私は貴方から逃げたかっただけ

jun

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瑞希の所で久しぶりにぐっすり眠れた私は、早くに目が覚めた。

瑞希はまだ寝ている。

泣き過ぎたからか、瞼が重い。

冷そうと思い、タオルを濡らして目に当てていた。

熱を持った瞼が冷やされて気持ち良い。

タオルを外し、瑞希の本棚を見た。

瑞希はいわゆる投資家と言われる、株取引で生活している人だ。

私は株の事は分からないが、パソコンを何台も操作し、一日中パソコンの前にいる。
その瑞希がわざわざファミレスに来てくれたり、私に付き合って、泣いたり怒ったりしてくれた事が、申し訳ないと思いつつ、嬉しかった。
だけど、いつまでも邪魔はしちゃいけない。
そろそろ何処に行くか決めなくては。

本棚には株の本以外にも、たくさんのジャンルの本がある。

その中に桜の名所がたくさん載っている本があった。

パラパラと見ていて、“あ、ここ綺麗だな”、“ここも綺麗…”と思った場所は、埼玉と福島と大分の桜だった。

埼玉…福島…大分…行った事がない。
知り合いもいない。

埼玉と福島は東京から近いな…。
じゃあ大分?あまりにも遠いかな…。

東京からは離れたい。何処に行こう…。


「何見てんの?」

瑞希がいつの間にか起きていた。

「桜、綺麗だなぁって思って。こんな綺麗な桜毎年見れたら良いなって思ってただけ。」

「今行っても見れないよ。」

「分かってるよ、いつかって話し。」

「ねえ、麻美、麻美は遠くに行こうとしてる?」

「・・・・・・・」

「ウチに送った荷物って何?」

「それは…」

「誰にも言わないで行こうとしてる?」

「・・・・・・・」

「私にも?」

「何処に行こうかまだ決めてないけど、もう実家には帰れない。私がいたらあの人が昼間一人でいるお母さんに何かしたらと思ったら、私はあの家にはいられないよ!
妊娠してる事が分かったら今より酷い事するかもしれない!
警察だって、ずっといるわけじゃない。だから、せめて、子供を産むまでは誰にも邪魔されたくないの!」

「逃げるの、アイツらから。」

「逃げるよ!二度と会いたくないもの!もう限界なの…、可哀想な目で見られるのも、勝ち誇った顔で見られるのも、私が悪者みたいな目で見られるのも!」

「分かったよ、分かったから興奮しないで。」

「本当に・・・限界なの…もう嫌なの…」

「麻美、一つだけお願い聞いてくれる?」

「何…?」

「私ね、高知に一戸建てがあるんよ。たまにしか使わない。だから、そこに住んで欲しい!子供一人で生んで育てんのに、生んですぐに働かなきゃならない。生活費も稼がなきゃあかんから。部屋借りれたとしても、すべて買い揃えなあかん。カーテンも食器もテレビも冷蔵庫も洗濯機も何もかも。その上、ベビー用品も買わなあかん。食費も光熱費も病院に通うお金も、入院費もある。
だったら、そこに住んで、子供生んで、育てて、ゆっくり仕事とか保育所探せばいい。
家具は揃ってる。家賃も光熱費もいらん、駅にも近いし、買い物も楽。
お願いだからそこに住んで!
掃除してくれたら、給料も払う!
たまにあたしが行ったらご飯作ってくれれば良い!
そんな状態で遠くに行ったら麻美が死んじゃう…」

「瑞希・・・」

「一生のお願い!お願いだからそこに住んで!誰にも言わない!
おばちゃんにもおじちゃんにも陸にも言わない!麻美、お願い、そこに住んで…」

「瑞希に迷惑になるよ…」

「迷惑になんかなるわけないやん!」

「お金は働いて返すよ。」

「働けるようになったらね」

「そんな、瑞希に甘えていいのかな…」

「こんな時、甘えなくていつ甘えんの!」

「私…瑞希に甘えようと思ってここに来たんじゃないよ…」

「分かってるよ。一人で黙って行くつもりでいたんでしょ?」

「うん…」

「麻美、今は甘えな。あたしはあんま行ってあげれないけど、居場所が分かってるならいつでも助けに行く。何処にいるか分からんかったら、助けにも行けない。
だから、そこに行き。」

「ありがとう…瑞希…ありがとう…」

「何も心配いらん。あたしが付いてる。」

私はまた泣いて瑞希に甘えてしまった。

でも、瑞希が本気で心配してくれてるのが分かって、本当に有り難くて涙が止まらなかった。
「とにかく、これからの事を考えよう。」

そう言った後、瑞希は朝食を作り出した。

ちゃちゃっと作り終えた瑞希と、生姜が入った、さっぱりした煮込みうどんを食べた。


その時、私のスマホのバイブ音がした。

気が緩んでいた時だったし、朝早い時間に来たメールに思わず、家で何かあったのではと、確認もせずにメールを開いてしまった。


開いたメールには、画像が添付してあり、何かと思い、見てしまった。





その画像は、赤ちゃんのエコー写真だった。

そして、スクロールした先に書かれていたのは、

“私と雅彦くんの赤ちゃんなの。麻美ちゃんには見せてあげようと思ったのに、会えないから。”



だった。










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