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僕達の覚悟
しおりを挟む僕達はあの時の部屋に案内された。
あの時と同じで長テーブルの左側に座り、陛下を待った。
左程待つ事なく陛下、宰相、そして父さんが入ってきた。
父さんは王弟だが、側室の子供だから少しだけ立場的には弱い。
けど、急遽宝剣の件で話しがあると僕らが謁見を申請したと聞き、王族の一人として呼ばれたのだろう。
「さて、宝剣の件で話しがあるとライオネルから聞いていたが、どうしてエルンスト達もいるのかな。
宝剣の存在は機密情報なのだが、何故君達は知っている?」
陛下の威圧に言葉を発する事が出来ない。
ライオネルはさすがに堂々としていた。
「私達は宝剣を使い、“時戻り”を致しました。
前世で何があったのか、説明致します。」
ライオネルがそう言うと、大人達が息を飲んだのが分かった。
「お前達はこの探検で自らの胸を刺してこの場にいる、という事か⁉︎
それほどのことが起きたということか⁉︎」
「私達にとっては、ですが。今から報告させて頂きます。」
そしてライオネルは学園の入学式から僕達が宝剣を使うまでの長い話を陛下に報告した。
それぞれの事は自分で話し、涙が出そうになるのを必死に堪えなんとか全てを報告し終えた。
「誠にそんな事があったのか?信じられないが、これまでのライオネルと違う事は分かる・・・この宝剣が最後に使われたのは200年以上も前だ。
その時も一人の女に国が荒らされたと記録に残っている…だが、その女は捕えたのだろう?お前達はそれだけの事をしたのだ、処罰されるのは仕方なかろう。
なのに宝剣を使ったと?」
「私が自らの意思でその女を選んだのなら処罰される事に否やはありません。
ですが、操られるが如く愛してもいない女を寵愛し、心から愛していたローゼリアを捨て、マナーも教養もない女を王太子妃に据え、その女をここにいる全員が下にも置かぬ扱いを何年もした後に、ある日突然正気に戻った私達の絶望は筆舌しがたいものでした…。
私達だけがそのような状態だった訳ではなく父上や宰相、この王宮、学園の生徒や教師、その女と関わった人間全てが洗脳状態だったのです。
そして突然正気に戻った、エルンストの妻と息子の死をきっかけに・・・。
先程も言いましたが、ヘンリー・ウールの話しは真実と確信しています。
私達は今度こそ愛する者を守る為、この国を守る為に宝剣を使いました。」
ライオネルは真っ直ぐ陛下を見つめ、長い話しを終えた。
「エルンスト・・・私はお前を止められなかったのか?私は一体何をしていたんだ⁉︎
ミーシャと孫が殺された?
護衛は何をしていた⁉︎お前は何をしていた⁉︎」
父さんは冷静を保とうとしていたが耐えられず声を荒げた。
「僕はミーシャとダニエルが死んだ時・・・ミーシャを殺せと命じたその女といました・・・。
執務中に…王太子妃教育が辛いと泣いて飛び込んできたその女を慰めていました・・・
そして・・・その瞬間に正気に戻りました・・・。
父さんと母さんは僕をすでに見放していたので領地に篭っていました…。
ミーシャは…僕と離婚する事を報告する為に領地に向かい、その途中…襲撃されました…。
ミーシャは・・・ダニエルを守る為・・・抵抗も出来ませんでした…。
ダニエルは・・・ミーシャの背中を刺し貫かれた剣で・・・死にました・・・。
僕は・・・僕は・・ミーシャを助けたい、ミーシャとダニエルを今度こそ助けたい・・・」
泣くまいと爪を足に食い込ませ、父さんを見つめて言った。
「どれだけ恐ろしかっただろう・・・どれだけ悲しかっただろう・・・私が領地になど行かず・・ミーシャと孫の側にいればそんな恐ろしい目に遭わずに済んだだろうに・・・」
父さんは手で顔を覆い、肩を震わせた…。
「父さん…例えあの時ミーシャが死ななかったとしてもいずれ殺されていたと思う・・・そうならなければ物語は終わらないから・・・。
だから僕達は戻ってきたんだ、ミーシャとダニエルを守る為に。
ライオネルもアルベルトもダリオもエミリオも、二度と愛する人を傷付けないために、あんな女に良いようにされない為に、僕達は一度死んで戻ってきたんだ。
この話しを聞いてミーシャとの婚約をなかった事になんかしないでほしい。
僕は今度こそダニエルをこの手で抱いてあげたい・・・僕が“ダニエル”と名付けてあげたいんだ。
お願いします、ミーシャとの婚約を継続させて下さい、お願いします。」
頭を下げる僕にならい、ライオネル達も頭を下げた。
「ここにいる皆んなが死んでしまいたいほど絶望しました。
実際僕達は死にました。
短剣を心臓に突き刺す時に恐怖はありませんでした。
ローズに、ローゼリアにもう一度会えるなら怖くはなかった。
父上、どうか僕達の婚約者を変えるような事はしないで下さい、お願いします…」
「待て待て、誰も婚約を解消させるなど言ってはいないぞ。
それにその件は後だ。
先ずはお前達の話しを記録させる。
ライオネルは報告書を提出しなさい。
お前達が宝剣を使った理由もお前達の覚悟も分かった。
確かに国王の私やファビオ、エドですら抗えない事象にお前達が抗えぬのも仕方なかったのだろう、反吐が出るような所業に怒鳴りつけたいところだが、今後の対策を練らねばならん。
入学式は後数日だ。
それまでに出来うる限りの対策を立てる。
先ずはエドとネビオロ伯爵にもこの事を共有しようと思う。
エドはドアの前にいるから中に入れよう。
ネビオロ伯爵には至急ここに来てもらう。
エドにはファビオ、お前が説明しろ。
私とリーヌスと子供達は先に学園での対策を考えたいが、小腹が空いたな、一旦休憩するからその間にファビオに説明したら良いだろう。
リーヌスは俺がしばらく戻らないと伝えてきてくれ、後お茶と摘めるものも頼んでこい。
リーヌス、凹んでる暇なんかないからね、はい、立って立って。
後は私と休憩だ。
ほらほら、動け動け、時間ねぇぞ。」
陛下はパンパンと手を叩いて、暗かった空気を変えた。
陛下に指示された人達はそれぞれ動き出し、僕達は陛下と残された。
「さてお茶が来るまで、私の質問に答えてくれるかな。
この事はそれぞれの婚約者達の家にも話す事になる。
隠してはおれんからな。
その時君達は間違いなく婚約を解消すると言われるだろう。
事情があったとはいえ、大事な娘が蔑ろにされ、深く傷付けられたんだ、親ならばそうなると分かったなら、娘をそんな目に二度と合わせたくはないだろう。
本人も逃げるかもしれない、そんな男嫌だとな。
それもあり得ると思ったから私にもリーヌスにもお願いしたのだろう?
私も君達の覚悟を尊重したいが、話しが話しだ、各家に無理強いは出来ない。
お前達の婚約者の父親達にこの話しをし、お前達が望む婚約継続が不可能となった時、お前達はそれでも逃げずに彼女達を守れるのか?
他の男と婚約する姿を見ていられるのか?
お前達はそれが嫌で戻ってきたのだろう?
謝罪するのは許そう、だがさっきのように婚約者達に縋るのなら私が婚約を解消させる。
覚悟をしなさい。
君達は操られていたのかもしれないが、だとしても酷すぎる。
罪も償わずここに戻ってきた君達に縋る権利はない。
拒絶される覚悟が出来ていないなら言いなさい、私が婚約をなかった事にしよう。」
声を荒げてもいないし、怒鳴ってもいないのに、陛下の声音に僕達は身体が震えた。
そう、僕達は戻りさえすれば元に戻れると思っていた。
陛下に言われて初めて気付いた、僕達は何も償っていないと。
謝れば済む話ではない。
聞いたら僕達を誰もが嫌悪するだろう。
いくら謝ったとしても拒絶される可能性は高いのだ。
そんな覚悟を僕達は全くしていなかった・・・。
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