私は貴方から逃げたかっただけ

jun

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知らない番号

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大阪に帰ってから、母子手帳を貰いに役所へ行った。

「おめでとうございます」と言われ、戸惑った。

めでたい事なんだろうな…ちょっと前なら泣いて喜んだ。

今は、生んで良いのか、育てられるのか分からない。

そんな私のお腹の中にいる赤ちゃん。

喜んであげられなくてごめんね…
もう少し待ってね、もう少ししたらちゃんとあなたのママになれるように頑張るから。

バスに乗り、実家に帰ると、玄関に母が立っていた。

「どしたん?なんかあったの?」

「いや、心配やったから待ってた。ちゃんと母子手帳貰えた?」

「うん。」


どこか変な母が気になったが、家に入った。

「今日は疲れたでしょ、少し休み。夕飯になったら起こすから。」

「じゃあ部屋にいるね。」


部屋に入り、招待状を出した方々にお詫び状をパソコンで書いていた時、スマホのバイブが鳴った。

表示された電話番号は知らない番号だった。

どうしようか迷っているうちに留守電になったようだ。

後で確認しようと放っておいたら、

また同じ番号から電話がきた。

間違っている事に気付いていないのかもと思い、電話に出た。

「麻美ちゃん、私、菜緒。」

「ヒッ…」

思わずスマホを離してしまった。

どうして⁉︎陸が着拒してくれたのに!

「麻美ちゃん、麻美ちゃん、少し話し聞いてもらいたいの。雅彦くんがね、麻美ちゃんを心配してるのよ。電話も通じないし、麻美ちゃん、逃げちゃったでしょ?
だから、雅彦くん、困ってるわよ。
店に来て泣いてたもの。
私ね、今、大阪なの。今から会えないかな。」

電源を切った。


身体が震えた。
吐き気が込み上げ、トイレに駆け込んだ。

ようやく少しだけ食べられるようになったのに、全て吐き出した。

雅彦はこんな事になっているのに、あの人の店に行ったんだ。
そして、あの人に泣きついたんだ。
あの人は私が逃げたと言った。
悔しかった。
確かに逃げた…でも逃げなければおかしくなりそうだった。
車の前に飛び出しそうだった。

大阪…大阪にいる?あの人が?

嫌だ、嫌だ、もう二度とあの二人には会いたくない。

中身を出したばかりのトランクにまた服や生活用品を投げ入れる。


ダメだ・・・お母さんとお父さんはここから出してはくれないだろう…。
でもここも安心出来ない。

もう誰も知らない所に逃げよう。

落ち着こう。
今出ても途方にくれるだけだ。


深呼吸をして、考える。


あの人は今大阪にいる。でもずっとではないだろう。
二、三日はいるかもしれないが、ずっとではない。
店があるから必ず帰る。
でもまた来るかもしれない。
勝ち誇った顔で私の泣き腫らした顔を見たいのだろう。

この二日で家を出る準備を整えよう。
両親にも陸にもバレないように。
決して動揺してる姿は見せてはいけない。
少しずつ立ち直っている姿を見せないと。
家を出る時の荷物は最小限にしないと。
携帯も変えなければ。
家を出たらすぐ買い替えよう。

地元の昔からの友達、瑞希の家に少し荷物を送らせてもらおう。そこでトランクに入れ替えてから出発だ。

家を出る事を決めたら、スマホに触るのも怖くはなくなった。

電源を入れると、あの人からの着信が数件あった。

無視して友達にメッセージアプリから荷物を預かって欲しいと送った。

すぐに返事がきた。

“なんのこっちゃわからんけど、わかった。
取りに来た時話し聞かせて”

とアッサリした性格が出てる内容だったが、それが逆に有り難かった。


小さめの箱にスーツやパンプス、カバン、かさばらない服を数枚入れて、もう一つの箱に下着やパジャマ、化粧品や身支度するものを入れた。
今からコンビニに行き、瑞希の家に送ろう。

荷造りが終わり、荷物を持って下に降りると、階段の下に母がいた。

「何?なんでそんなとこおるん?」

「ドアが開いたから、大丈夫かなと思って。」

「ちょっとコンビニ行ってくる。荷物送るから」

「お母さんが持って行くから!」

「いいよ、すぐそこやもん。」

「ダメ!」

「おかしいよ、お母さん、どうしたの?」

「外には行かないで、お願い!」

「理由を言ってよ、なんで?」

「・・・・・・」

「お母さん!」

なんでこんなに外に出したくないんだろう…

「ハア~じゃあ後で行くからいい!」

と言い、部屋に戻った。

帰ってきた時からおかしかった。
なんだろう。

役所に行く時はこんなんじゃなかった。
私が役所に行ってる間に何かあったのは分かる。

まさか…雅彦?
ここに来た?

急いで窓に近寄ろうとした。

でも…

今カーテンは開いている。
もし家の前に雅彦がいたら…

怖くて近付けないが、カーテンは閉めたい。

下を見ないようにカーテンを閉めようと窓に近付き、カーテンを閉めた。
閉める直前、家の前に人がいたような気がした。

そぉーっと少しだけ開けて外を覗いてみた。














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