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初めての喧嘩
しおりを挟む今日はシモンに会う日。
みんなに無理はするなと毎日言われたが、覚悟は出来ていた。
それでも当日を迎えると、あの日を思い出し、身体が震えそうになる。
それでも会う事を止められるのが嫌で必死に笑顔を作った。
そしてシモンとお義父様が到着したと告げられた。
お母様とハンナに連れられ、応接室に行くとお義父様とシモンが二人掛けのソファに並んで座っていた。
シモンと目が合うと、身体が震えた。
一度ギュッと目を閉じ、深呼吸した。
お母様は背中を撫で、ハンナは手を握ってくれていた。
『側にいるから、大丈夫よ、みんな臨戦体制だからいざとなったら飛びかかるから』と小声で私に話しかけたハンナに少し緊張が解れた。
「お待たせ致しました。」
少し声は震えたけど、きちんと挨拶出来た。
私をお父様の隣りに座らせるとハンナとお母様は退出した。
シモンの顔が見れなくて俯いてしまう。
そんな私の手をお父様が優しく握ってくれた。
「大丈夫かい、シャル。無理なら部屋で休んでいても良いんだよ、日を改めても構わないんだからね。」
「大丈夫よ、お父様。ちゃんと話しをしないとこれからの事を考えられないもの。
大丈夫。ありがとう、お父様。
マシューお義父様もシモンもお越しくださりありがとうございます。」
「そんな事は気にしなくても良いんだよ。
体調は大丈夫かい、長く寝込んでいたと聞いたよ。無理はしなくていいからね。」
と私を気遣ってくれるお義父様。
そしてようやくシモンに目を向けると、今まで見た事がないほど窶れ、痩せたシモンがいた。
泣いたからなのか、寝不足だからなのか目も真っ赤になっている。
顔色も悪く、私よりもシモンの方が心配なほどだ。
そんな姿のシモンを見て、思わず涙が出そうになるのをなんとか堪え、シモンを真っ直ぐ見た。
「今日はあの時言えなかった事を全部言わせて欲しいの。
二人になるのは怖いけど、二人きりで話したい。
でも、絶対近寄らないで欲しい。
触れられる距離には近寄らないで。
それを守ってくれるなら二人きりで話したい。
お父様達、よろしいでしょうか?」
お父様達は私を心配してくれたが、了承してくれた。
二人きりになった部屋で、私もシモンもしばらく何も喋らなかった。
私は俯いて手を握りしめていた。
ようやく顔を上げてシモンを見ると、シモンは真っ直ぐ私を見て泣いていた。
それを見て、堪えていた涙が溢れた。
「どう…して、リリアを…抱いたの…どうして…?どうして…待てなかったの?
私を抱くよりも気持ち良かったから?
だったら娼館に行けば良かったじゃない!
その方が許せた!
嫌い、シモンなんか嫌い!
リリアも大嫌い!
リリアを抱いたシモンなんか嫌い!
汚い!あんな…あんな…所で、誰が来るかも分からない場所で、私が帰ってくるのを知っていたのに、見せつけるように、あんな所でやってるなんて信じられない!
もう絶対シモンには触らないし、触れてほしくない!
例え仲直りして私を抱いても、あの子と比べているかもと思ったら二度と抱かれたくなんかない!そんなの耐えられない!
抱きしめられても、キスされてもあの子を思い出すわ、きっと!
夜抱きしめられて寝ても、あの子ともこうやって寝ていたんだと思ったら一緒になんて眠れない!
ねえ、私はどうしたら良いの⁉︎
こんなにシモンが好きなのに、もう触れる事も、抱きしめる事も、キスする事も出来ないのに、どうやって夫婦でいられるの⁉︎
ねえ、教えてよシモン!
私はこうやってシモンの顔を見る度に貴方に汚い言葉をぶつけるわ!
そんな妻なんてもういらないでしょ?
だってもう他の人の事も抱けるようになったんだもの!
ねえシモン、私だって離婚なんかしたくない、だってまだ愛してるんだもの!
でも、貴方を許せない!
愛してるのに、貴方が大嫌い!」
泣きながら喚き続ける私を、泣きながら黙って見つめて聞いていたシモン。
フーフー、肩で息をする私にシモンが静かに話し始めた。
「そんなに痩せるほど苦しませてごめんね…。
裏切った俺に何を言われても信じられないだろうけど、
俺が愛してるのはシャルだけだ。
どんなに嫌われても、どんなに罵声を浴びせられても、シャルを嫌いにはなれないし、近くにいてくれるだけで俺は嬉しいし、幸せだから。
死ぬまで許さなくて良いよ。
死ぬまで罵声を浴びせて構わない。
その度にシャルに愛してるって伝えるよ。
殴られたって良い、怒鳴られても良い、ただシャルがいてくれるだけで良い。
不安になったら何度でも愛してるって言う。
怒りが湧き上がったら怒鳴れば良い。
その後何度でも愛してるって伝えるよ。
何百回、何千回、何万回も伝える。
俺はシャルーナだけを愛してるって言うよ。
シャルがもう限界だと思っても、俺は俺が死ぬまでシャルに俺の愛を伝え続ける。
二度と裏切らないし、シャルが安心するなら医者に行って勃たないように処置してもらう。
貞操帯をつけても良い。
シャルが俺への愛情が無くなったって言うなら離婚に同意するけど、ほんの少しでも愛情が残ってるなら、側にいて欲しい。
お願い、側にいて欲しい。
シャルが納得するまで別居しても構わない。
シャルが許しが出るまで近付かない。
だから、シャルーナ・フォックスのままでいて欲しい。
お願いします…お願いします…。」
そう言って頭を下げたシモンを涙と鼻水でぐちゃぐちゃのまま見つめた。
興奮していたけど、シモンの静かに話す声を聞くうち落ち着いた。
頭を上げて私の顔を見たシモンがハンカチを出した。
「シャル、少しだけ近付いても良い?涙を拭いてあげたい。」
ハンカチを出したままそう言うと、テーブルの向こうから見を乗り出してきたから、ハンカチを奪い取った。
適当に涙を拭いて、シモンのハンカチで鼻をかんだ後、投げつけてやった。
それをシモンは拾ってポケットに入れた。
「そんなハンカチ捨ててよ!変態!ケダモノ!浮気者!」
「捨てないよ、シャルの涙と鼻水が付いてるもの。俺の宝物だ。」
「気持ち悪い!あっち行け、ハレンチ野郎!」
「行かない。シャルに久しぶりに会ったんだから。」
「嫌い、シャルなんか大嫌い!シャルの股間のモノが腐っちゃえばいい!」
「腐ったらおしっこが出来なくなるから切るしかないかな。
切ったら許してくれる?」
「おしっこって言うな!
え?切ったらおしっこは何処から出るの?・・・・って違う!そんな事関係ないじゃない!」
「シャルが腐れば良いって言うから切れば良いかなと思ったんだよ。
切っても出る場所は同じなんだから、赤ちゃんくらいの大きさくらいは残してくれるんじゃないかな。」
「ええ⁉︎そうなの⁉︎」
「多分ね。でもシャルが許してくれるなら本当にそうしても良いよ、俺は。」
「そんな事したら再婚出来ないじゃない…」
「もしシャルと離婚したらもう誰とも結婚なんかしないから、無くても良いかな。
ていうか、離婚はしないで、シャル。」
「今はまだ分からない…。どうして良いのか分からない…。
ロビンの為にも離婚は避けたいけど、あの日の事が目に焼き付いて離れないのが辛い…。
シモンがリリアを抱いてる姿が忘れられない…。
苦しいよ、シモン。
嫌だよ、シモン、他の女の人に触れるのも抱くのも嫌だよ…でもシモンは私の目の前で他の人抱いていたのを見てしまったもの…目を閉じても眠っても浮かぶもの…。
助けてよ、シモン…助けて…」
「シャル、抱きしめてはダメ?
暴れても良いから、吐いても良いから、殴っても蹴っても良いから抱きしめさせて。
お願い、そんな顔で泣いてるシャルを一人で泣かせるなんて出来ないから。」
「一回だけ…吐いたらごめん…叫んだらごめん…殴るかもしれないし、怒鳴るかもしれないけど、お試しでお願いします…」
恐る恐る私の隣りに座ったシモンに一瞬ビクッとなったが、まだなんともない。
「抱きしめるよ。」
そう言ってそっと抱きしめたシモンの温かさにホッとした。
そして久しぶりのシモンの香りにまた涙が溢れた。
それからはまた泣き喚いた。
ほぼさっきと同じような内容で、シモンをひたすら詰った。
「変態、スケベ、どスケベ、エロ親父、腐れチ○コ・・・」等思いつく限りの悪態を泣きながらついた。
それをシモンは、
「そうだね、変態だ。スケベだし、どスケベだ。エロ親父でもあるかな。
最近よく見てないから本当に腐ってるかもしれないね」とか一々悪態に答えながら、私の背中を摩っていた。
私はその間、シモンの胸に抱かれたまま泣き疲れて寝てしまった。
夕方目が覚めた時、シモンはもういなかった。
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