまだ時間はある。

「ねえ父さん、久しぶりにライオネルに会いたいんだけど、行っても良いかな。」

「ああ、ライオネルも一緒の入学だもんな、構わないよ。いつ行くんだい?父さんが伝えておくよ。」

「じゃあ明日でも良いかな」

「分かったよ。今日伝えておこう。」

「ありがとう、父さん」




そして翌日、父さんの出勤に合わせて僕も一緒に馬車に乗った。

王宮に着き、父さんと馬車を降りるとライオネルが迎えに来ていた。

「やあ、ライオネル、今日はなんだか雰囲気がちがうけど体調が悪かったのならすまなかったね、エルンスト、あまり遅くならないようにな。」

父さんはライオネルの肩をポンポン叩いて行ってしまった。

ライオネルは父さんが完全に見えなくなってから声をかけてきた。

「エル…覚えてるかい?」

「ああ、覚えてる。成功したんだな。」

「アルベルトも来ている、さあ行こう」

「他の二人は?」

「ダリオもエミリオも後で来る。みんな記憶はあるようだ…良かった…」

「陛下には報告したのか?」

「いや、まだだ。君達と話してからと思ってね。」

そうしてライオネルの部屋に行き、ダリオとエミリオも合流し、僕達はこれから始まる物語の強制力にどう対抗するかを話し合った。

ライオネルがルーナとの出会いを話し始めた。

「恐らく前回と同じようにルーナと出会う場面があると思う。
それを阻止する為にルーナとの最初の出会いを話してほしい。

僕は新入生代表の挨拶があったので、みんなより早く登校したんだ。
馬車を降りたら、正門の横の桜の木に寄りかかって眠っているルーナを見つけた。
桜の花が散っている中で眠る桜色の髪のルーナに驚いて声をかけた。
目覚めたルーナを見た瞬間、ルーナから目を離せなくなった。
恥ずかしそうに『早く来過ぎてしまって…桜が綺麗だったのでずっと見ていたら眠くなってしまって…」と頬をピンク色に染める姿を可愛いと思ってしまった・・・。
そこからはお前達の知っての通りだ…。
ローズを虐げ、ルーナを寵愛した…。」

唇をキツく噛み、目を閉じるライオネル。

「僕は入学して数日経ってからだった…。
僕の前を歩いていたルーナが転んだんだ。
それで声をかけた…足を痛めたと言うから医務室まで運んだ…。
その時申し訳なさそうに『ごめんなさい…ありがとう…』とお礼を言うルーナと目が合ってから、僕はルーナから目を離せなくなった…。
目の前で転んだ人間を無視すれば良かったのか?出来ないだろう?
あの時どうするのが正解だったんだ…」

アルベルトも悔しそうに口を結び、拳で太ももを叩いた。

「俺はお前達がルーナの側にいるようになってからだ。
あんなに仲良かったローゼリアやタチアナと一緒にいる事がなくなって、どうしてあんな泣き虫にくっ付いてるのか分からなかった。
お前達がルーナにくっ付いてるから、女子にルーナは総スカンをくらってた。
ルーナは休み時間に呼び出されて、生意気だとかなんとか言われて泣かされてたから、俺が止めてやった。
それまでこれっぽちも好きじゃなかったのに、俺の目を見て『助けてくれてありがとう、ダリオ君』って涙目で言われてからはお前達と同じで、ルーナに侍ってた。
何なんだよ、これ⁉︎気持ち悪い!」

ダリオは操られる気持ち悪さに眉を寄せて嫌悪感をあらわにしている。

「僕は君達を見ていて…何だか怖かったから近寄らないようにしてたんだ…。
エルも同じく君達を遠巻きにしてたから、エルとかサンドラといるようにしてた…。
でも…サンドラと廊下を歩いている時ハンカチを落としちゃったんだ…そしたら後ろからルーナが僕の腕を掴んで『ハンカチ、落としたよ』って言ってハンカチを差し出したけど、サンドラが『急に後ろから腕を掴むのは失礼よ』ってちょっとだけキツく言ったら、ルーナが泣きそうになって『ごめんなさい…咄嗟に掴んじゃって…』って僕を見て言ったんだ…。
その目を見たら、サンドラの言い方に“そんな言い方しなくてもいいのに”って思ってイラついた…。
それからだよ、僕がルーナの側にいるようになったのは…。
サンドラは僕が女の子、苦手だから僕の為に叱ってくれたのに…あの時何故かサンドラに腹が立った…サンドラはいつも僕の盾になってくれてたのに…なのに僕は…」

泣き出したエミリオの背中を僕は摩ってあげた。

「僕は…ルーナには入学式には出会ってた…。
迷ったのかウロウロしてたんだ…。
僕はミーシャと講堂に向かってて、僕らに気付いたルーナが声をかけてきた。
迷ったから講堂の場所を教えてほしいって。
ミーシャが僕らも行くから一緒に行こうって言ったら、『ありがとう』って僕の隣りに来て僕の手を握ったんだ。
驚いてルーナを見たら、ニコッと笑って『これで迷わないよね』って言ったんだ。
その時、ミーシャが僕と繋いでいた手に力が入ったのが分かったから、ハッとしてルーナの手を振り払った。
悲しそうな顔をしてたけど、ミーシャはもっと悲しそうな顔をしてたから、三人無言で講堂に行った。
それからはルーナが気になって仕方なかったけど、ミーシャがいるからと思って極力近寄らないようにしてた…。
なのに…たまたま一人で歩いていた時、曲がり角でルーナとぶつかった…。
僕はそこからだ…立ち上がるのに手を貸した…人として当たり前の事をしただけなのに、その日から僕はルーナ一色になった…。
あんなにミーシャが好きだったのに!
あんなに注意してたのに!」

僕は自分の足をガンガン叩いた。

「つまりエミ以外は一人でルーナと対峙した時から始まったわけだ。
エミにはサンドラへの悪意を植え付けたんだな…。
エルはミーシャがいたから最初は持ち堪えたが、一人の時に持ってかれたということか…。

つまり婚約者といる時にルーナに会えば婚約者への悪意や嫌悪を植え付けられ、一人で会うとルーナへの執着心を植え付けられるって事だ。
ルーナとの出会いも、小説通りだったからがっちりハマって小説から抜け出せなくなったんだろう。

だったら通常の出会いではなくせばいい。
僕達以外の誰かを常に護衛としてつけよう。
本来学園の中には護衛はつけられないが、学生ならば大丈夫だろう。

今から父上に報告しに行くから君達も一緒に来てほしい。
父上には君達も同行する事は伝えてあるから安心して。」


僕達は時を遡ってきた事を国王に報告する為、ライオネルに続いた。

今世は必ずミーシャを守ってみせる。


















*今日は18時にもう1話投稿します。



しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

あなたの妻にはなりません

風見ゆうみ
恋愛
幼い頃から大好きだった婚約者のレイズ。 彼が伯爵位を継いだと同時に、わたしと彼は結婚した。 幸せな日々が始まるのだと思っていたのに、夫は仕事で戦場近くの街に行くことになった。 彼が旅立った数日後、わたしの元に届いたのは夫の訃報だった。 悲しみに暮れているわたしに近づいてきたのは、夫の親友のディール様。 彼は夫から自分の身に何かあった時にはわたしのことを頼むと言われていたのだと言う。 あっという間に日にちが過ぎ、ディール様から求婚される。 悩みに悩んだ末に、ディール様と婚約したわたしに、友人と街に出た時にすれ違った男が言った。 「あの男と結婚するのはやめなさい。彼は君の夫の殺害を依頼した男だ」

愛を騙るな

篠月珪霞
恋愛
「王妃よ、そなた一体何が不満だというのだ」 「………」 「贅を尽くした食事、ドレス、宝石、アクセサリー、部屋の調度も最高品質のもの。王妃という地位も用意した。およそ世の女性が望むものすべてを手に入れているというのに、何が不満だというのだ!」 王妃は表情を変えない。何を言っても宥めてもすかしても脅しても変わらない王妃に、苛立った王は声を荒げる。 「何とか言わぬか! 不敬だぞ!」 「……でしたら、牢に入れるなり、処罰するなりお好きに」 「い、いや、それはできぬ」 「何故? 陛下の望むままなさればよろしい」 「余は、そなたを愛しているのだ。愛するものにそのような仕打ち、到底考えられぬ」 途端、王妃の嘲る笑い声が響く。 「畜生にも劣る陛下が、愛を騙るなどおこがましいですわね」

私が愛する王子様は、幼馴染を側妃に迎えるそうです

こことっと
恋愛
それは奇跡のような告白でした。 まさか王子様が、社交会から逃げ出した私を探しだし妃に選んでくれたのです。 幸せな結婚生活を迎え3年、私は幸せなのに不安から逃れられずにいました。 「子供が欲しいの」 「ごめんね。 もう少しだけ待って。 今は仕事が凄く楽しいんだ」 それから間もなく……彼は、彼の幼馴染を側妃に迎えると告げたのです。

【1月18日完結予定】捨てたものに用なんかないでしょう?

風見ゆうみ
恋愛
血の繋がらない姉の代わりに嫁がされたリミアリアは、伯爵の爵位を持つ夫とは一度しか顔を合わせたことがない。 戦地に赴いている彼に代わって仕事をし、使用人や領民から信頼を得た頃、夫のエマオが愛人を連れて帰ってきた。 愛人はリミアリアの姉のフラワ。 フラワは昔から妹のリミアリアに嫌がらせをして楽しんでいた。 「俺にはフラワがいる。お前などいらん」 フラワに騙されたエマオは、リミアリアの話など一切聞かず、彼女を捨てフラワとの生活を始める。 捨てられる形となったリミアリアだが、こうなることは予想しており――。

記憶を失くした彼女の手紙 消えてしまった完璧な令嬢と、王子の遅すぎた後悔の話

甘糖むい
恋愛
婚約者であるシェルニア公爵令嬢が記憶喪失となった。 王子はひっそりと喜んだ。これで愛するクロエ男爵令嬢と堂々と結婚できると。 その時、王子の元に一通の手紙が届いた。 そこに書かれていたのは3つの願いと1つの真実。 王子は絶望感に苛まれ後悔をする。

記憶喪失の婚約者は私を侍女だと思ってる

きまま
恋愛
王家に仕える名門ラングフォード家の令嬢セレナは王太子サフィルと婚約を結んだばかりだった。 穏やかで優しい彼との未来を疑いもしなかった。 ——あの日までは。 突如として王都を揺るがした 「王太子サフィル、重傷」の報せ。 駆けつけた医務室でセレナを待っていたのは、彼女を“知らない”婚約者の姿だった。

もう二度と、あなたの妻にはなりたくありません~死に戻った嫌われ令嬢は幸せになりたい~

桜百合
恋愛
旧題:もう二度と、あなたの妻にはなりたくありません〜死に戻りの人生は別の誰かと〜 ★第18回恋愛小説大賞で大賞を受賞しました。応援・投票してくださり、本当にありがとうございました! 10/24にレジーナブックス様より書籍が発売されました。 現在コミカライズも進行中です。 「もしも人生をやり直せるのなら……もう二度と、あなたの妻にはなりたくありません」 コルドー公爵夫妻であるフローラとエドガーは、大恋愛の末に結ばれた相思相愛の二人であった。 しかしナターシャという子爵令嬢が現れた途端にエドガーは彼女を愛人として迎え、フローラの方には見向きもしなくなってしまう。 愛を失った人生を悲観したフローラは、ナターシャに毒を飲ませようとするが、逆に自分が毒を盛られて命を落とすことに。 だが死んだはずのフローラが目を覚ますとそこは実家の侯爵家。 どうやらエドガーと知り合う前に死に戻ったらしい。 もう二度とあのような辛い思いはしたくないフローラは、一度目の人生の失敗を生かしてエドガーとの結婚を避けようとする。 ※完結したので感想欄を開けてます(お返事はゆっくりになるかもです…!) 独自の世界観ですので、設定など大目に見ていただけると助かります。 ※誤字脱字報告もありがとうございます! こちらでまとめてのお礼とさせていただきます。

【書籍化】番の身代わり婚約者を辞めることにしたら、冷酷な龍神王太子の様子がおかしくなりました

降魔 鬼灯
恋愛
 コミカライズ化決定しました。 ユリアンナは王太子ルードヴィッヒの婚約者。  幼い頃は仲良しの2人だったのに、最近では全く会話がない。  月一度の砂時計で時間を計られた義務の様なお茶会もルードヴィッヒはこちらを睨みつけるだけで、なんの会話もない。    お茶会が終わったあとに義務的に届く手紙や花束。義務的に届くドレスやアクセサリー。    しまいには「ずっと番と一緒にいたい」なんて言葉も聞いてしまって。 よし分かった、もう無理、婚約破棄しよう! 誤解から婚約破棄を申し出て自制していた番を怒らせ、執着溺愛のブーメランを食らうユリアンナの運命は? 全十話。一日2回更新 完結済  コミカライズ化に伴いタイトルを『憂鬱なお茶会〜殿下、お茶会を止めて番探しをされては?え?義務?彼女は自分が殿下の番であることを知らない。溺愛まであと半年〜』から『番の身代わり婚約者を辞めることにしたら、冷酷な龍神王太子の様子がおかしくなりました』に変更しています。

処理中です...