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怒り狂う友
しおりを挟む玄関のドアを閉めると、涙が出た。
次、いつこの家に帰って来られるか分からない。
でも、離れないとと、歩き出した。
周りを見ても、誰もいなかった。
駅に向かって歩き出してすぐに、
「谷川さん?」
と声をかけられた。
声の方を見ると、昨日のお巡りさんだった。
「あ!昨日の!」
「お出かけですか?」
「怖いので友達の所に泊まろうかと。」
「そうですか。その方が良いかもしれません。お気をつけて。」
「ありがとうございます。家のこと、よろしくお願いします。」
若い爽やかなお巡りさんは敬礼をして、見送ってくれた。
悪い事をする訳ではないのに、ドキドキした。
早足で駅に向かい、すぐ来た電車に乗った。
瑞希の家の最寄駅で降りて、やっと安心出来た。
まだ早いので、駅近のファミレスに入り、時間を潰した。
すると瑞希からメールが来た。
“今どこ?”
“瑞希んちの近くのファミレス”
と送ると、
“待ってて”
と返事がきた。
珍しい。瑞希は在宅で仕事をするほど、家に引きこもっている。
しばらくすると、瑞希が私を見つけて、
「早く来てると思った。」
と言って座った。
「珍しいね、滅多に外出ないのに。」
「麻美の一大事にジッとはしていられない。」
「え?」
「何年の付き合いだと思ってんの?何かあったんだなとは思った。それも結婚間近でなら、ロクでもない事なんだろうと思った。」
「瑞希・・・・私…」
「まだ我慢しろ。家に行こう。」
そう言って、瑞希が私の分のお会計をしてくれて、手を引いて家まで連れてってくれた。
私をリビングのソファに座らせ、
「麻美、何があった?話せる?」
そこからは泣きながら、雅彦の事、あの人の事、私の妊娠の事を時間をかけて話した。
瑞希はその間、黙って聞いてくれた。
全て話終わると、
「ごめん、麻美、我が家にノンカフェインの物がない。すぐ買ってくるから待ってて!」
と言って出て行ってしまった。
瑞希の家のすぐ近くにコンビニがある。
おそらくそこに行ったのだろう。
すぐに瑞希は帰ってきた。
袋にはノンカフェインのお茶、ゼリー、プリン、スポーツドリンク、アイスクリームがどっさり入っていた。
「お好きなのをどうぞ。」
と中身をテーブルにぶちまけ、自分はプリンを取った。
「じゃあお茶とアイスもらう。」
残りを冷蔵庫に入れて戻ってきた瑞希は、
「ごめん、これから私、怒るけど、お腹の赤ちゃんビックリさせたらごめん!」
そう言うと、
「ハア⁉︎なんなん⁉︎なんなん、その話⁉︎
半年前から⁉︎二人で会ってた⁉︎来月結婚するってのに⁉︎それで、妊娠⁉︎アホ?アホなん?
そんで、その女!
あたし、こんなに腹立った事ないわ!
ないわ~しっんじ、られへん!
ぜっーたい、許さへん、麻美が許してもあたしは許さへんし、どんな手使ってもその女に目にもの見せたる!
そんで、実家に来た⁉︎どーせ、SNSで写真拾いまくって、実家突き止めたんやろ⁉︎
そんな暇あるなら仕事しろや!
ストーカーやん!きも!キモいわ~。
何?逃げられないわよってか!
アホか⁉︎そんなんして捕まるんわ、お前じゃ!あったま、悪い女は爪が甘いわ~!
で、警察呼んだら逃げよった⁉︎
逃げるんやったら、最初から来んなや!
クソが!」
瑞希の勢いにポカンとしてしまったが、瑞希らしくて笑えた。
瑞希は小学校から一緒で、いわゆる幼馴染みだ。
私は大人しかったので、虐められてはいなかったが、男の子が面白がって私を揶揄ったりしていた。
それを瑞希が飛び蹴りで登場し、男の子達を蹴散らしてくれていた。
瑞希は集団が嫌いなので、大人数で連むなんて、“ありえへん”事らしい。
でも私とは一緒にいてくれた。
中学、高校と一緒だったが、大学で離れた。
それでも連絡は取り合っていた。
その瑞希が、目の前で母のようにブチギレている。
「瑞希、そんなに怒ると血圧上がるよ」
と言うと、
「言い足りないわ!」
とまだフーフー怒っている。
自分の事ではなく、私の事でこんなに怒ってくれている瑞希が有り難くて、また泣いてしまった。
「良い!麻美は泣いていい!泣くべきだ!
あたしは悔しい!何もしてないやん、麻美。
なんで、こんな事やられなあかんの?
悔しい…悔しいよーーーーー」
と瑞希も泣き出した。
二人で目が開かなくなるほど泣いて、スポドリを飲んで、また泣いてを繰り返し、ようやく、
「なんかお腹空いた…」
と瑞希が言い、台所で何かを作り出した。
「お食べ!」
テーブルに出来立ての卵焼きがドーンと置かれた。
「これくらいなら食べられる?」
「うん」
二人で黙って卵焼きを食べた。
「瑞希…美味しい…」
「うん、いっぱい食べて少し太れ!」
その夜はここ数日で一番安心して眠れた。
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