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シャルルの話し
しおりを挟むそれからはシャルルの母親の行方を諜報部隊に追ってもらった。
元々シャルルと母親を監視していた奴等は、変わり映えのない1日に“サボっても分からないだろう”と監視をさぼり、休憩時間を長めに取ったり、休んだりしていたらしい。
なので相手も監視されているとも思っていないので、普通に修道院からシャルルを連れて逃げたらしい。
協力者がいたのかは今のところ不明。
修道院での生活は報告されていたらしいが、“問題なし”だった為、左程注視していなかったらしい。
改めて聞き取りをしてみると、シャルルの母親、元ザリール男爵家の令嬢フランシス、娼婦になってからはフランと名乗ってたその女性は、妊娠中は真面目に生活していたそうだ。
シャルルを生んでからガラッと変わったのだとか。
“この子は高貴な方の血を継いでいる”
“いつかこの子を迎えに来る”と周りに言い出したらしい。
いろんな事情で修道院にやってくる女性は多いので、修道院としても心を病み、妄想して心を守る者が多いのでその類だと思い、放って置いたのだとか。
シャルルへの厳しい躾けも注意していたが、全く聞かず困っていたのだとか。
孤児院の子供達とシャルルが遊ぶのも気に入らなかったようで、よくシャルルを叱っていたと孤児院の子供達が教えてくれたのだとか…それでも母親を心配していたシャルル…きっと優しい時間もあったのだろう・・・と思いたい。
そして気付けばフランはシャルルを連れていなくなっていたが、たまに修道院に来る業者の男と長い時間話していたのを聞き取ると、その男を追った。
その男は荷物をシャルルが屋敷に来たあたりに運んでいた事が分かった。
おそらくその男がシャルルを連れてきたのだろう、食事もさせずに。
今その男を捕まえ、フランの居所を聞き出してる所だ。
そして俺とリジーはシャルルに今後の話しをする為、滞在している王宮の王族専用の食堂にいる。
本当は静かに話しをしたかったが、マクスが「まくちゅも、いっちょね~」と言って離れなかったので、広くて、食べ物や飲み物もすぐ準備が出来て、呼ばない限り誰も来ない食堂で話す事になったのだ。
遠ーい片隅でマクスはメイド達と遊んでいる。
そして時折シャルルの前にお菓子を一つずつ積み上げるマクスを見守りながら、シャルルとの面談が始まった。
「シャルル、あまり緊張しないでね。
シャルルのね、お母様の話しをして欲しいの、シャルルも心配でしょう?
今お母様が何処にいるのか分からないから、探したいの。
その為にお母様の事を教えてくれる?」
とリジーが優しくシャルルに問いかけた。
「母様は…いなくなってしまったんですか…」
小さな声で呟く姿は、今にも泣き出しそうで切なくなる。
「シャルルとお母様がね、どうやってここまで来たのか分からないから、何処でお母様がシャルルを待ってるのか私達には分からないの?シャルルは何か知ってる?」
と聞くと、
「ぼく…夜…ねてる時に…荷馬車に乗せられてて…起きたら母様はいなくて…。
おじさんは…なにも教えてくれなくて…このお屋敷に…近くで降ろされました。
手紙を渡されて…ここのお屋敷の人に渡せって…。母様が迎えに来るまで…待ってろって…。ぼく…なにも…分からなくて…」
とポロポロと涙を溢し泣くシャルルの姿に、リジーと俺は駆け寄り、リジーは涙を拭いてやり、俺はシャルルを抱きしめた。
気付けばマクスがシャルルの足にしがみついて「ヨシヨシよ」と足をポンポン叩いていた。
「シャルル、大丈夫よ、貴方の母様は何処かでシャルルを迎えに行く準備をしていると思うの。
だからそれまではここで待っていたら良いわ。私達であなたの母様を探すから、何も心配しないで。」
涙をハンカチで拭きながらリジーが語りかける姿は本当の母親のようだ。
「だいじょぶよ~」とマクスの合いの手が入りながら、質問は続く。
「シャルルとそのおじさんは知り合いなの?」
「たまに…見たことがありました…母様と話してたから…。」
「お名前は分かる?どんなお仕事をしていた人なのかな?」
「名前は…ダニーと母様は…呼んでいました…。修道院に…小麦粉とか、野菜とかをとどけていたと思います…」
「ダニーって人がシャルルを連れてきたのね?」
「はい…」
「シャルルのお母様はどんな方だったの?」
「母様は…優しかったけど…食べ方とか、話し方とか、乱暴だとすごく、怒ることがあって…そのときは…少しこわかった…。
でも眠るときは、いつも抱いて寝てくれたから…。」
「叩かれたりしたの?」
「手とか、足とか…。その時は…いつも大きな声で怒るようになって…。」
思い出したのか身体が震えている。
シャルルの背中を撫でてやった。
「どんな風に怒ったの?段々怖くなったの?」
「最初は…叩かなかったのに…だんだん、お前は“こうきな方の子なんだから”って怒るようになって…叩くように…なりました…。
怒ってる時は…“シリル様はどうして来ないの”って何回もぼくの手を…叩きました…。
痛くて泣くと、また怒られて…。
前の院長先生は優しかったし、ご飯もちゃんと食べれたのに…新しい院長先生に…なったら…ご飯も食べれない時があったし…みんな痩せて…母様も院長先生の事しか話さなくなって…」
俺は怒鳴り出したいのを堪え、小さな背中を何度も撫でた。
リジーも泣きながら、シャルルの涙を拭いた。
マクスは分からずとも、皆が泣いているので一緒に泣いている。
「そうなのね…頑張ってたのね、シャルルは偉いね、もう痛い事はないわ、お母様もちゃんと私達とお話ししたらそんな事しなくなるわ、大丈夫よ。
孤児院のお友達も私達が助けるわ。
ありがとうシャルル、これで母様が何処にいるのか探しやすくなったわ。
さあ、マクスが積み上げたお菓子を食べて。
喉も渇いたでしょ、マクスも一緒にね。」
これ以上シャルルに負担がかからないようにと話しを切り上げた。
いつの間にかマクスも泣き止み、
「まくちゅもたべゆ!」と座っているシャルルによじ登ろうとしていたので、マクスの椅子をシャルルの隣りに移動して座らせた。
シャルルもホッとしたのかマクスとお菓子を食べ出したので、リジーと俺の部屋に向かった。
部屋に入ると、
「「手紙!」」
そう、俺達はシャルルが持ってきた手紙の存在をすっかり忘れていた。
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