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夜会 ミゲル視点
しおりを挟む卒業試験の資料を見ながら、考えるのは彼女の事。
あの子はどうしただろうか…。
卒業試験は受けないだろうが、飛び級試験を受けて合格しても学園には通わなくてはならない。
それなら留学か…。
卒業試験を受けるなら俺が教えられる事もある、一度・・・いやいや、一度目が合っただけの男に突然そんな事を言われたら、気味が悪いだろう。
だけど、もう一度会って話しをしてみたい…。
そんな事を自室で考えているところに父がやってきた。
両親はあれから仲直りする事もなく、母は領地へ帰って行った。
生誕祭があるにも関わらず。
「ミゲル、生誕祭のパートナーはどうする?
私は一人で構わないが、お前はどうする?」
父はいつも一人で参加している。
母は病気療養の為という理由で。
あんなに元気だったのに、どこが病気だと言うのだ。
私は殆ど母と交流を持った事はない。
ただアナと婚約する時だけ、一人はしゃいでいたのを見ただけだ。
アナでさえはしゃぐ母にキョトンとしていたくらいだ。
あの人は何がしたいのだろう?
父はどうして離婚しないのだろう?
「私も一人で参加します。挨拶を済ませたらすぐに帰りますので。
ところで父上は何故離婚しないのですか?
あの人がいる意味があるのですか?
私はあの人と殆ど話した事もありません。
母という実感もありません。
理由があるなら教えて頂きたいです。」
今まで存在を忘れていたので聞けないでいたが、思い出してしまったので、その理由を知りたい。
「・・・突然だな…、まあ意地みたいなもんが大きいが、そろそろ何もしないあれはもう切った方が良いのかもしれんな…。
息子のお前にいる意味が分からん、なんて言われてるような母親は必要ないな…。」
と寂しそうに話す父。
「意地…とは何に対してですか?アナの父親のルビオナ侯爵に対してですか?それとも母にですか?」
不躾な質問だとは思ったが、この際全部知っておきたい。
「ティナに対してだな。アイツの好きにはさせないってだけで離婚しなかったってだけだ。
この際、お前には話しておくか。」
そして父が話した別居の理由は、母は、俺を産んだのだから、もう閨は共にしない。
自分は父と結婚したくなんかなかったと吐き捨て領地に行ったんだとか。
俺が生まれて1か月経った頃。
さすがにそんな事を言われた父も愛情なんて無くなったらしい。
だが、生まれたばかりの息子すら置いて行く女が次にする事は、好いた男の所に行くしかない。
勝手行けば良いが、問題を起こされるのも面倒なので、領地に篭っているなら良いかと放っていたが、たまに母の顔を見ると怒りが込み上がるんだそうだ。
だからそろそろ離婚しても良いかとは思っていたそうだ。
父と母の婚約も家の事情というやつで決まっただけで、父が無理矢理、母を奪い取ったとかではないのに、母は幼馴染みと別れさせられたと思い込んでいて、
一方のルビオナ侯爵は、純粋に幼馴染みとしてしか思っていないんだそうだ。
不毛としか言いようがない。
「ハア~父上、さっさと離婚した方が絶対良いですよ。
あの人と関わっていたら今後良いことなんて一つもないですから。
後、卒業試験を今度受けますから自宅学習になりますから。」
「お前の結婚式もなくなったし離婚の話しは丁度良かったのかもな。
生誕祭は二人だけで行ってさっさと帰ってこよう。
卒業試験は分かった。
お前にも苦労かけて済まない。」
そう言って父が部屋を出ようとした時、振り返り、
「ミゲル、結婚はお前がゆっくり相手を探してからで構わない。
俺は親の言われるままに結婚して失敗したからな。頑張れ。」
その後ドアを閉めた。
そして生誕祭。
俺はアナに絡まれている。アナの横にはコルト。
陛下方に挨拶を済ませ、父と共に挨拶すべき人達への義理も果たし、さあ帰ろうと思った時、腕を掴まれた。
見ればアナ。
こんな会場のど真ん中で修羅場を繰り広げようとは思ってもいなかった俺は、固まってしまった。
そこで冷静だったのがコルト。
「アナ、ここでは目立つから中庭へ行こう。
皆が見てる。」
そう、皆んな釘付けだ。
アナのドレスは胸下から広がる、いかにも妊娠してますってドレスを着て、元婚約者の腕を掴み、今彼を連れてきた不貞した女が何かしようとしている。
こんな楽しげな余興はないだろう。
アナが掴んだ手を振り払い、
「お前と話すことなど一つもない。だが、行かなければ大騒ぎするのは目に見えている。
なので、コルト、この人をしっかり見張っていて欲しい。俺はとりあえずついて行く。」
「済まん。こんな事するとは思わなかった。」
とアナを連れて、中庭へ行く。
ハア~と溜息を吐き、彼らについて行った。
中庭の奥の方まで行くと、
「アナ、彼にもう迷惑はかけないと約束しただろう。どうしてあんな所でミゲルに近づいたんだ、俺達の処遇も次なにかあれば廃嫡と言われているだろう!」
ヘェ~廃嫡されてなかったんだ…。
「だって、ミゲルに謝りたかったから…」
とアナ。
「じゃあどうぞ、さっさと謝って何処かにいってくれ。」と俺が言うと、
「ミゲル、お願い、話しを聞いて!」
謝るのでは?
「何も話す事はない。君にはその隣りにいる相手がいるんだから、その人に話しを聞いて貰えばいい。
こっちからは何も話す事はないし、聞く事も何もない。
君が別の男と子供を作った、それだけだ。」
「だってミゲルは全然会いにきてくれなかったんだもの!」
「ハア…君が断っていたんだろ。同じ事しか言わないのなら、もう俺の前から消えてくれ!」
「アナ、行こう。僕達は彼に顔を見せられる立場ではないんだ。」
クソッ・・・・最悪だ…。
悔しい…あんな女に惚れてたなんて…なのに涙が出る自分が情けない…
「ハア…これで終わったんだな…」
俺は、俺なりにアナを大事にしたし、好きだった。
結婚だってもう直ぐだったんだ…
たった一年クラスが変わったからって、他の男を好きになるかよ…
要はそういう女だった事に気付かなかったって事だ…
クソッ…
泣くのを止められず声が漏れてしまう。
その時、誰かが泣いてるのがわかった。
ヒック、ヒックと泣くのは女性のようだ。
こんな夜の中庭で何かあったのかと、自分が泣いていたのも忘れ声をかけると、後ろで泣いていたのは職員室で会った彼女だった。
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