私は貴方から逃げたかっただけ

jun

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入院

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目が覚めると、見慣れない天井で、薬品の匂いに倒れた時の事を思い出した。

「ここは…病院?」

腕には点滴をされ、ここは救急の病室のベッドのようだ。

だいぶ意識もハッキリしてきた。

するとカーテンが開き、看護師の女性が私が目覚めた事に気付いた。

「あ、目が覚めましたね。どこか痛いところはないですか?気分は悪くないですか?」

「痛いところはありません。気分も今は悪くないです」

「そうですか。今、先生呼んできますね。」

そう言って出て行くと、すぐ先生がきた。

「こんにちは。僕は、産婦人科の名取と言います。気分は悪くないですか?」

「はい、今は大丈夫です。」

「倒れた時の事を覚えていますか?」

「散歩をしていて、少しフラフラするのでしゃがみ込んでしまい、立ちあがろうとしたその後は覚えていません。」

「あなたの身元がわからなかったので、少しカバンの中を確認させて頂きました。
母子手帳が入っていたので、僕が呼ばれたんですよ。谷川麻美さんで間違いないですか?」

「はい。どなたか救急車を呼んでくれたんでしょうか?」

「そうです。後ろを歩いていた方が気付いて、救急車を呼んでくれたんですよ。
悪阻が酷かったのかな?貧血気味ですね~。あまり眠れてもいませんか?」

「あまり食欲がなくて…少ししか食べていません…食べても吐いてしまって…。
夜は、比較的眠っていると思いますが…色々あったので…。」

「そうですか…今も食欲はないですか?」

「はい…あまり食べたくはないです…」

「谷川さんの体調はあまりよくありません。少し入院した方がいいレベルです。
ご主人は?」

「・・・いません。」

「じゃあ、ご家族は?」

「遠いので…それに…」

「分かりました。谷川さん、赤ちゃんの為に体調を整えましょう。かかりつけの産婦人科はありますか?」

「いえ、最近ここにきたばかりなので…」

「どちらにお住まいですか?ここに通えるならこれからも相談にのりますよ。」

「よくこの辺の事が分からないので、今住んでいる所は、えーと、スマホを見れば分かるんですが…」

「スマホはカバンの中に入っていましたよ。」

そう言って私のカバンを取ってくれた。

「ありがとうございます。」

スマホを出し住所を言うと、

「ここならこの病院に通ってはどうでしょう?」

「この病院はどこにあるんでしょう?なんて言う病院ですか?」

「ここは高橋総合病院です。谷川さんが住んでいる所からならバスで来れますよ。小児科もありますし、お子さんが生まれてからも通えますよ。」

「そうですか…」

「とりあえずしばらくは通って点滴を打ちましょう。2~3日入院したら早いんですが。」

「通うのは少ししんどいので、数日で済むなら入院します。」

「分かりました、その方が良いので良かったです。着替えとかは売店でも買えますので、そちらで揃えて下さいね。」

「分かりました。」

「入院手続きをしますね。もう少しここで待っていて下さい。」

先生が出て行き、看護師さんが、

「喉が渇いたりしてないですか?トイレも大丈夫ですか?」

「大丈夫です。」

「じゃあ、何かあったら呼んでくださいね」

看護師さんもカーテンを閉めて出て行った。

先生も看護師さんも感じの良い人だった。

私が行こうと思っていた病院ではなかったが、ここでも良いかと思った。

トロトロしながら待っていると、先生が来てくれた。

「谷川さん、産婦人科の病室に移りましょう。点滴はもう終わりそうですね。交換してから行きましょうか。」

先生が新しい点滴に替えた後、病室まで後に付いて行った。

「谷川さん、言いたくなかったらいいんですけど、ご出身は関西なんですか?」

「はい。先生は高知なんですか?」

「いえ、東京です。大学が関西だったのでそのままこっちに残りました。」

「私、この間まで東京に住んでました。」

「そうなんですか?どの辺に・・・って、なんかすみません、ナンパしてるみたいでした…。」

「いえ、そんな事ないですよ。」

「谷川さん、そうですよ、その笑顔を忘れないで下さいね、お母さんが悲しいと赤ちゃんに伝わってしまいますからね。」

「そう…ですね、頑張ります…」

「あ~暗い顔になってしまいました…。でも、無理はしないで下さいね、負担にならない程度に、笑って下さい。」

「はい…もう少し、落ち着いたら、笑えるように頑張ります。」

「頑張らなくても良いですよ、頑張らなくても笑えるようになりますよ、大丈夫です。」

「…ありがとうございます。」


頑張らなくても笑えるようになるだろうか…


「はい、谷川さん、ここが病室になります。4人部屋になります。窓際になります。」

奥の窓際のベッドに私を連れて行き、

「何かありましたら、すぐ呼んで下さいね。」

そう言うと先生は、同部屋の人達に声をかけてから、出て行った。

同部屋の人達に軽く挨拶をした後、看護師さんが、入院手続きの書類や入院案内をもってきてくれた。

「すみません、携帯電話は使えますか?」

「機械を付けている方が近くにはいないので、病室では使えますが、電話は決められた場所か、外でお願いします。メールとかは大丈夫ですから。」

「ありがとうございます。」


看護師さんが行った後、瑞希にメールした。

すぐ返信がきて、心配していた。

その後は売店に行ったり、書類を書いたりしていた。


ベッドに横になり、カーテンで仕切ってはいるが、人の気配に落ち着かない。

この病室は面会に来る人も少ないらしく、それがまだマシだ。

私には面会に来てくれる人はいない。

ま、当たり前だけど。


どんどん暗くなる思考が嫌になり、目を閉じ、無理やり眠った。














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