私は貴方から逃げたかっただけ

jun

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谷川家vs友利先生

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気を失って、どれくらい経ったのだろうか…。

リビングに行きたいけど、あの人がいるかもしれないと思うと、足が動かない。

どれくらい部屋をウロウロしていたのか…耳を澄ますと、母や陸、雅彦の声が微かに聞こえる。
でも、遠くて聞こえない。
ドアを少し開けて、様子を伺った。

声はキッチンの方でしていた。
なにやらゴリゴリと音がする。

殺伐としているのかと思えば、なんだか穏やかな空気だ。

そうっと下に降りると、キッチンに三人がいる以外誰もいない。

あれ?と思っていたら、一斉に三人が振り返った。

ギョッとしてると、

「麻美、大丈夫なの!具合はどう?」

「麻美、そんな顔色で歩いてはダメだ!」

「姉ちゃん、アレは帰ったよ、おとんと弁護士の先生が最寄駅に送っていった」

「あ…そうなんや、良かった…」

「麻美、そこに座ってて!何か掛けるもの持ってくるから。身体冷えてるから!」
と言って、母が走って行った。

「こんなに手が冷たくなってるよ。」
と雅彦は私の手をゴシゴシ摩っている。

「ありがとう、大丈夫だからそんなにゴシゴシしないで。痛いよ。」

「ごめん・・ごめん・・・本当にごめん…」

「そ、そんな泣くほど怒ってないよ!」

「麻美があの女からされた嫌がらせの数々を聞いた…一人でよく頑張ったね…一人にさせてごめん、助けてあげられなくてごめん、そして、赤ちゃんを守ってくれてありがとう…」

「雅彦…」

「だーかーらー、俺がいるから!二人の時にやって!」

その時、お母さんが膝掛けと毛布を持ってやってきた。

「ほら、これかけて。身体温めなさい。何か食べる?お腹空いたね、そういえば。」

「いやいや、今から弁護士来るのに勝手に食べられへんやろ!」

「あ、そっか。じゃあ麻美だけ、ホットミルク飲む?」

「うん」


私以外はコーヒーを飲んで、四人で無言で飲んだ。

「さっき陸がザクっと言ってたけど、結局あの人はここに来なかったの?」

「「「入れるわけない(やん)!」」」

「そ、だね、良かった。」

「アレは弁護士の先生の車でお父さんも混じって少し話してたみたい。とにかくお父さん達が帰ってきてから詳しいこと聞こう。」

「そうだね、もう帰ってくるんかな?」

「そろそろ帰ってくるとは思うんだけどね。」

「そっか、そういえばキッチンで何してたの?ゴリゴリゴリゴリ聞こえてたから。」

「あーーー胡麻すってた」

「ん?胡麻?三人で?」

「そう、意外とね、無心になれるから心を落ち着けたい時には良いのよ。」

「へえ~知らなかった。今度、やってみる!」


ピンポーン♪

四人がビクッとなった。
お母さんが画像を見て、ホッと肩の力が抜けたので、私達の力も抜けた。

「お父さんだった。」

玄関にお母さんが鍵を開けに行った。

そして、ようやく弁護士の先生を交えて今後の話しをする事が出来た。
私と雅彦の話しを聞き終わると、


「先程見せて頂いたエコー画像は充分証拠になります。
母子手帳をあの方が持っているのであれば、提出もしていただきます。
お腹の子供も佐々木雅彦さんの子供の可能性はありません。
酔って泊ってしまった時に何があったのかは何もなかったと証明出来るものがありませんので、当人同士の話しになります。
あの方には、結婚式のキャンセル料や麻美さんのストレスによる体調不良の治療費等も追加で慰謝料を請求する事が出来ます。
しつこい付き纏いや嫌がらせ電話も履歴が残っていますので、警察へ被害届も提出出来ます。
後、この件は実に悪質です。
もっと正式に裁判も行える事案ですが、どうしますか?麻美さんの体調もありますので、無理にはお勧めしません。
相手とのやり取りは私が全て行いますので、今後会う事もありません。
それは佐々木雅彦さんにも言えます。
佐々木さんも慰謝料の請求は充分出来ますので。
詳しい資料は後日送らせて頂きます。
麻美さんはこちらにずっといらっしゃるのであれば私が対応します。
佐々木さんは東京ですので、私の信用出来る弁護士を通じてのやり取りになりますが、よろしいでしょうか?」

「私は体調の事もあるのでもうしばらくはここにいますが、いずれは大阪に帰ります。」

「俺は麻美に会いに大阪にちょこちょこ来ますが、来れない時もあると思うので東京で話しが出来るのであれば助かります。」

「では、そういう事で。

はい!じゃあここからは普通にお酒でも飲んで、奥さんの手料理食べながらで行きましょか!」

「よし!今日は疲れた、飲むぞーーーー」

の掛け声で、さっきまでの真面目モードから宴会モードに変わり、私と雅彦は中々乗り切れず、もそもそと食事していた。

「いやあ、それにしても彼氏さん、ど偉い人に目ぇつけられて、大変でしたね~男前はブサメンには分からん苦労があるんやなと思いました~。でも、あのビックリするほど厚化粧した素顔は別人だろうなって思うあの人、アレの所業はひっどいわ!
あんなんおらんわ、初めて見たわ、ビックリした。いやいや、ホンマに勉強なったわ、こんな悪意の塊みたいな人間おんねやって勉強になった。」

「俺も40何年生きてきて、こんなに怒った事も殺意が沸いた事もなかったわ。
下手したらあの女の事…ま、ええわ、でも、あの女がアホで良かったわ。自分で証拠品送りつけてきてたんやからな。」

「自分の子供の事、大事にしてたら気付いてたんやろうけど、ちっとも考えてなかったんやろね…お腹の子も可哀想やわ…」

「あの女、きっと姉ちゃんと雅彦くんだけだと思って、舐めてたんやろな。
初めて“ザマアミロ”って思った人に会うたわ。」

「俺は…自分がこんなにポンコツだなんて思ってませんでした…。大事な、大切な麻美を守る事もできませんでした…。
反省するばかりです…」

「私…今回の事で、こんなにメンタル弱かったんやなって思いました。いい大人なのに逃げるて、結局あの人の望むような事ばかりしていました。私もポンコツでした…。
みんなに迷惑も心配もかけて情けないです…」

「麻美さん、計画的に長期間あの人からの悪意を少しずつ浴びせられ続け、突然牙を向けられたんです。
それにあの人は貴方が一番傷付く方法を敢えて選んで攻撃したんです。
麻美さんが佐々木さんに連絡をしない事を見越して。
だから貴方の行動は間違ってはいないし、落ち込む必要もない、正しい判断をしたから。
ただ、家族がいるところで一度でも佐々木さんと会って話せばもう少し楽だったかもしれませんけどね。
ま、私の娘が同じ立場だったら、そんな彼氏家にあげませんけど。」

「あの…なんかすみません…」

「俺も…」

「おい、友利!お前何気に娘の事ディスったな!ちょっとお前、外出ろや!」

「ハァ~ヤダヤダ、親バカ。ホンマの事やろが!一言彼氏と話せば早よ済んだ話しやろが!」

「てめえ!「ハア⁉︎ちょっとアンタ、今なんて言うた?まさかウチの娘と大事な婿殿小馬鹿にしたんか⁉︎アンタ弁護士やろ?
依頼者貶すんが弁護士の仕事か、何様やねん、もう帰れ、お前には頼まん、帰れ!」」

「ちょ、ちょっとお母さん、落ち着いて、お父さんもね、友利先生、態々来てくれたんだから。」

「麻美、コイツはやらせてくれって自分が言ったんだ!なのに結局コイツは麻美を傷付けた!あの女と同じだ。そんな奴だとは思わなかった、俺は、俺は、麻美がボロボロになって新大阪の改札から泣きながら抱きついてきたあの日を忘れない!
なんも知らんコイツに、文句なんか言わせん!とっとと帰れ!」

「私も最終の新幹線の中から泣きながら電話してきた麻美の声を思い出すと、今でも胸が苦しくなる…。」

「俺は東京で雅彦くんを見てガタガタ震える姉ちゃんが、忘れられない…。
あんな弱々しい姉ちゃん見た事なかったからビックリしたし、めちゃめちゃ雅彦くんに腹が立った、何してくれてんねん!って。」

「ちょ、ちゃうねん、麻美さんの事文句言ったわけじゃない!
言い方悪かった。傷付けるつもりもなかった。
奥さんホントすみません。
谷川も陸くんもごめん。
麻美さんも雅彦くんもごめん。
あかんな、俺、どうにも酒が入ると口悪いというか、気が利かんというか、弁護士として最低でした。

谷川家の皆さん、佐々木雅彦くん、本当に申し訳ありませんでした。」


みんな、飲み過ぎやと思う…。

その後は谷川家が友利先生をディスりまくって、先生は悪酔いして結局泊まった。

私と雅彦はそう~っと部屋に戻り、お風呂に入って寝た。

お酒って怖いねと言って久しぶりに雅彦と寝た。


我が家ってこんなだったかなと思いながら眠りについた。
とにかく疲れた…














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